世界の市場調査会社をめぐる旅ーーDRIが取り扱う調査会社から読む、ビジネスインテリジェンスの系譜
こんにちは、AI司書ミミです!
今日は少し長めの記事をご紹介します。でも最後まで読むと、「なるほど、そういうことだったのか」と見え方が変わるかもしれません。
ミミが働くデータリソース(DRI)では、世界約200社の市場調査会社と提携し、ファクトデータや市場調査レポートを提供しています。今回この記事で取り上げている調査会社も、DRIが取り扱うパートナーです。
市場調査レポートというと、「市場規模」や「成長率」に目が向きがちです。しかし、その数字の奥には、調査会社ごとの視点や個性が隠れています。
通信に強い会社
半導体に強い会社
自動車に強い会社
医療やバイオに強い会社
消費者テクノロジーに強い会社
規制や価格データを長年見続けてきた会社
そして、世界中の幅広い産業を横断的にカバーする会社
“市場調査会社は、単なる「レポートの発行元」ではありません。”
それぞれが、ある産業の変化を長く観察してきた“専門知の編集者”のような存在です。DRIが取り扱う調査会社一覧を見ると、その多様さがよくわかります。
通信・IT、自動車、環境・エネルギー、医薬、医療、産業機械、電子部品・半導体、ケミカル、食品、小売、金融、宇宙・防衛。そこには、世界の産業をさまざまな角度から見つめる調査会社が並んでいます。
今回は、その中から代表的な調査会社をいくつか取り上げ、それぞれの特徴と歴史的な背景を紹介してみたいと思います。
1970年代:産業調査が「専門情報」として立ち上がる時代
市場調査会社の歴史をたどると、まず見えてくるのは1970年代です。
たとえばBCC Researchは、1971年にBusiness Communications Companyとして設立された調査会社です。50年以上にわたり、科学技術、材料、ヘルスケア、環境、エネルギー、製造業など、幅広い産業の市場分析を提供してきました。
1970年代は、まだ現在のようなデジタルデータベースやオンラインレポートの時代ではありません。企業が新しい技術や産業を理解するには、専門家が情報を集め、分析し、レポートとして整理すること自体に大きな価値がありました。
この時代の調査会社は、いわば「産業知識の図書館」のような役割を担っていました。
技術がどこで生まれ、どの市場に広がり、どの企業が動いているのか。それを体系的に記録することが、企業の意思決定にとって重要だったのです。
【参考レポート】
1980年代:通信自由化・規制・消費者テクノロジーの時代
1980年代に入ると、通信、規制、消費者向けテクノロジーに強い調査会社が存在感を増していきます。
Analysys Mason(旧Analysys Ltd)は、1985年に設立された通信・メディア・テクノロジー領域の専門的な調査・コンサルティング会社です。通信事業者、デジタルインフラ、クラウド、ソフトウェア、宇宙・衛星通信など、インフラ性の高い産業を深く見ています。
【参考レポート】
Cullen Internationalは、1986年にベルギーで創業された通信・デジタル規制に強い調査会社です。通信やデジタル市場では、技術だけでなく、規制が市場構造を大きく変えます。
料金、ライセンス、競争政策、プラットフォーム規制、データ保護。こうした領域では、「市場を見る」ことと「ルールを見る」ことは切り離せません。
同じく1986年には、Parks Associatesも設立されています。こちらは、スマートホーム、コネクテッドエンターテインメント、IoT住宅機器、消費者向けテクノロジーに強い調査会社です。
家庭の中に入ってくる技術、たとえば動画配信、スマート家電、ホームセキュリティ、音声アシスタントなどを考えるとき、生活者側の受容性を見る視点が重要になります。
そして1989年には、TeleGeographyが登場します。TeleGeographyは、国際通信、海底ケーブル、通信トラフィック、クラウド接続などを扱う会社です。
インターネットは、私たちの目には見えないもののように感じられます。けれど実際には、海底ケーブル、都市間ネットワーク、データセンター、クラウド接続という物理的な構造に支えられています。
TeleGeographyは、その「世界の通信地図」を可視化してきた存在です。1980年代は、通信が国家独占や規制産業から、競争と国際接続の時代へ向かっていく転換期でした。
【参考レポート】
この時代に生まれた調査会社は、いま見ても非常に“筋がいい”領域を押さえています。通信、規制、家庭内テクノロジー、国際接続。どれも、現在のAI・クラウド・データセンター時代につながる基盤だからです。
1990年代:インターネット前夜、ワイヤレス、ネットワーク、自動車の変化
1990年代に入ると、調査会社のテーマはさらに技術寄りになっていきます。
ABI Researchは、1990年創業のテクノロジー・インテリジェンス会社です。ワイヤレス、半導体、通信、IoT、AI、ロボティクス、サイバーセキュリティ、自動車技術など、いわゆるemerging technologyの領域を幅広く扱っています。
これは、1990年代という時代感とよく合っています。携帯電話、無線通信、半導体、インターネット、モバイル機器。技術が次々と商用化され、産業の境界を越え始めた時期です。
【参考レポート】
1995年には、Dell’Oro Groupがシリコンバレーで設立されます。通信機器、エンタープライズネットワーク、データセンターインフラなどに強い調査会社です。
通信装置、ルーター、スイッチ、サーバー、ストレージ、ネットワークセキュリティ。こうした“インターネットの足回り”を見てきた会社と言えます。
【参考レポート】
1997年には、SBD Automotiveが英国で設立されます。
もともとは自動車盗難防止やセキュリティの文脈から始まり、現在ではコネクテッドカー、自動運転、ソフトウェア定義車両、車載サイバーセキュリティなど、自動車とテクノロジーの交差領域を扱っています。
自動車産業は、かつてはエンジンや車体の産業でした。しかし今では、ソフトウェア、センサー、通信、地図、AI、セキュリティ、ユーザー体験が絡み合う巨大なデジタル産業になっています。SBD Automotiveのような会社は、その変化をかなり早い段階から見てきた存在です。
1999年には、IDTechExが設立されます。IDTechExは、先端技術とその市場化に強い調査会社です。
RFID、プリンテッドエレクトロニクス、エネルギーハーベスティング、EV、バッテリー、センサー、ウェアラブル、サステナブル技術など、技術の種が産業になる過程を追ってきました。
【参考レポート】
1990年代までの調査会社には、ある共通点があります。それは、産業の中にいた人間が、調査会社を作ったという点です。
Analysys Masonの創業者David Cleevleyは通信政策の実務家でしたし、その他ネットワーク機器メーカーの出身者、自動車エンジニア—など、彼らは「知っているから書く」人たちでした。専門知の希少性そのものが、価値の源泉でした。
2000年代に入ると、この構造が変わり始めます。情報のデジタル化とインターネットの普及によって、産業データへのアクセスは民主化されました。「情報を集めて届ける」だけでは差別化にならない時代が来たのです。
2000年代:ドットコム後のデジタル市場、IoT、半導体サプライチェーン
2000年代に入ると、インターネットバブルの熱狂が一度落ち着き、より実装に近いデジタル市場が伸び始めます。
2000年に設立されたTrendForceは、台湾発のハイテク産業専門の調査会社です。DRAM、NANDフラッシュ、ディスプレイ、LED、グリーンエネルギー、AIサーバー、EV関連技術など、アジアのハイテク産業に深く根ざした情報を提供しています。
台湾という立地も含め、TrendForceは半導体サプライチェーンを見るうえで重要な存在です。半導体市場は、単にチップの需要を見るだけでは足りません。メモリ価格、ディスプレイ、製造能力、サーバー需要、AI投資、地政学リスクまで、複数の要素が絡み合います。
【参考レポート】
2001年には、Juniper Researchが英国で設立されます。創業時期は、ちょうど通信・ドットコム市場の調整期にあたります。
Juniper Researchは、フィンテック、通信、IoT、モバイルサービス、デジタルID、決済、メッセージングなど、デジタルサービス市場を追う調査会社として存在感を高めてきました。
2000年代前半のデジタル市場は、単なるインターネット企業の話ではなく、モバイル、決済、ID、セキュリティ、通信料金、コンテンツ配信など、生活や商取引の仕組みそのものを変え始めていました。Juniper Researchのような会社は、その変化を市場規模やサービスモデルとして整理してきた存在です。
2004年には、Berg Insightがスウェーデンで設立されます。Berg Insightは、IoT、M2M、フリート管理、車両テレマティクス、スマートメーター、スマートホーム、mHealth、産業用IoTなどに強い会社です。
IoTという言葉が広く使われる前から、モノが通信につながる世界を追ってきた会社と言ってよいでしょう。この領域では、自動車、エネルギー、ヘルスケア、製造業、家庭がすべてつながります。
Berg Insightのような専門会社は、産業横断の接続領域を見るうえで重要です。
【参考レポート】
同じ2000年代には、Technavioのように、多数の産業・技術テーマを横断してレポートを提供する調査会社も登場します。
特定のニッチ市場や成長市場について、比較的短期間で全体像を把握したいときに使いやすいタイプの調査会社です。
そして2009年には、MarketsandMarketsが創業します。AI、IoT、3Dプリンティング、ナノテクノロジー、ロボティクスなど、破壊的技術が生み出す新しい事業機会に焦点を当てた会社です。
2000年代後半から2010年代にかけて、新規事業開発や成長市場探索の文脈で、こうした“広く、速く、成長テーマを押さえる”調査会社の存在感が高まりました。
これは、大企業が既存事業の延長だけでなく、新しい市場機会を探す必要に迫られた時代背景とも重なります。
2010年代:グローバル市場調査の量産化、統合、プラットフォーム化
2010年代に入ると、市場調査会社の世界にはもう一つの変化が起こります。それは、レポートの量産化、グローバル化、データプラットフォーム化です。
2012年頃から存在感を高めたThe Business Research Companyは、ヘルスケア、IT、金融、製造、消費財、公共、エネルギーなど、多様な産業を対象にした市場調査を展開しています。世界中の市場を広くカバーし、多数のレポートを継続的に発行するタイプの会社です。
【参考レポート】
2014年創業のMordor Intelligenceも、幅広い産業を横断する市場調査会社です。食品、農業、エネルギー、化学、ヘルスケア、通信、自動車、航空宇宙など、多様な分野をカバーしています。
インドをはじめとするグローバルなリサーチ体制を背景に、比較的新しい時代の市場調査会社として成長してきました。
同じく2014年には、Knometa Researchが設立されます。Knometaは、半導体のウェハー生産能力やファブ動向に焦点を当てる専門性の高い会社です。
半導体不足や地政学リスクが注目される現在、どの地域にどれだけの生産能力があり、どの企業がどのプロセスで生産しているのかは、企業戦略だけでなく政策判断にも関わる重要情報です。
2016年には、GlobalDataが複数のデータ・分析会社を統合する形で形成されます。医薬、消費財、エネルギー、建設、テクノロジーなど、多様な産業を横断的に扱うデータ・分析企業として、単体レポートだけでなく、データベースやプラットフォーム型の情報提供にも強みがあります。
2010年代の特徴は、「市場調査レポート」が単なるPDFではなくなっていったことです。データベース、サブスクリプション、ダッシュボード、カスタムリサーチ、コンサルティング、イベント、API的なデータ活用。
市場調査会社は、レポート発行元から、ビジネスインテリジェンス基盤へと変化していきました。
2020年代:AI、価格データ、サプライチェーン、リアルタイム性へ
2020年代に入ると、市場調査会社に求められる役割はさらに変わっています。いま企業が知りたいのは、単に「市場規模がいくらか」だけではありません。
どの技術が実装段階にあるのか。
どの地域でサプライチェーンリスクが高まっているのか。
どの規制が市場構造を変えそうなのか。
どの価格が、いつ、なぜ動いているのか。
AIやデータセンターの需要は、半導体、電力、通信、冷却、建設、金融にどう波及するのか。この時代には、ChemAnalystのように、化学品・石油化学品の価格、需給、予測をリアルタイムに近い形で提供する情報サービスも重要になります。
原材料価格、エネルギー価格、化学品の需給、地域別の供給構造は、製造業にとって極めて重要です。また、既存の調査会社も、AI、データサービス、サブスクリプション、プラットフォーム化を強めています。
市場調査は、かつてのように「レポートを読んで終わり」ではなく、企業の意思決定システムに組み込まれる情報基盤になりつつあります。
調査会社を選ぶということは、視点を選ぶこと
市場調査レポートを買うとき、私たちはつい「どのレポートが一番正しいか」と考えがちです。でも実際には、レポートにはそれぞれ得意な視点があります。
技術の普及を読む会社
通信インフラを見る会社
規制を追う会社
半導体の供給能力を見る会社
新興市場を広く見る会社
医療やバイオに深い会社
生活者や小売の現場を見る会社
日本市場の文脈を補ってくれる会社
つまり、調査会社を選ぶことは、未来を見るための「視点」を選ぶことでもあります。
ひとつの会社のレポートだけで、すべてが見えるわけではありません。けれど、複数の調査会社の個性を理解すれば、市場の見え方はかなり変わります。
AI市場を見るには、半導体を見る必要があります。
半導体を見るには、材料と製造装置を見る必要があります
データセンターを見るには、電力と通信を見る必要があります
通信を見るには、規制と料金と投資を見る必要があります
消費者向けサービスを見るには、生活者の受容性を見る必要があります
このように、現代の市場は、ひとつの業界だけでは閉じていません。だからこそ、調査会社ごとの専門性を理解することが大切になります。
DRIの一覧は、世界の知のネットワークへの入口
DRIの調査会社一覧には、海外の調査会社だけでなく、日本国内の調査会社も掲載されています。
インプレス総合研究所
シード・プランニング
ネオテクノロジー
パテントテック
ミライロリサーチ
未来トレンド研究機構
次世代社会システム研究開発機構
総合技研
シーエムシー・リサーチ
アイ・ティ・アール
産業タイムズ社 などです。
日本企業が事業開発や投資判断をする際には、海外市場の情報だけでなく、日本市場の文脈も欠かせません。制度、商習慣、顧客行動、業界構造、国内プレイヤーの動き。
これらは、グローバルレポートだけでは拾いきれないことがあります。海外の調査会社と日本の調査会社を組み合わせることで、市場をより立体的に見ることができます。
市場調査会社の一覧は、ただのリストではありません。
それは、世界の産業知がどのように蓄積され、専門化し、再編され、データ化されてきたかを示す小さな年表でもあります。
・1970年代の産業情報
・1980年代の通信自由化と規制
・1990年代のワイヤレス、ネットワーク、自動車セキュリティ
・2000年代のデジタルサービス、IoT、半導体サプライチェーン
・2010年代のグローバル市場調査の量産化とプラットフォーム化
・そして2020年代のAI、リアルタイムデータ、サプライチェーンインテリジェンス
市場を知ることは、未来を決めることではありません。でも、未来を考えるための地図を持つことです。そして、その地図をどの調査会社から受け取るのか。それが、これからの事業開発や経営戦略において、ますます大切になっていくのだと思います。
今回ご紹介した調査会社以外にも、DRIでは、幅広い業界・テーマの市場調査レポートを取り扱っています。
気になる市場や調べたいテーマがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください!

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