残り度数「1」のタイムマシン【今日は何の日エッセイ|#09 創作version03】
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大掃除の最中、本棚の奥から一枚のカードが出てきた。 懐かしい、緑色のテレホンカードだ。
パンチ穴が端っこにひとつだけ空いている。 度数の残りは、おそらく「1」か「2」。 10円分、つまり10秒通話できるかどうかだ。
「懐かしいな……」
そういえば、今日は12月23日。 たしか、日本で初めてテレホンカードが発行された日じゃなかったっけ。 そんな偶然に、少しだけ運命めいたものを感じてしまった。
今の時代、公衆電話を探すほうが難しい。 でも、なぜか無性に使ってみたくなった。 私は散歩がてら、近所の公園にある緑の公衆電話ボックスへと向かった。
受話器を取り、カードを入れる。 「カシャッ」という、乾いた音が心地いい。
誰にかけよう。 スマホを取り出せば、誰とでも無料で何時間でも話せる時代だ。 でも、このカードでしか繋がらない相手がいる気がした。
私は震える指で、記憶の底にある番号を押した。 もう解約してしまった、10年前の実家の家電(いえでん)の番号だ。
繋がるはずがない。 「おかけになった電話番号は……」というアナウンスが流れるだけだ。
プルルルル……プルルルル……
呼び出し音が鳴った。 心臓が跳ねる。
『はい、もしもし』
ガチャリと受話器を取ったその声に、息が止まった。 若くて、少し不機嫌そうな声。 間違いなく、10年前の私だ。就職活動がうまくいかなくて、毎日泣いていた頃の私だ。
度数の表示を見る。減っていくバー。残り時間はあと数秒しかない。 伝えたいことは山ほどある。 「その会社は落ちるよ」 「でも、もっといい出会いがあるよ」 「5年後に結婚するよ」
でも、言葉が出ない。 過去の不機嫌な私は、無言電話にイラついているようだ。
『もしもし? なんですか? 切りますよ』
私は慌てて、一言だけ叫んだ。
「……大丈夫だから! あんたの未来、意外と悪くないから!」
プー、プー、プー。
無情な電子音が鳴り、カードが戻ってきた。 度数は「0」になっていた。
冬の冷たい風が吹く電話ボックスの中で、私は少しだけ泣いた。 10秒間のタイムトラベル。 あの一言が、過去の私の「大丈夫」になっていますように。
(完)
📘 今日は何の日エッセイ
日付から生まれる、小さな気づきのエッセイをまとめています。
本日は12月23日。創作version03です。
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