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原稿用紙3枚の山旅ブログ3・遠い雲取山

 東京都唯一の日本百名山である雲取山(2017㍍)の山頂に立つと、青空が広がり、遠く富士山も遠望できた。なんと雄大な眺めだろう。下界は猛暑だが、ここは涼しく、別天地の趣があった。仲間と写真を撮り合っていると、単独行の若い女性に声をかけられた。「家族に見せたいので、写真を撮ってもらえますか」と。快く引き受け、彼女の爽快な笑顔をスマートフォンに収めた。他の登山者も次々と頂(いただき)に到達し、笑顔の花を咲かせた。2025年8月24日早朝のことだ。

 雲取山の山頂に立つには、長い道のりを覚悟しなければならない。比較的登りやすい埼玉県側の三峰神社からでも5時間程度かかる。我々は山梨県側の鴨沢から入山した。片側が崖地となった登山道を延々と登り続けた。山小屋・七ツ石小屋の手前辺りで雨が降り始め、レインウェアを着込んだ。寒さはなかったが、雨の登山はつらい。どんな高価なレインウェアを着込んでも、足元から雨水が侵入してくる。いつの間にか、登山靴の中はぐしょ濡れになってしまった。この日は雨ということもあり、雲取山山頂に立つことはあきらめた。巻き道を選択し、雲取山荘に急いだ。

山荘に着いたのは午後5時20分だった。午前9時20分に歩き始めたから、8時間も歩いたことになる。小屋の方からは「6時から夕食です」と声をかけられた。濡れた登山靴や雨具を乾燥室に収容し、部屋に入った。部屋は8畳ほどもあり、男性3人で横になるには十分な広さだ。ハンバーグの夕食をいただき、部屋でアルコールを片手に談笑した。山仲間との語らいは、登山の楽しみのひとつだろう。

翌日の朝食を見て、いささか驚いた。生玉子が提供されたのだ。生鮮食品の保存が難しい山小屋で生ものを出すのは珍しい。ヘリポートが比較的近くにあるからだろうか。私は玉子かけご飯が大好物なので、美味しくいただけた。そして、出立した私たちは快晴の山頂に立つことができた。

帰路は、富田新道を選択した。こちらの道も長く、そして危険個所が随所にあった。崖地の上に設えられた細い登山道を歩くのだが、たくさんの落ち葉が堆積し、今にも滑りそうなのだ。足を滑らせれば、崖に落ちる。緊張を強いられたのは言うまでもない。また、下山後の林道歩きも2時間近くかかった。こうしたせいなのか、すれ違った登山者は男性1人だけだった。小説家の深田久弥氏は著書「日本百名山」の中で、「下山には、新しくできたばかりの富田新道を採った…やはり静かな森林の中を細々と通じていた」と紹介している。深田氏がいつ雲取山に登り、富田新道を歩いたのか著書には記されていない。しかし、登山者がほとんど歩いていない森の静けさは、今も昔も変わらぬことだろう。【山岳ライター&登山ガイド、元毎日新聞社会部記者・小野博宣】

あちこちに咲いていたマルバダケブキ
雲取山の山頂
雲取山荘の夕食。ハンバーグにサラダ、冷奴となかなかの品ぞろえ
朝食。生玉子が提供されました
雲取山荘
富田新道を歩く。すれ違った登山者は1人だけ
七ツ石山の山頂碑。どうみても雲取山のものより立派です

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