「臭いから使う」だけじゃなかった。ファブリーズと習慣の話
今日は、以前少し話した「習慣の力」について。

今回は、こんな人に読んでほしい。
「習慣を変えたいけど、なかなか続かない」人。
「明日から運動しよう」
「毎日、本を読もう」
「スマホを見る時間を減らそう」
そう決めても、気づけばいつもの生活に戻っている。
そして、
「自分は意志が弱いのかな」
と思ってしまう。

でも、もしかすると問題は、意志の強さだけではないのかもしれない。
今回、私がこの本の中でも特に好きだったのが、そんな「習慣」の仕組みについて書かれている部分。
「習慣」と聞くと、
毎日努力すること。
決めたことを継続すること。
そんなイメージがある。
でも、この本を読んでいると、習慣はもっと身近なところにあることが分かる。
朝起きたら歯を磨く。
コーヒーを飲む。
スマホを見る。
仕事から帰ったらテレビをつける。
寝る前にSNSを見る。
こういう行動を、毎回、
「よし、今からこれをやろう」
と考えている人は、ほとんどいないと思う。
気づいたらやっている。
それが習慣だ。

そして、この「習慣の力」をものすごく分かりやすく教えてくれるのが、今回紹介したいファブリーズの話だった。

これが面白い。
単純に「消臭剤が売れた」という話ではない。
「人がその商品を使いたくなる習慣そのものを、どうやって作ったのか」
という話だからだ。
今回は、このファブリーズの事例を中心に、
なぜ人は同じ行動を繰り返すのか。

そして、
自分の習慣を変えるとき、何を考えればいいのか。
このあたりを、自分なりに整理してみたい。
ファブリーズは、最初から売れたわけではない
今では、ファブリーズを知らない人はほとんどいないと思う。
衣類や家具などにシュッと吹きかけて、嫌な臭いを消す。
非常にシンプルな商品だ。
ところが、この商品は発売されたからといって、最初から順調に売れたわけではなかった。
むしろ、P&Gにとっては大きな問題があった。

商品自体は悪くない。
消臭効果もある。
実際に、ファブリーズによって生活が変わった人もいた。
その代表的な例として、本に登場するのが、ある女性だ。
スカンクの臭いに悩まされていた女性
その女性は、アメリカのフェニックスで公園のレンジャーとして働いていた。
砂漠に生息する動物を捕獲する仕事をしていて、仕事柄、スカンクと頻繁に遭遇していた。
当然、スカンクに遭遇すれば、強烈な臭いがつく。
そして、その臭いは仕事場だけでは終わらなかった。
家にも臭いが持ち込まれる。

トラックにも染みつく。
服にもつく。
ブーツにもつく。
カーテンにも。
ベッドにも。
彼女の生活そのものが、スカンクの臭いに包まれていた。
しかも、本人にとっては単なる「ちょっと嫌な臭い」ではない。
人間関係にも影響していた。

デートをしていても、
「相手にスカンクの臭いが分かっているんじゃないか」
と気になってしまう。
人を家に呼ぶことにも抵抗がある。
それほど深刻な問題だった。
彼女は、何とか臭いを消そうとして、いろいろな方法を試していた。
そんな彼女のもとに、ファブリーズが届く。

彼女にとって、ファブリーズは救世主だった
彼女はファブリーズを家中で使った。
ソファ。
カーテン。
ラグ。
ベッドカバー。
ジーンズ。
仕事着。
車の中。
とにかく、臭いが染みついていそうなところに片っ端から吹きかけた。
ボトルを一本使い切る。
それでも足りない。
もう一本使う。

それほど彼女にとっては必要な商品だった。
そして、あるとき友人たちを家に呼んだ。
そこで、
「スカンクの臭いはする?」
と聞く。
友人たちは、
「しない」
と答えた。

彼女は、自分の家からスカンクの臭いが消えたことを確認する。
この瞬間、彼女にとってファブリーズは、
「今まで解決できなかった問題を解決してくれた商品」
になった。
そりゃ、使い続ける。
彼女には、
「臭いを消したい」
という明確な欲求があったからだ。
ところが――。
ここでP&Gは、ある問題にぶつかる。
「スカンクの人には売れる。でも普通の人には?」
この女性の例を見ると、
「ファブリーズって、すごい商品じゃん」
と思う。
だから、P&Gも最初は、
「臭いに困っている人に売ればいい」
と考えた。
当然の発想だ。
ペットの臭い。
タバコの臭い。
料理の臭い。
汗の臭い。
そういう「嫌な臭い」を消す商品として売る。
ところが、一般家庭では思ったように売れなかった。
なぜか。
ここが、この話の一番重要なところだと思う。
多くの人は「自分の家が臭い」と思っていなかった
人間には、同じ臭いを長時間嗅いでいると、その臭いに慣れてしまう性質がある。

毎日暮らしている自分の家の臭いは、自分では気づきにくい。
だから、
「あなたの家、臭くありませんか?」
と言われても、
「いや、別に……」
となる。

つまり、
ファブリーズを使う理由がない。
これが大きな問題だった。
商品には消臭という明確な機能がある。
スカンクの女性には、その機能が必要だった。
でも一般家庭の人たちは、
「臭いを消したい」
と思っていない。
だから使わない。
だから買わない。
ここで「習慣」という考え方が出てくる
人間の行動には、
きっかけ → 行動 → 報酬
という流れがある。
例えば歯磨き。
朝起きる。
↓
口の中が気になる。
↓
歯を磨く。
↓
口の中がスッキリする。
この「スッキリする」が報酬になる。
これを毎日繰り返すことで、
「朝起きたら歯を磨く」
という行動が習慣になっていく。
ファブリーズの場合、最初の売り方は、
「臭いがする」
↓
「ファブリーズを使う」
↓
「臭いが消える」
というものだった。
でも、
「臭いがする」というきっかけが存在しない人には、このループが始まらない。
ここに気づいた。

だったら、すでにある習慣に入ればいい
ここからファブリーズのマーケティングが変わっていく。
P&Gは消費者の生活を観察する。
すると、あることが分かってくる。
人には、すでに
「掃除をする」
という習慣がある。
部屋が汚れる。
↓
掃除する。
↓
部屋がきれいになる。
↓
「きれいになった」と感じる。
この最後の瞬間には、達成感がある。
そこで、
「この掃除の最後にファブリーズを使ってもらえばいいんじゃないか?」
という発想になる。
これなら、
「臭いが気になる人」
を探す必要がない。
掃除をする人なら、誰でも対象になる。

ファブリーズの役割を変えた
それまでのファブリーズは、
「嫌な臭いを消すための商品」
だった。
でも、それを、
「掃除の最後に使う商品」
へと変えていく。
部屋を掃除する。
↓
床がきれいになる。
↓
家具を整える。
↓
ベッドを整える。
↓
最後にファブリーズをシュッとする。
↓
いい香りがする。
↓
「掃除が終わった」という満足感を得る。
こうなると、ファブリーズそのものが「掃除の仕上げ」になる。
しかも、香りがあることで、
「臭いがなくなった」
という分かりにくい結果ではなく、
「いい香りがする」
という分かりやすい報酬を感じられる。
ここが大きかった。
「問題解決」から「ご褒美」へ
ここが私がこの話で一番好きな部分だ。
ファブリーズは、最初、
「嫌な臭いを消す商品」
だった。
でも、それだけでは多くの人に使ってもらえなかった。
そこで、
「掃除をした最後に使う商品」
に変わった。
さらに、
「掃除を頑張った自分への小さなご褒美」
のような役割まで持つようになった。
掃除する。
↓
部屋がきれいになる。
↓
ファブリーズを使う。
↓
いい香りがする。
↓
「終わった」という満足感。
これが繰り返される。
すると、
「掃除の後にはファブリーズ」
という新しい習慣ができる。

そしてファブリーズは売れ始めた
ここで面白いのは、
商品そのものを大幅に変えたわけではない
ということ。
もちろん、香りなどの商品面の工夫はあった。
でも、大きく変わったのは、
「いつ、なぜ使うのか」
という部分だった。
1998年夏の再発売後、ファブリーズは2カ月で売上が倍増。
本では、その後1年以内に顧客の購入額が2億3000万ドルを超えたと紹介されている。
つまり、
「もっと良い消臭剤を作ったから売れた」
だけではない。
「使う習慣」を作ったから売れた。
ここが、この話の面白さだと思う。

人は商品を買っているのではなく、習慣を買っている?
ここまで考えると、普段使っている商品を見る目も変わってくる。
歯磨き粉を買う。
でも、歯磨き粉を買いたいから歯を磨いているわけではない。
「歯を磨く」という習慣が先にある。
その中に歯磨き粉が入っている。
コーヒーもそうかもしれない。
「コーヒーという商品が欲しい」というより、
「朝になったらコーヒーを飲む」
という習慣があって、その中に商品が入っている。
ファブリーズも同じ。
「消臭剤を使おう」
という習慣を作ったのではなく、
「掃除をする」という既存の習慣に、ファブリーズを組み込んだ。
ここがものすごく重要なんだと思う。
習慣は「意思」より強い
この話を自分の日常に置き換えてみる。
何か新しいことを始めるとき、
「明日から毎日頑張ろう」
と思う。
本を読む。
運動する。
勉強する。
早起きする。
SNSを見る時間を減らす。
最初の数日は頑張れる。
でも、いつの間にか元に戻ってしまう。
そのとき、
「自分は意志が弱い」
と思ってしまう。
でも、習慣という視点から見ると、少し違って見える。
問題は意志の強さだけではない。
その行動に、どんな「きっかけ」と「報酬」があるのか。
ここを考える必要がある。
例えば、
「毎日本を読む」
だけではなく、
「夜、スマホを充電器に置いたら本を10ページ読む」
と決める。
スマホを置く。
↓
本を開く。
↓
10ページ読む。
↓
「今日も読めた」という小さな達成感を得る。
これを繰り返していく。
すると、
「本を読もう」
と毎回気合いを入れなくても、本を開けるようになるかもしれない。

悪い習慣も同じ
逆に、やめたい習慣にも同じ仕組みがある。
例えば、
仕事で疲れる。
↓
スマホを見る。
↓
SNSを見る。
↓
新しい情報が入ってくる。
↓
少し気分転換になる。
これを何度も繰り返していると、
「疲れた」
というきっかけから、
「スマホを見る」
という行動が自動的に出てくるようになる。
だから、
「スマホを見るな!」
と自分に言い聞かせるだけでは難しい。
むしろ、
「疲れたときに何をするか」
を変えたほうがいい。
疲れた。
↓
5分だけ外を歩く。
↓
少し気分が変わる。
という新しいルートを作る。
習慣を完全に消すというより、
別の行動に置き換える。
この考え方のほうが現実的なのかもしれない。
ファブリーズの話が面白い理由
ファブリーズの話を読んでいて思ったのは、
「良い商品を作れば売れる」
というほど単純ではないということだ。
スカンクの臭いに悩んでいた女性にとっては、ファブリーズは最高の商品だった。
明確な問題があった。
だから使う理由があった。
でも、一般家庭には、その「明確な問題」がなかった。
だから売れなかった。
そこで企業は、
「どうすれば臭いに困っている人を増やせるか」
ではなく、
「どうすれば、臭いに困っていない人にも使ってもらえるか」
と考えた。
そして、すでに存在していた「掃除」という習慣にファブリーズを組み込んだ。
これによって、
掃除 → ファブリーズ → いい香り → 満足感
という新しいループを作った。
この発想の転換が、ファブリーズを大きく変えた。
最後に
今回紹介したファブリーズの話は、単なるマーケティングの成功例ではないと思う。
むしろ、
「人間はどうやって習慣を作るのか」
ということを、ものすごく分かりやすく教えてくれる話だと思う。
人間は、毎回ゼロから行動を選んでいるわけではない。
きっかけがある。
行動する。
そして、その後に何かしらの報酬を得る。
それを繰り返す。
すると、やがて「考えなくてもやる」ようになる。
だからこそ、習慣は怖い。
悪い習慣ができれば、何も考えずに同じ行動を繰り返してしまう。
でも逆に、良い習慣を作ることができれば、何も考えなくても少しずつ前に進める。
毎日10ページ本を読む。
毎日少し歩く。
毎日少し片付ける。
毎日少し勉強する。
一回だけなら、大したことではない。
でも、それが何百回、何千回と積み重なったら、それはもう「小さな行動」ではない。
自分の生活そのものになる。
そして、生活そのものになったものが、自分の未来を作っていく。
ファブリーズが教えてくれたのは、
「どうやって消臭剤を売るか」
だけではない。
「人間の習慣は、きっかけと行動と報酬によって作られる」
ということなんだと思う。
だから、もし今、
「変わりたいけど、なかなか続かない」
と思っていることがあるなら、
いきなり自分の意思を強くしようとするのではなく、
「その行動を、今ある生活のどこに組み込めるだろう?」
と考えてみる。
掃除の最後にファブリーズを使うように。
朝起きたら歯を磨くように。
何かの行動のあとに、別の行動をくっつけてみる。
そうやって少しずつ繰り返していく。
習慣は、一日で人生を変えるような派手なものではない。
むしろ、毎日の何気ない行動の積み重ねだ。
だからこそ、
「自分が毎日繰り返していることは、未来の自分にとって本当に必要なものなのか?」
一度考えてみる価値はあると思う。
酒やめて149日目。
