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ピオニウォーク東松山はなぜ水没したのか――東松山市役所で聞いた「区画整理・雨水排水・貯水池・河川逆流」の真相


はじめに――私はもう一度、東松山市役所を訪ねた

2019年10月、令和元年東日本台風が関東地方を襲った。

東松山市でも甚大な水害が発生した。

都幾川、越辺川、新江川などの流域では堤防の決壊・欠損が相次ぎ、東松山市の公式資料によれば、死者2名、負傷者2名、被救助者76名、700件を超える家屋被害が発生したとされている。市はその後、この災害への対応を検証するため「令和元年東日本台風 水害対応に関する検証報告書」をまとめている。

その中でも私が以前から気になっていた場所がある。

ピオニウォーク東松山である。

私は2026年8月16日、令和元年東日本台風による水没以来、初めて現地を訪れた。

そして現地を見て、「これは単純な一つの建物の問題ではないのではないか」と考えるようになった。

複数の建物、道路、住宅地、商業施設、河川、雨水排水施設、貯水施設。

都市というものは、それぞれ別々に作られているように見えて、実際には水の流れによって一つにつながっている。

そこで私は2026年8月17日、東松山市役所を訪ね、ピオニウォーク周辺の水害について担当部署に話を聞いた。

今回の聞き取りで、これまで私が考えていた「開発許可逃れではないか」という仮説についても、いったん立ち止まって考え直す必要があることが分かった。

今回の記事では、東松山市役所で聞いた内容と公開資料をもとに、ピオニウォーク水没の背景を整理してみたい。



「開発許可逃れ」だけでは説明できない

私は当初、ピオニウォーク周辺の土地利用を現地で見て、

「これだけ大規模な商業施設や周辺施設が存在するのなら、都市計画法上の開発許可はどうなっているのだろうか」

という疑問を持った。

特に気になったのが、建物や土地利用が複数の区域に分かれているように見えることだった。

そこで、開発許可を回避するために施設が分割されたのではないか、という可能性も考えた。

しかし、8月17日に東松山市役所で話を聞いてみると、重要なポイントが見えてきた。

それは、

土地区画整理事業が行われている区域では、通常の開発許可とは異なる制度上の扱いがある

ということである。

つまり、現地を見ただけで、

「建物が複数に分かれている」

「だから開発許可を逃れた」

と結論づけることはできない。

土地区画整理事業という別の都市計画制度が存在し、その中で道路や宅地などの整備が行われていたのであれば、その制度を含めて調べなければならない。

ここは今回の取材で、私自身が修正しなければならないと感じたところである。


土地区画整理事業と「水」の問題

では、土地区画整理事業と水害にはどんな関係があるのか。

ここが今回の取材で最も重要な部分だった。

東松山市役所で伺った説明によれば、区画整理区域内では、雨水・汚水を分ける分流式下水道の考え方が採用され、雨水については河川へ流す計画になっていたという。

これは都市計画を考えるうえで非常に重要である。

住宅や商業施設ができると、当然ながら地面の状態が変わる。

田畑や空き地、森林などであれば、雨の一部は地面に浸透する。

ところが道路、駐車場、建物などが増えれば、雨水が地面に浸透しにくくなる。

そのため、都市開発では、

「降った雨をどこへ流すのか」

という問題を必ず考えなければならない。

そこで排水管を整備し、雨水を集め、最終的に河川などへ放流する。

ところが、ここには一つ大きな問題がある。

河川そのものが増水していたら、どうなるのか。


「雨を川へ流す」だけでは足りなかった可能性

通常の雨なら、

雨が降る

雨水ますに入る

下水・排水施設を通る

河川へ流れる

という仕組みで対応できる。

しかし、台風によって大量の雨が降れば状況は変わる。

さらに河川そのものが異常な水位になれば、

「雨水を川へ流したくても、川がすでにいっぱい」

という状態が起こり得る。

今回、東松山市役所で伺った説明では、区画整理区域内の雨水は河川へ流す計画だったものの、令和元年東日本台風では貯水池もあふれ、さらに河川側からの逆流が発生したという。

この話が事実であるなら、ピオニウォーク周辺の水害を考えるうえで非常に重要である。

つまり、

「施設から出た水をどう処理するか」だけではなく、「その水を受け取る河川側がどうなっていたのか」まで考えなければならない。

ということだ。


貯水池もあふれた

都市の水害対策では、貯水施設が重要な役割を果たす。

雨が一気に河川へ流れ込まないよう、一時的に水をためる。

いわば都市における「水のバッファ」である。

しかし、バッファにも容量がある。

想定を超える雨が降れば、当然ながら満杯になる。

今回、東松山市役所で伺った説明では、令和元年東日本台風では貯水池もあふれたという。

つまり、

貯水池を造れば絶対に浸水しないわけではない。

貯水施設は万能ではない。

一定量までは水を受け止められるが、その容量を超えれば機能を失う。

さらに河川水位が高ければ、排水そのものが難しくなる。

これは、都市水害の難しさを象徴している。


河川の「逆流」という恐ろしさ

今回、私が特に注目したのが「逆流」という言葉だった。

普段、水は高いところから低いところへ流れる。

雨水も基本的には排水施設を通って河川へ流れる。

ところが、河川の水位が異常に上昇すると、河川側から水が押し戻されることがある。

つまり、

本来なら「街→川」だった水の流れが、「川→街」に変わる可能性がある。

これが逆流である。

こうなると、街側にどれだけ排水施設を整備しても、それだけでは対応できない。

水害というのは、

「排水設備があるか、ないか」

だけでは決まらない。

むしろ、

街に降る雨

街の排水能力

貯水施設の容量

河川の水位

河川の流下能力

地形

これらすべてが関係する。

東松山市は複数の河川が流れる地域であり、令和元年東日本台風では都幾川、越辺川、新江川流域で堤防の決壊・欠損が発生した。市の資料も、この地域の地形と河川の集中が水害リスクの背景にあると説明している。


ピオニウォークだけを責めれば終わる問題なのか

ここで重要な問いが出てくる。

ピオニウォークが水没した。

では、その責任はピオニウォークにあるのか。

私は、現時点でそう断定することはできないと思う。

もちろん、個々の施設について、

  • 建築時の計画

  • 盛土

  • 排水設備

  • 駐車場

  • 雨水対策

  • 建築確認

  • 土地利用

  • 防災設備

などを調査する必要はある。

しかし、今回の市役所での聞き取りから見えてきたのは、もっと大きな問題である。

それは、

「一つの施設の問題」ではなく「都市全体の水循環の問題」

として考える必要があるということだ。

たとえば商業施設が雨水を適切に排出したとしても、その先の河川が満水ならどうなるのか。

貯水池を整備していても、それを超える雨が降ればどうなるのか。

道路や駐車場を整備しても、周辺の土地から大量の雨水が流れ込んだらどうなるのか。

こうした問題は、一企業だけでは解決できない。

行政、区画整理事業者、河川管理者、施設管理者、地域住民など、複数の主体が関係する。


「誰の責任か」と「どうすれば再発を防げるか」は別問題

ここで、私は「責任」という言葉を慎重に使いたい。

東松山市役所で伺ったところ、今回の水害について、責任を問うような訴訟は一件も起きていないとの説明だった。

ただし、

訴訟がない=誰にも責任がない

という意味ではない。

法律上の責任があるかどうかは、個別の事実関係、契約、法令、施設管理、予見可能性、因果関係などを調べなければ判断できない。

したがって、この記事では、

「○○が悪かった」

と断定するつもりはない。

むしろ私が問いたいのは、

「なぜ、このような水害が発生したのか」

そして、

「次に同じような豪雨が発生したとき、同じ場所が再び水没しないのか」

ということである。


東松山市はすでに「流域治水」へ動いている

東松山市は現在、「流域治水」という考え方を掲げている。

市の公式説明では、気候変動の影響によって降雨量が増加し、洪水リスクが高まることを背景として、堤防やダムだけで洪水を防ぐ従来型の治水から、流域全体で水害対策を考える「流域治水」への転換が進められている。

これは今回のピオニウォーク問題とも非常に関係が深い。

なぜなら、街に降った水だけを見るのではなく、



農地

住宅地

商業施設

排水施設

貯水池

河川

という流域全体を見る必要があるからだ。

都市計画と治水は別々の問題ではない。

土地を開発するということは、同時に水の流れを変えることでもある。


国土交通省による新たな貯水対策

今回、東松山市役所で伺った話では、ピオニウォーク南方に国土交通省による新たな貯水池などの整備が予定されているという。

これは非常に興味深い。

なぜなら、令和元年東日本台風によって、

「従来の施設だけでは十分ではなかった」

という教訓が得られたからこそ、新たな治水対策が検討されていると考えられるからだ。

ただし、この点については、今後、国土交通省や関係機関の正式資料を確認し、

  • 施設の正式名称

  • 事業主体

  • 貯水容量

  • 建設場所

  • 完成予定

  • 対象となる流域

  • 令和元年東日本台風との関係

などを確認する必要がある。

「新しい貯水池ができる」という情報だけで、どの程度安全性が向上するのかまでは判断できない。


2019年の教訓は「想定外」で終わらせていいのか

令和元年東日本台風は、東松山市に大きな傷跡を残した。

市は災害後に検証報告書を作成し、市議会も災害対策特別委員会を設置して、災害と行政対応について調査・検証を行っている。

つまり、行政自身も、

「あの災害を教訓として次に生かす」

という方向で動いてきた。

これは重要なことである。

災害を「想定外だった」で終わらせるのではなく、

「なぜ想定を超えたのか」
「どこが弱かったのか」
「次はどこを改善するのか」

を検証しなければならない。

そして、現在の東松山市が流域治水を掲げていることを考えると、少なくとも政策面では「街全体で水害を考える」という方向へ進んでいることが分かる。


市役所には「被害記録の冊子」も残されている

今回の聞き取りで、もう一つ重要な情報を得た。

令和元年東日本台風に関連する被害記録の冊子が東松山市役所にあり、閲覧することができるという。

ただし、私が伺ったところでは、購入することはできないとのことだった。

これは非常に興味深い資料である。

インターネット上に掲載されている資料だけでは分からない、

  • 当時の被害写真

  • 浸水地域

  • 被害状況

  • 住民の被災状況

  • 行政の対応

  • 復旧状況

  • 当時の問題意識

などが記録されている可能性がある。

東松山市は公式サイトでも令和元年東日本台風の検証報告書を公開しているため、今後はこの公開資料と、市役所で閲覧できる冊子を照合してみたい。


「ピオニウォーク水没」を都市計画の教材にする

私は今回の取材を通して、ピオニウォーク水没という出来事を、単なる過去の災害として終わらせるべきではないと思った。

むしろこれは、都市計画を学ぶための非常に分かりやすいケーススタディになる。

なぜなら、ここには、

土地区画整理

商業施設

道路

駐車場

雨水排水

貯水池

下水道

河川

土地利用

防災

気候変動

という、現代の都市問題がほぼ全部詰まっているからだ。

都市計画というと、道路を作ったり、建物を建てたり、駅前を再開発したりする話だと思われがちだ。

しかし本当は、

「人間がどこに住み、どこで働き、どこに水を流し、災害時にどう安全を確保するのか」

まで含めて考える必要がある。


私が今後調べたいこと

今回の市役所への聞き取りで、私は最初の仮説を修正することになった。

しかし、それは調査が終わったという意味ではない。

むしろ、ここからが本番だと思う。

今後は、

第一に、ピオニウォーク周辺の土地区画整理事業の正式な計画と認可資料を調べたい。

第二に、当時の雨水排水計画を確認したい。

第三に、貯水池の設置場所と容量を調べたい。

第四に、令和元年東日本台風当日の河川水位や降雨量を調べたい。

第五に、河川からの逆流が具体的にどこで発生したのか確認したい。

第六に、ピオニウォーク自体の建築・土地利用・排水計画を調べたい。

第七に、現在計画されている新たな貯水施設について国土交通省の資料を確認したい。

そして最後に、

「令和元年東日本台風と同程度、あるいはそれ以上の豪雨が今発生した場合、ピオニウォーク周辺は本当に安全なのか」

を考えてみたい。


おわりに――水害は「犯人探し」だけでは解決しない

今回、私はピオニウォークの水没について調べる中で、最初は「開発許可」という法律上の問題に注目した。

しかし、東松山市役所で話を聞いてみると、土地区画整理事業という制度が関係し、さらに雨水排水、貯水池、河川、逆流という問題が複雑に絡み合っていた。

そこで、現時点で私は、

「ピオニウォークが悪い」

とも、

「行政が悪い」

とも、

「区画整理が悪い」

とも断定しない。

むしろ、そう簡単に犯人を一人に決められないところに、都市水害の本質があるのではないかと思う。

都市は巨大なシステムである。

一つの場所に降った雨が、別の場所の排水施設に入り、貯水池に入り、河川に流れ、河川の水位が上がれば、逆に街へ影響を及ぼす。

人間が作った都市の境界線など、水にとっては関係ない。

行政区域も、施設の敷地境界も、道路の境界も、水の流れを完全に止めることはできない。

だからこそ、これからの都市計画では、

「この土地に何を建てるか」

だけではなく、

「その土地に降った雨は、最後にどこへ行くのか」

を考える必要がある。

ピオニウォーク東松山の水没は、2019年に起きた一つの災害である。

しかし、その問いは現在にも続いている。

気候変動によって豪雨が激しくなる可能性が指摘される中、過去の水害から何を学び、次の都市をどう設計するのか。

東松山市が掲げる「流域治水」という考え方も、その答えを探すための重要な方向性だろう。

そして私は、今回見つけた資料と市役所での聞き取りを出発点として、もう少し深く調べてみたい。

ピオニウォークはなぜ水没したのか。

その答えは、一つの建物の中にはない。

街全体を流れる「水の道」を追いかけなければ、見えてこないのである。


参考資料

・東松山市「令和元年東日本台風 水害対応に関する検証報告書」

・東松山市「第1章 東松山市の概要」令和元年東日本台風による災害史

・東松山市「流域治水の考え方」

・東松山市議会「災害対策特別委員会」

※本記事では、2026年8月17日に東松山市役所で筆者が聞き取った内容と、東松山市が公開している資料を併用している。市役所での聞き取り内容については、今後、関係資料との照合によってさらに確認していく予定である。

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