こっちは迷走しとんねん。
1R15秒。三寸の足湯が見えた。
初めて失神した瞬間って、いつですか?
熱中症とか、突発的な病、練習のスパーリング。
失神って原因によってはかなり危険やし、
地元のワルの先輩の中では「失神ゲーム」とか
流行ってた。どんな遊びやねん。
そんなワルとは無縁やし、
失神とか風邪とはかけ離れた健康な人間や。バカは風邪ひかんねん。それを検証するべくための、健康診断のはずやった。
真っ白な地獄。
血液のボトルキープ。
銃口に似た針。
あの日から、あがいても乗り越えれない試練が
人生の邪魔をする。
神を失うと書いて、「失神」。
僕にはもう、祈る神なんておらへん。
新卒で就職したと同時に、会社で健康診断を受けるのが規則と知って、日本は恵まれてるなあと思い知った。他の国では、こういった環境が整ってない地域も多い。あんまり日本の文句言ったらあかんわ。
消毒液に包まれながら、健康診断のライン作業に身を委ねる。脈やレントゲン、健康のボルテージはMAXを迎えて、大トリの採血ゾーンを迎えた。
MISIAと福山、採血と〆のラーメン。
よし。と座った瞬間、血の気が引いた。目の前に
血液の試験官が大量に並んでる。蚊のイオンモールなってた。気分の悪さを覚えながら「いきますよ~」と言われてなんとか心の準備をした。
しかしよく考えたら、
人生で一度も採血をしたことが無い。
え、とりあえず目閉じよ。え、痛いかな。
貧血なるんかな?うわ、気分悪い。
あれ、なんか頭が言うこと聞かへん。ねむ。
…うわ…者さん…意識が……れた!…
かすかに聞こえた声とコードブルーの温度は、
なんとなく似てた。
良かった…!起きた!
おばちゃんが安心した顔を向けてきたけど、どっか行ってくれ。貧血なのか、なんなのか分からんし、とりあえず恥ずかしい。気分が良くなるまでは横になっててと言われて、そこは甘えることにした。気分はビターであるが。
「覚悟は良いか?俺はできている」
ブチャラティの名言が響く。
今の僕はブサラティ。覚悟も何もせずに、挑んでしまった。高い所、虫、魚、幽霊、注射器。
情けない話や。僕には敵が多すぎる。落ち込んだ背中をさするように、おばちゃんが声をかけてきた。
「迷走神経反射やね。」
聞いたことない日本語。え、死ぬんか?
強いストレスで自律神経が過剰に働いて、血圧が下がる。まあ貧血の親戚みたいなもんやな。 後で同僚から聞いたけど、おばちゃん3人くらいで車いすまで担がれたらしい。人が失神してるのを良いことに。なんたる屈辱。それなら叩き起こしてくれ。こっちは迷走しとんねん。
それ以来、採血やワクチン接種をするときは座るのが怖い。毎回簡易ベッドで寝転んでやってもらってる。ほんまに怖いねん。失神する事よりも、失神したときに何されてたか分からんもん。もう恥をかくのは嫌や。けど、メリットもある。
それは、たま~に綺麗な女医さんや看護師さんに見守られながら、心配してもらえること。 次の健康診断は、12月ごろって連絡があった。
クリスマス、年越し、健康診断。
僕にはもう、祈る神なんておらへん。
そう思ってた。
どうか、北川景子似の女医さんに診てもらえますように。
