赤とんぼ 虹色創作部
君と 【500字】
ぼくたちの屋根のように漂っていた赤とんぼは、消えかかる夕陽とともに薄くなっていった。
君の横顔は夕陽に溶ける赤とんぼを見ているのだと思った。
ぼくが近況を訊いても、君は「ふーっ」と言っただけだった。わからなくはないよ、他所ではこんな風景に出会うことはまずないだろうから。ぼくだってどこにこれだけの赤とんぼがいたんだろうって思っているんだ。
半年前に君がここを去ってからは、何もできなかった。手を動かしても、足を動かしても、何も作れなかったし、どこにも行けなかった。
ある日、ぼくは郵便局に君への手紙を出しに行ったんだ。110円の切手を買って貼ろうとしたら、手紙に君の住所を書いていなかった。何をやってるんだか、ぼくにもわからないよ。
そのくせ君と荷物を持ち込んだ時のことが甦って、窓口で何か言ってる君の姿が見えたんだ。
もうすっかり新しい生活に馴染んでいるのかな。君はそういう性格だから、どこでも上手くやっていけるんだろうなって思う。
でも、ぼくにはそれはむずかしいよ。不器用なんだ。君が忘れられなくて。
夕陽の最後の欠片が山の向こうに落ちたとき、ベンチの君の姿も赤とんぼもぼくの目にはもう映っていなかった。
了

虹くりっぷさん
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