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【わかるAIマガジン】(第4号)「自社に合うAI」は、どうやって見つけるのか

自社に合うAIの使い方は、外から眺めるだけで分かるものではありません。この記事では、他社事例を自社の工程に翻訳して読む方法、現場から困りごとを集める定型の問い、そして小さく試して見極める設計という三つの手順を整理します。読み終えたときに、「うちに合うものは何か」を自力で探し始められる状態になることを目指します。

「合うかどうか」は、探して確かめるしかない

第3号では「どの業務から手をつけるか」を扱いました。本号はその次の問いです。手をつける業務が決まったとして、そこに何が合うのかを、どうやって知るのか。

「自社に合うかどうか」は、外から見て分かるものではありません。必要なのは、誰かが持っている正解ではなく、自分で見つけるための手順です。
手順は三つあります。

  1. 他社事例を業務の工程に翻訳してみること。

  2. 現場の困りごとを定型の問いで集めること。

  3. 期間と範囲と判定基準を先に決めて、小さく試すこと。

この記事で解きたいのは、「事例を見ても規模も業種も違って遠い話に感じる」「うちは特殊なので、そのままでは当てはまらない」という手詰まりです。この記事で得た「自社に合ったAI活用」の探し方は今日から実践できるということ、そして、見つけたAIの使い方は、他社が真似できない自社固有の資産になるという気づきになれば幸いです。

「うちは特殊だから」は、たいてい事実である

経営者や事業責任者の方とお話ししていると、こんな言葉をよく聞きます。「事例集は読んだが、業種も規模も違って、自社の課題と重ならない」。「うちの商売はやり方が特殊なので、そのまま真似はできない」。「AIが便利なのは分かる。分からないのは、自社の何に合うのかだ」。

最初にお伝えしたいのは、この感覚はたいていの場合、正しいということです。自社の業務は、長年の顧客の要望と商習慣と長年業務をこなしてきた人に合わせて作られています。それが他社と違うのは当たり前で、「特殊だから当てはまらない」という判断は、事実を正確に見ている証拠でもあります。

つまり問題は、経営者の理解が足りないことでも、諦めが早いことでもありません。世に出ている事例が、そもそも自社に当てはめられる形で書かれていないだけです。だとすれば、必要なのは「もっと分かりやすい事例」ではなく、手元にある事例を自社の言葉に読み替える方法だということになります。

合う使い方が見えないのは、情報の置き場所が違うから

構造で見ると、事情はもう少しはっきりします。外に出ている情報は、たいてい「結果」です。どの会社が、どの道具を使って、何ができるようになったか。一方で、合うかどうかを決めているのは、自社の中にある「工程の形」です。誰が何を受け取り、どこで判断し、何を出しているのか。この二つは、そもそも置き場所が違います。

ですから、外の情報をいくら集めても、それだけでは答えは出ません。合うかどうかは、外の情報と社内の実態を突き合わせた瞬間に、ようやく仮説になります。そして仮説である以上、確かめるまでは分かりません。ここが肝心なところで、「合うかどうかを見極めてから始めたい」という慎重さは、順序として成立しないのです。見極めるために、小さく始める必要があります。

放置した場合のリスクは、導入率の差というより、蓄積の差として現れます。探し方を持たない会社は、「自社にぴったりの事例が現れるのを待つ」状態になります。待っている間、手元には何も残りません。一方、自分で探して確かめた会社には、試した記録と、外れた候補の理由が残ります。すると次に新しい道具が出たとき、半日で「これは自社のあの工程に効くかどうか」を判断できます。この差は、後から資金を投じても簡単には買えません。

ただ、不利な話ばかりではありません。この局面では、中小・中堅企業ならではの強みがあります。
まず、現場と経営の距離が近いこと。困っていることを、経営者が直接聞ける会社は、実はそう多くありません。そして、決めてから試すまでが速いこと。二週間だけ、この部署のこの作業で試す、という許可を一日で出せます。さらに、対象が絞られているぶん、合ったかどうかの判定が早く出ることです。
同じことを大企業でやろうとすれば、稟議と部門調整に数か月かかります。

合うものを見つける、3つの手順

前号では、業務を工程に割り、人が判断すべきところと機械に渡せる作業を仕分けるところまでを扱いました。ここからはその次の話です。選んだ工程に、何が合うのかをどう知るか。手順を三つに分けて整理します。

1.事例は「業種」ではなく「工程」で読む

他社事例をみるとき、多くの方が最初に見るのは会社の属性です。同業か、同じ規模か、同じ地域か。ここで重なりが見つからないと、「参考にならない」で終わります。そこで、読む場所を変えます。事例を次の問いに翻訳してみてください。

  • その事例は、どんな工程を人の代わりにやっているのか(集める、読み取る、分類する、書く、確認する、のどれか)。

  • 入り口に入ってくるものは何で、出口から出てくるものは何か。

  • 間違えたとき、誰がどうやって気づくのか。

このように分解すると、事例は業種から切り離されます。たとえば、ある小売業が「毎日の売上コメントの下書きをAIに作らせている」という事例があるとします。業種で読めば自社とは無縁ですが、工程で読めば「決まった書式に、数値と気づきを入れて文章にする作業」です。この工程は、建設会社の日報にも、士業の月次報告にも、製造現場の稼働報告にも、ほとんど同じ形で存在します。業種が違っても、工程が似ていれば移せる。逆に、同業の事例でも工程が違えば移せません。

この読み方に慣れると、事例集の使い勝手が変わります。同業を探し回る必要がなくなり、あらゆる業種の事例が候補になるからです。

2.現場に投げる問いを、定型にする

次は、社内から情報を集める方法です。ここで避けたいのは、「AIで何かできないか考えてほしい」という投げ方です。現場もAIを知らないので、答えは出ません。出てくるのは沈黙か、当たり障りのない提案です。
代わりに、困りごとの言葉で聞きます。

現場への3つの質問

  • 毎日または毎週、ほとんど同じ手順で繰り返している作業は何ですか。

  • 転記、確認、探し物のなかで、面倒だと感じるものは何ですか。

  • その作業を誰かに代わってもらうとしたら、どこまで任せられて、どこは自分で確かめたいですか。

大切なのは、集め方を定型にすることです。同じ問いを、同じ書式で、部署ごとに、期限を決めて集めます。そして集める前に二つを宣言してください。誰が書いたかは問わないこと、そして人事評価には一切使わないこと。この一言があるかどうかで、返ってくる中身がまったく変わります。自分の作業を差し出す行為は、多くの人にとって緊張を伴うからです。

集まった困りごとは、そのまま並べるのではなく、先ほどの工程の言葉(集める・読み取る・分類する・書く・確認する)に直して束ねます。すると、部署をまたいで同じ工程が何度も出てくることに気づきます。そこが自社の候補地です。

3.試す前に、「合う」の基準を言葉にする

最後に、確かめ方の設計です。ここで決めるものは四つあります。

  1. 対象(どの工程のどの作業か)

  2. 期間(二週間から四週間)

  3. 範囲(誰が、何件までやるか)

  4. 判定基準

このうち、いちばん意識されないのが判定基準です。「やってみて、うまくいったら続けよう」で始めると、終わったときに残るのは「便利でした」という感想だけになります。感想では、続けるか止めるかを決められません。ですから、始める前に、何をもって合うと判断するかを言葉にしておきます。

判定基準は、当事者が答えられる粒度にするのがこつです。たとえば、下書きの八割がそのまま手直しなしで使えるか。確認にかかる時間が、自分で作る時間より短いか。担当者が、この作業を元のやり方に戻したいと思わないか。どれも精密な測定はいりません。二週間後に、その場で答えが出るものであれば十分です。

そして、もうひとつ。合わなかったという結論も、立派な成果として扱ってください。候補がひとつ消えて、理由が言葉になったということですから、次の一手が速くなります。合うものを見つける作業は、当たりを引く作業ではなく、外れを減らしていく作業です。

この探し方が効くことには、裏づけもある

「工程で読む」という考え方には、調査からの裏づけもあります。リンプレスが2026年7月3日に発表した「2026年版 生成AI時代のDX人材育成に関する実態調査」(従業員1,000名以上の企業のDX担当者・部門長111名対象)では、生成AIで代替できる業務として情報収集・リサーチ(71.2%)と資料・ドキュメント作成(66.7%)が上位に挙がり、代替できない業務としては目的設計・企画立案や、関係者間の調整・意思決定が挙げられています。

注目したいのは、業種の異なる企業の担当者が答えているのに、挙がってくるものが「調べる」「書く」といった工程に集まっている点です。会社ごとに事業は違っても、工程のレベルでは共通するものがある。事例を工程に翻訳する意味は、ここにあります。調査対象が大企業中心である点は割り引いて読む必要がありますが、探す場所のあたりをつける材料としては使えると思います。

一方で、参照できる事例そのものは、まだ多くありません。帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、生成AIを「活用している」と答えた企業は34.5%にとどまっています(出典: 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」2026年3月)。つまり、自社と条件の近い事例が出てくるのを待つという戦略は、そもそも当てが外れやすい状況にあります。手元の材料を読み替えて、自分で確かめるほうが早い。それが現実的な判断だと考えています。

探しはじめると、必ずここでつまずく

支援の現場では、だいたい同じところでつまずきます。

例えば、現場に問いを投げても、最初は「特にありません」しか返ってこないことです。これは非協力ではなく、慣れの問題です。人は毎日やっていることを面倒だと認識しなくなります。効くのは、経営者や責任者が自分の例をひとつ先に出すことです。「私は毎週、この資料の数字を三か所から転記していて、これが面倒だ」と言ってしまう。順番として、これは驚くほど効きます。

また、集まった困りごとが「人が足りない」「時間がない」といった大きな話に寄ってしまうことです。この場合は、「その作業を、あなたはどんな手順でやっていますか」と聞き直します。手順の話に戻せば、工程が見えます。大きな課題の言葉のままでは、試すことができません。

他にも、よくある落とし穴が、事例探しに時間をかけすぎること。事例は三つも読めば十分で、四つ目からは判断が増えません。また、一度で当てようとすることも危険です。三回試して一つ残れば十分だと最初に決めておくと、進みが速くなります。
そして、最も重要なことは合わなかったことを失敗として扱わないことです。失敗として捉えることで、合う業務を探すこと自体が止まり、結果的にAI活用の可能性を阻害することになります。

乗り越え方は、期間を区切ることと、外れた記録を残すことに尽きます。外れの理由が3つ溜まった会社は、4つ目の候補を選ぶときにほとんど間違えません。

明日、コスト0でできる3つのこと

何か試してみようと思われたなら、費用のかからない次の3つから始めてみてください。

  1. いちばん忙しい部署の責任者ひとりに、先ほどの3つの質問をそのまま送ってみてください。メール数行で足ります。全社に配る必要はありません。ひとりから返ってくれば、聞き方が機能するかどうかが分かります。

  2. 最近気になった他社事例をひとつ選び、紙に三行で書き直してみてください。どんな工程を代わりにやっているのか。入るものと出るものは何か。間違いに誰がどう気づくのか。この三行に直せた事例は、自社の同じ工程を名指しできるようになります。

  3. 二週間の試行を仮に置いて、判定基準を一つだけ決めて、口に出して言ってみてください。「二週間後に、担当者が元のやり方に戻したいと思わなければ合っていた、とする」。この一文が言えるなら、その試行はもう設計できています。

探した結果は、自社にしか残らない

探し方の話をしてきましたが、この作業のいちばんの見返りは、道具が見つかることではありません。自社の工程を、自分たちの言葉で語れるようになることです。どの工程が繰り返しで、どこに人の判断が要るのか。何を任せて、何を確かめるのか。それが言葉になった状態は、そのまま教育にも、品質の担保にも使えます。

そして、見つかった「AIの合う使い方」は、自社の工程と顧客と人の並びに合わせて組み上がったものですから、他社がそのまま真似することはできません。汎用の道具を使っていても、組み合わせは自社固有になる。AIは人を減らすための道具ではなく、面倒に埋もれていた人の時間を、判断や工夫の側に戻すための道具です。

探した結果、「今回は合うものがなかった」という結論になっても、それは何もしなかったのとは違います。候補が減り、探し方が身についた状態です。決めることの重さは外からは見えにくく、判断の材料が揃わないなかで方向を示す仕事は、いつも孤独なものだと思います。それでも、探す手順さえ手元にあれば、いつ動くかは自社の都合で選べます。焦らず、聞くところから始めてみてください。

一緒に探す相手として

私たちは、AI導入支援・AI人材育成・システム開発を手がけていますが、ご相談の入り口でいちばん多いのは「うちに合うものが何なのか分からない」という声です。ですので、道具を提案する前に、現場から困りごとを集める問いを一緒に設計し、試行の判定基準を決めるところからご一緒することが多くあります。合うかどうかは、やってみないと私たちにも分かりません。その前提でご一緒するのが、いちばん無駄がないと考えています。

もし、探し方を一度だけ第三者と一緒に組んでみたい、あるいは集まった困りごとをどう候補に落とすか迷っている、という段階でしたら、無料相談という選択肢もあります。

【経営 x AIに関するご相談(無料)】
「AIとともに。人とともに。」
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なお、「そもそも、どの業務から手をつけるべきか」がまだ定まっていないと感じた方は、前号(第3号「なぜ、AIは”ツール選び”から入ると失敗する?」)を先にお読みいただくのが順序としておすすめです。対象が決まってからのほうが、探す作業はずっと速く進みます。

さて、あなたの会社で、あの三つの質問を最初に投げるとしたら、どの部署の誰に聞くのがよさそうでしょうか。

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