【ショートショート】 『ふりかえると電車』
振り返る。電車が迫っている。
ここでいつも目が覚める。男はこの夢を何度もみていた。
「占い師にも話したんだが、電車に轢かれる可能性があるから気をつけろっていうんだよ。あまりにもリアルだし、それに従っているんだ」
帰宅のタクシーに同乗した友人は、半信半疑の苦笑を浮かべながら、彼の話を聞いていた。
そうして男は相変わらず同じ電車の夢をみて、生涯電車を避けて生きつづけた。
やがて年を取り、もう外出することも困難になった。長年住んでいた家を出て老人ホームに暮らすことにした。
今後は電車に轢かれる心配もないだろうな、と男は思った。
家は解体された。
「あのー、こんなものが床下から出てきましたよ」
解体業者の者が、差し出したのは、男が小さい頃遊んでなくした電車のおもちゃであった。
ちょうど彼の寝室の真下にあったということであった。
