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音楽史年表記事編58.モーツァルト、交響曲第31番ニ長調「パリ」と母の死

 パリのルーブル美術館とコンコルド広場の間にチュイルリー公園がありますが、ここには以前はチュイルリー宮殿があり、その宮殿のスイス衛兵の間でコンセール・スピリッチェルと呼ばれた演奏会が開かれていました。パリに到着したモーツァルトはコンセール・スピリチェルの支配人ル・グロから聖体祭のための交響曲作曲の依頼を受け、早速作曲にかかりますがモーツァルトにしては推敲を重ねています。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットがそれぞれ2管のモーツァルトにとって初めての2管編成の大交響曲であり、これまでなじみのなかったクラリネットの使用やマンハイムで学んだ強弱法などを取り入れるなど作曲に気合が入ったのでしょう。演奏会は盛りだくさんの演目の中で行われたようです。リハーサルでの演奏に不満を漏らしていたモーツァルトですが、初演時にはオーケストラは見事に息を吹き返し、客席で見守ったモーツァルトは聴衆の熱狂に大いに満足し、帰りにはパレ・ロワイエルで上等のアイスクリームを食べたと父レオポルトに報告しています。
 パリの宿舎はパレ・ロワイヤルからメール通りを500mほど行ったサンティエ通りにありましたが、モーツァルトは体調の優れない母親のために、おそらく途中の聖母バジリカ聖堂で祈りを捧げ帰宅したのでしょう。しかし、モーツァルトの祈りもむなしく母マリア・アンナはパリ交響曲初演の約2週間後の7/3に亡くなります。モーツァルトは母が亡くなった日の父レオポルトへの手紙では母の死を伝えず、交響曲で成功したことを報告していますが、おそらく父を悲しませないための心遣いだったと思われます。モーツァルトは3通目の手紙でようやく母の死を伝えています。母の葬儀はサントゥシュタッシュ教会で行われ、教会の墓地に埋葬されたとされますが、現在は墓地は取り壊され公園となっているようです。

 モーツァルトは恐らくパリで宮廷への雇い入れを申し込んだものと思われますが、ヴェルサイユ宮殿礼拝堂のオルガン奏者の話が来ます。しかし、モーツァルトはこれを断っています。オペラ作曲家としてのプライドか、あるいはパリでオペラを上演しているグルックへの対抗意識かもしれません。しかし、後のフランス革命の動乱を考えるとフランスでの就職辞退は、結果的にはモーツァルトにとって良かったと思われます。

【音楽史年表より】
1778年6月、モーツァルト(22)
モーツァルトに対し、ヴェルサイユ宮廷礼拝堂オルガン奏者の地位を世話するという話が宮廷ホルン奏者のジャン・ジョゼフ・ロドルフから持ち込まれたがモーツァルトはこれを辞退する。(1)
1778年6/18初演、モーツァルト(22)、交響曲第31番ニ長調「パリ」K.297
パリのコンセール・スピリチェルで初演される。モーツァルトはコンセール・スピリチェルの支配人ジャン・ル・グロから聖体祭用の交響曲の作曲の依頼を受ける。作曲は5月頃に着手し、6/12以前には完成したが、モーツァルトにしては異例なほどの推敲を行っている。モーツァルトはパリ交響曲で初めて2本のクラリネットを加え完全な2管編成の交響曲としている。モーツァルトはマンハイムでこのクラリネットという楽器に魅せられ、後にクラリネット協奏曲を作曲するなど、クラリネットの発展に大いに貢献することとなる。コンセール・スピリチェルは現在はチュイルリー公園となっているチュイルリー宮殿のスイス衛兵の間にあった。6/18の聖体祭に行われた盛りだくさんの演奏会で初演され大喝采を受ける。モーツァルトは客席で聴衆の反応をうかがっていたのであった。「最初のアレグロの真中に受けるに違いないと思っていたパッセージがあったのですが、果たして聴衆は一斉に熱狂してしまいました。そして大拍手です。でも、僕は書いているときから、それがどんな効果を生むか知っていたので、それを最後に出しておきました・・・(第3楽章では)聴衆はピアノの間はシーッ、シーッといっていましたが、それからすぐにフォルテになると拍手が沸き起こり、嬉しさのあまり、僕は交響曲が終わるとすぐにパレ・ロワイヤルに行って上等のアイスクリームを食べました・・・」(7/3父レオポルトへの手紙)。モーツァルトは母が亡くなった日に父レオポルトへ演奏会での成功を報せている。3通目の手紙で母の死を報せているが、父が悲しむ前に喜ばせておこうという心遣いであろうか。第1楽章および第2楽章の自筆譜がベルリン国立図書館に所在され、第3楽章は筆写譜のみが残される。(1)(2)
7/3、モーツァルト(22)
モーツァルトの母、マリア・アンナがパリのサンティエ通りの宿舎で死去する(57歳)。悲しみにくれるモーツァルトは母の死後、サンティエ通りの宿を引き払い、グリム男爵の愛人であったデピネー夫人の邸へ移る。(1)

【参考文献】
1.モーツァルト事典(東京書籍)
2.作曲家別名曲解説ライブラリー・モーツァルト(音楽之友社)

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