見出し画像

災害デマにもう振り回されなくなる、公認心理師が教える3つの視点

「まさかそんなことが」――そう思ってニュースを見ていたら、実はそれが全く別の出来事の映像だった。そんな経験、ありませんか?

先日、南米ベネズエラで大きな地震が起きたあと、SNS上である動画が拡散されました。警報が鳴り響く港に津波が押し寄せ、小型船が飲み込まれそうになる、息をのむような映像です。101万回以上表示されたその投稿を見て、胸を痛めた方も多いのではないでしょうか。

けれど実はこの映像、ベネズエラのものではありませんでした。公認心理師として、そして一人の生活者として、この出来事から見えてきた「災害時に心が揺さぶられる理由」を、今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思います。


百万回再生された「津波」動画、その正体


投稿にはスペイン語で、ベネズエラの港町ラ・グアイラで津波が発生したと書かれていました。マグニチュード7.1、7.5という具体的な地震の規模も添えられ、多くの人がその内容をそのまま信じて共有していきました。

ところが動画をよく見ると、画面の隅に引用元のアカウントが表示されていました。たどってみると、そこには「2011年、日本。津波が襲来する数秒前」という説明があったのです。つまりこの映像は、東日本大震災の際に岩手県久慈港で撮影されたもの。震災の記憶を伝えるために震災伝承館が公開していたアーカイブ映像が、文脈だけを書き換えられ、14年の時を経てまったく別の災害の映像として拡散されていたのでした。

引用元に気づいた人たちのコメント欄には、「これは日本の映像では」「デマを広めないで」という声が並んでいました。それでもその4時間後には、同じ映像を使った日本語の投稿が新たに広まり、15万回以上表示されています。一度切り離された映像は、文脈を変えながら、繰り返し漂流していくのです。

なぜ私たちは、確かめもせずに信じてしまうのか


ここからは、心理の話をさせてください。

人は、不安が高まっている時ほど、強く感情を揺さぶる情報に引き寄せられます。これは意志が弱いからでも、情報を見る目がないからでもありません。命に関わる危険をいち早く察知しようとする、人間にもともと備わった働きです。恐怖や不安を伴う情報ほど、私たちの心は「念のため、反応しておこう」と判断しやすくなる。これは長い進化の過程で身につけてきた、ごく自然な仕組みなのです。

そこに、もう一つの要因が重なります。SNSには、表示回数に応じて収益が発生する仕組みがあります。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一教授は、この状況を「注目そのものが価値になる」構造だと分析しています。既存の映像に文脈だけを付け替えるという、手間のかからない方法でも、大きな注目を集めてしまう。私たちの不安が、そのまま誰かの収益につながってしまう仕組みが、今のSNSには組み込まれているのです。

デマがもたらす、もうひとつの静かな被害


山口教授は、この状況に二つの危険があると指摘しています。一つは、震災伝承館のような貴重な記録が悪用され続けることで、公開そのものが難しくなってしまう可能性。もう一つは、「どうせ古い映像だろう」「作り物ではないか」という疑いが、社会全体に広がってしまうことです。

これは、あの『狼少年』の寓話に少し似ています。何度も嘘の警報を鳴らし続けた結果、本当に危険が迫った時、誰もその声に耳を貸さなくなってしまう。災害時のデマが積み重なるほど、本当に命を守るために発信された情報までもが、届かなくなっていく危険があるのです。震災伝承館の担当者も、映像の目的外利用については「避けてほしい」と話していました。記録を守ることは、次の災害から命を守ることに直結しています。

情報の荒波を、冷静に渡るための3つの視点


ではどうすれば、私たちはこの荒波のような情報の渦に、飲み込まれずにいられるでしょうか。特別な訓練はいりません。日々の生活の中で、少しだけ意識を向ければ、誰にでもできることです。

一つ目は、感情が大きく動いた投稿ほど、いったん立ち止まる習慣です。怒りや恐怖、同情を強く揺さぶられた時ほど、私たちは確かめるより先に共有してしまいます。心が動いた瞬間こそ、深呼吸のタイミングだと覚えておいてください。

二つ目は、引用元や投稿の日時を確認すること。今回のケースでも、引用元をたどった人たちの多くが、コメント欄で疑問の声を上げていました。たった一手間で、真実にぐっと近づくことができます。

三つ目は、公式な発表や一次情報源にあたること。ベネズエラ政府も「津波は発生していない」と明確に発表しています。不確かな投稿より、公的機関の発言を優先する習慣を持つだけで、振り回される回数はぐっと減っていきます。

「疑うのは面倒」と感じるかもしれません。でも私は、それを面倒な作業ではなく、自分と大切な人を守るための、ちょっと知的なチャレンジだと捉えてみてほしいと思っています。

おわりに


今回お伝えしたかったことをまとめます。

  • 不安な時ほど、強く感情を揺さぶる情報に引き寄せられるのは、人間として自然な反応であること

  • SNSの「注目=収益」という構造が、災害時のデマを生みやすくしていること

  • デマの拡散は、防災の記録や、本当に大切な情報への信頼まで傷つけてしまうこと

  • 感情が動いた時こそ立ち止まり、引用元と公式発表を確かめる習慣が、私たちを守ってくれること

災害のニュースに心を揺さぶられるのは、あなたが優しい証拠です。その優しさを、正しい情報を選び取る力に変えていきましょう。あなたにはその力が、もうすでに備わっています。

以上が、今回お伝えしたかった内容です。どこか一つでも「試してみよう」と思える点があれば幸いです。お読みいただき、ありがとうございました。

(参考:FNNの取材報道、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター山口真一教授の分析を基に構成しています)

#災害心理学 #フェイクニュース #情報リテラシー #公認心理師 #防災


いいなと思ったら応援しよう!

AIでエビデンスを探る_公認心理師 よろしければ応援お願いします。いただいたチップは、執筆のための書籍購入や、AIのために使わせていただきます。