Photo by
x4a4n
【ショートショート】 『最後の大掃除』
大晦日。
これで部屋に静寂が訪れるだろう。男はロープをカーテンレールに結び、輪を作った。
「新年は迎えられんなあ」
背中から声がした。振り向くと白髪の老人がいた。
「どうやって侵入したのやら。なんだかおせっかいそうな人ですね」
老人は高笑いした。
「せっかくきれいにはなったが、今から死体で汚れるな」
そう、男は自殺を試みるところであった。
「首吊りは糞尿まみれになる。処理する人は大変だな」
「では薬にします」
「代替手段があるとは用意周到だ。だが、嘔吐するぞ」
男は、気分を害した。
「焼死します」「灯油でひどい煙が出る」「では入水を」「腐臭がひどい」
男は「どうすればいいんですか!」と怒鳴り、うちひしがれた。
「私は新年の神だ。綺麗な家にだけ現れる。稀に見る綺麗な家があるので立ち寄ってみたら、お前がこの世から消えようとしていた。だが私との口論に負けた。その罰として、逆にこの部屋には、命を増やしてやる」
気がつくと、目の前に白い痩せた小型犬がいた。
「ここはペット禁止…」
「死体で汚そうとしていた男が、野暮なことを言うな」
もう新年の神の姿はなく、声だけがした。
かくして男は犬と暮らし始めた。犬はしつけが行き届いておらず、あちこちに小便をする。男は毎日掃除をしつづけたが、もう死のうとは思わなかった。
