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裏馬場がジビエを扱う理由——それは「命の重さ」と真剣に向き合う料理を届けたかったから。


◆ 葛藤の果てに:包丁を握りながら抱き続けた「ある問い」


北品川の商店街。旧東海道の情緒が残るこの街で、私は毎日、鶏を、豚を、牛を扱ってきました。
お客様に「美味しい」と言っていただけることが何よりの喜び。それは、今も昔も変わりません。
しかし、料理人として日々を重ねる中で、私の心の奥底には、消えない小さな棘(とげ)のような問いが刺さるようになりました。
「自分は、この命と、本当の意味で向き合えているのだろうか」
効率よく流通し、規格化され、パックに詰められて届く肉。それらは確かに便利で美味しい。
けれど、かつて呼吸をしていた「命」としての手触りが、あまりにも薄れてしまっているのではないか。
そんな葛藤を抱えながら、私は一本の電話に導かれるように、和歌山県古座川町へと向かいました。

和歌山県古座駅

◆ 衝撃の出会い:古座川「山の光工房」で見た、静かなる革命

そこで出会ったのが「山の光工房」のプロフェッショナルたちでした。
地域の獣害として捕獲され、これまでその多くが「廃棄」という虚しい結末を迎えていた命。
彼らはそれを、もう一度「食材」という名の尊厳ある存在へと押し戻していました。
猟から処理、熟成、そして流通。一気通貫で行われるその工程を目の当たりにしたとき、私は言葉を失いました。
そこには、残酷さではなく、冷徹なまでの「敬意」がありました。命を無駄にしないための、ミリ単位の職人技。徹底した衛生管理。そして何より、仕留めた獲物に対する、祈りにも似た丁寧な扱い。
「命って、こんなに美しく扱われる世界があるのか」
その瞬間、私の胸に刺さっていた棘は消え、代わりに強い覚悟が芽生えました。ここで生まれた食材なら、自分は料理人として、胸を張って品川の客に出せる。いや、出さなければならない、と。

古座川にある「山の光工房」

◆ 臆病な挑戦:東京のど真ん中で、ジビエを「串」にするという覚悟

しかし、東京へ戻り、いざ店で提供を始めようとしたとき、正直なところ不安で押しつぶされそうでした。
「東京の街中で、誰がジビエなんて食べるんやろ」
「クセが強いと敬遠されるんじゃないか」
「仕入れコストも手間も、正直、焼き鳥とは比べものにならないほど重い」
経営者としての理性が、「やめておけ」とささやきます。それでも私が一歩も引かなかったのは、古座川で見たあの丁寧な手仕事を、自分の炭火で形にしたかったからです。ジビエを、特別で気取った料理ではなく、誰でも気軽に手に取れる「串」という大衆の形に落とし込む。それが、命を預かった私の役割だと信じました。

名物「鹿モモ串」
トマトとの相性が抜群

◆ 客席からの答え:すべてを肯定してくれた「驚きの表情」

その答えは、すぐに返ってきました。
最初の一本を口にしたお客様の、あの驚きの表情。
「こんなに綺麗な肉、初めて食べた」
「ジビエの概念が、今日で変わったわ」
「裏馬場で初めて鹿を食べて、本当に良かった」
その言葉の一つひとつが、私の迷いを確信に変えてくれました。「これは、流行り物じゃない。裏馬場の看板として、一生背負っていくべき物語なんだ」と。
私たちのジビエ串は、決して奇をてらったメニューではありません。和歌山の森と、古座川の人々の誇りと、それを継なぐ職人の手が、炭火の上で一つに重なり合った、唯一無二の結実なのです。

◆ 現代の宿命:熊の命、その「廃棄」の連鎖を断ち切るために

そして今、私たちは新たな命の物語と向き合っています。それは「熊」のことです。
近年、全国で熊の出没や被害が相次いでいます。地域の人々を守るために、やむを得ず捕獲されるケースが増えている一方で、その多くが活用されず、そのまま廃棄されているという過酷な現実があります。
私は思います。いただいた命を、ただ捨てるのではなく、私たちがありがたく、美味しく、丁寧にいただく。それこそが、現代に生きる私たちの、せめてもの責任ではないかと。
丁寧に処理された熊肉は、驚くほど香りが良く、その脂は真珠のように繊細で、串にすると言葉を失うほどの旨味を持っています。
「珍しいから出す」のではありません。その背景にある、地域の痛みと、失われていく命の重さを背負って提供したい。そんな気持ちで、裏馬場はこれから「熊串」にも力を入れていきます。

◆ 終わりに:品川で一番、命に敬意を払う店でありたい

私たちは、炭火焼き鳥の店です。
けれど同時に、品川で一番、ジビエを誇りを持って扱う店でありたい。
一本の串の向こう側に、広大な和歌山の森が見える。猟師さんの眼差しが、そして命そのものの温もりが伝わる。そんな一皿を届けるために、私たちは今夜も炭を熾(おこ)します。
大きなことは言えません。ただ、ひとつひとつ、真面目に、丁寧に。
命に敬意を払った料理を、これからも、北品川のこの場所で。
よかったら、ぜひ一度、その物語を味わいに来てください。

■ 店舗情報:炭火焼鳥と元祖ジビエ串 裏馬場(うらばんば)
「旧東海道の入り口で、心躍るジビエ体験を。」

• 住所: 東京都品川区北品川2-4-17
•TEL:03-6433-2655
• Googleマップ: こちらからルートを確認できます
• Instagram: @kenshowt

• 特典: 「noteを見ました」とお声がけいただいたお客様に、本日おすすめの串を1本サービスさせていただきます!

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