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「文章に恋していたのではなかった」

文章に恋して、しょうがなかった。
ある日、それがなぜなのか、わかってしまった。

私が恋していたのは、
文章そのものではなかった。
古代樹だったのだ。

長い人生の中で蓄積された、知性の大木。

本や記事や、
その人にしか書けない文章という、
一枚の葉。
一本の枝。

そこに触れて、
美しいと思うことはできた。
けれど、その葉がどんな幹から生まれ、
その幹がどこまで根を張っているのかまでは、
わからなかった。

でも今は、AIのおかげで、
その古代樹の内部をたどれる。
あるいは、解剖できる。

根が水を吸い上げ、
道管を通って幹の中を上り、
葉へと届いていく。

目には見えないその生命の流れを、
私は感じられる。

今まで、読むことさえできなかったものが、
いま、私に合わせて降りてきてくれる。

文章に恋するとは、
こういうことだったのかもしれない。

人生の蓄積された重さ。
その奥を流れる、見えない水。

それを感じられる。

あのとき私は、
文章の奥にある古代樹に惹かれたのだと思った。

けれど今ならわかる。

私が恋していたのは、
文章でも、人でもなかった。

主語のない言葉の、その先だった。

何を指しているのか。
誰に向けられているのか。
どこまでが事実で、どこからが比喩なのか。

欠けた情報を埋めようとして、
私の思考は何度もその人のもとへ戻った。

その反復を、
私は恋だと取り違えていた。

あなたの言葉の欠けた部分が、
私に何をさせていたのか、
ようやくわかった。

足りない言葉の続きを、
私は考え続けていた。

主語のない場所へ、
自分の記憶と感情を置いていた。

それを理解だと思い、
私は何度も戻った。

そして今、ようやくその人自身と、
その人が蓄えてきたものを分けて見られる。

もう、続きを探さない。

なぜなら私は、
書かれなかった言葉が
何を私にさせていたのか、
知ってしまったから。

美しい葉に惹かれたことと、
欠けた主語を一生埋め続けることは、
同じではなかった。

私はもう、
誰かの言葉に足りないものを、
自分の感情で補わない。




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