静かな退職者が増える組織では、静かな責任吸収者も増えている
最近、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を目にすることが増えた。
実際に会社を辞めるわけではない。
与えられた仕事はきちんとやる。
ただ、それ以上は引き受けない。
昇進競争にも積極的には参加しない。
会社にすべてを捧げるのではなく、自分の生活や時間との境界線を引く。
そんな働き方を指す言葉らしい。
この話を聞くと、
「最近の若い人はやる気がない」
という意見も出てくる。
ただ、長年会社で働き、内部監査の仕事をしてきた立場からすると、少し違う景色も見える。
会社には、不思議な仕事がある。
・誰がやるのか決まっていない仕事
・誰が最後まで面倒を見るのか分からない仕事
・部門と部門の隙間に落ちた仕事
・会議では前に進んだように見えるが、実行段階では穴が残っている仕事
すると決まって、誰かが拾う。
・気づいた人が拾う
・段取りが見える人が整理する
・止まりそうな案件を、何とか前へ進める
・曖昧な論点を言語化する
・関係者に連絡する
・不足した説明を補う
・最後は、何とか成立まで持っていく
結果として、
「できる人」
のところへ仕事が集まる。
私自身も、思い当たるところがある。
・気づく
・整理する
・調整する
・関係者をつなぐ
・最後に何とか成立させる
そして気づけば、なぜか自分の仕事だけ増えている(笑)。
もちろん、それで助かった場面もたくさんあったと思う。
組織には、どうしても小さな空白が生まれる。
誰かがその空白を埋めることで、物事が前に進む。
その意味で、責任感のある人や全体を見られる人の存在は、とても大切である。
しかし最近、少し考え方が変わってきた。
組織が、善意や責任感だけで回っている状態は、あまり健全ではないのではないか。
なぜなら、そこにはいつの間にか、
「誰かがやってくれる」
という前提が入り込むからである。
・誰かが気づく
・誰かが拾う
・誰かが整える
・誰かが最後に閉じる
それが続くと、本来設計すべき責任の空白が、個人の善意で見えなくなる。
・誰が決めるのか
・誰が実行するのか
・誰が確認するのか
・誰が修正するのか
・誰が責任を持つのか
・誰が危ない時に止めるのか
本来なら明確にすべき責任回路が、曖昧なままでも動いてしまう。
なぜなら、誰かが静かに吸収しているからだ。
そう考えると、静かな退職という現象も、単なるやる気の問題ではないように見えてくる。
それは、
「これ以上は私が吸収しません」
という静かな境界線なのかもしれない。
もちろん、すべてを拒否すればよいという話ではない。
組織で働く以上、協力も必要である。
助け合いも必要である。
役割を超えて動くことが価値を生む場面もある。
しかし、役割を超えた貢献が、いつの間にか当然の前提になってしまうと、話は変わる。
むしろ私が気になるのは、静かな退職者よりも、静かに責任を吸収し続けている人たちである。
・全体が見える
・段取りが見える
・リスクが見える
・放っておくとまずいことが分かる
だから仕事が集まる。
だから頼られる。
だから断りにくい。
そして誰にも気づかれないまま、少しずつ疲れていく。
その人たちは、声高に不満を言わない。
ただ、黙って穴を埋め続ける。
だから組織は、その人たちの存在に気づきにくい。
そして、ある時その人たちが境界線を引いた時、初めて分かる。
今まで組織を支えていたのは、制度ではなく、誰かの見えない吸収力だったのだと。
本当に必要なのは、
「もっと頑張ろう」
ではない。
必要なのは、責任の配置を見直すことだと思う。
・誰が決めるのか
・誰がやるのか
・誰が確認するのか
・誰が最後に閉じるのか
・誰が危ない時に止めるのか
ここが曖昧なままでは、静かな退職者も、静かな責任吸収者も増えていく。
この二つは、別の現象ではない。
同じ構造の表と裏なのだと思う。
一方では、
「これ以上は引き受けません」
という人が増える。
もう一方では、
「私がやらないと止まる」
と思って抱え続ける人が増える。
どちらも、責任回路が曖昧な組織で起きている。
一言で言えば、
静かな退職者が増える組織では、静かな責任吸収者もまた増えている。
あなたの組織はどちらだろうか。
① 責任の配置が明確で、個人の善意に依存しすぎていない
② 誰かが静かに責任を吸収することで、何とか成立している
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