能登地震で起きた偽SOS拡散|公認心理師が伝える情報防災3つの心得
災害が起きたとき、皆さんは真っ先に何を手に取りますか?
おそらく多くの方が、テレビではなくスマホを開き、SNSのタイムラインを追うのではないでしょうか。私もそうです。医療現場で働きながら、情報がいかに人の行動を左右するかを日々感じています。
公認心理師として人の心の動きを学んできた身として、いま強くお伝えしたいことがあります。それは、現代の防災に欠かせない備えのなかに「情報との向き合いかた」があるということ。
今日は、水や食料と同じくらい大切な"情報防災"について、隣で語りかけるような気持ちでお話ししていきますね。
「善意」が救助を邪魔した、能登半島地震の現実
2024年元日の能登半島地震。あの混乱のなかで、SNS上には「家の下敷きになっています、助けてください」という切実なSOSが大量に流れました。
ところが、その住所をたどってみると、実在しない番地だったり、まったく別の地域だったりするものが数多く混じっていたのです。なかには海外から発信されたとみられるものもあり、警察や消防の限られた人員が、存在しない現場へ向かうという事態が起きました。
私はこのニュースに触れたとき、医療現場で「誤った情報による二次被害」を見てきた経験と重なって、ぞっとしたのを覚えています。
そして同時に思ったのです。「この拡散に加担した人の多くは、悪意ではなく善意だったのだろうな」と。
「みんなに知らせなきゃ」「一刻も早く助けてあげたい」――その気持ちこそが、デマを爆発的に広げる燃料になってしまう。これが情報災害、いわゆるインフォデミックの一番恐ろしいところだと、私は感じています。
なぜ災害時、私たちは"嘘"を信じてしまうのか
社会心理学の世界に、有名な「流言の公式」というものがあります。
デマの広がりやすさ=情報の重要性 × 状況の曖昧さ
これを災害時に当てはめてみると、ぞっとするほどしっくりきます。「生死に関わる情報(重要性は最大級)」が、「停電やパニックで公式情報が届かない(曖昧さも最大級)」という状況に置かれる。掛け算の結果は、まさに天井知らずです。
さらに、人間の脳には不安に耐えるための"クセ"があります。
理不尽な自然災害に襲われたとき、人は強い無力感を覚えます。その耐えがたい感情を和らげるために、「これは人工地震だ」「あの組織が裏で動いている」といった、誰かのせいにできる物語(陰謀論)に飛びついてしまうのです。
私はこれを臨床心理学の知見として知っていましたが、SNS時代になってから、その動きが目に見える形で可視化されたなと感じています。
1995年の阪神・淡路大震災のころは、デマは口コミで広がっていました。それが今や、ワンタップで世界に届く。情報の流れる速度と量が、人の心の処理能力を完全に追い抜いてしまったのです。
進化する"敵"の手口――インプレゾンビと生成AI
ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。災害時のデマは、もはや「うっかり間違えた人」だけが流しているわけではないという現実です。
X(旧Twitter)などでは、閲覧数(インプレッション)に応じて広告収益が発生する仕組みがあります。これを悪用し、災害が起きるたびに被災地と無関係な海外アカウントが、煽情的な偽情報を大量投下する。いわゆる「インプレゾンビ」と呼ばれる現象です。
つまり、誰かの命がかかった瞬間に、別の誰かが小遣い稼ぎをしている。これが現在のSNSの構造なのです。
そしてもう一つ、生成AIの登場です。
2022年の静岡水害では、ドローン撮影風の精巧な水害画像が拡散されました。後にAI生成だと判明しましたが、ぱっと見では本物と区別がつかないレベルでした。
私たちはいま、「写真は証拠にならない時代」に生きている、そう自覚しておく必要があると感じています。
公認心理師として伝えたい、情報防災3つの心得
さて、ここからが本題です。
ではどうすれば、私たちは情報の濁流に飲まれずに済むのか。専門書を読み込み、自分自身も日々実践しているなかで、特に大切だと感じている3つの心得をお伝えしますね。
心得その1:「感情が動いた瞬間」こそ立ち止まる
これが一番大事だと、私は思っています。
怒り、不安、正義感、悲しみ。SNSで強い感情が湧き上がったとき、それは脳が「冷静な判断回路を切った」サインです。心理学では情動ハイジャックと呼びますが、要するに、心が乗っ取られている状態。
私自身、医療系のニュースで腹立たしい投稿を見ると、思わずシェアボタンに指が伸びそうになります。でもそんなときこそ、深呼吸して、お茶を一杯飲む。
「公式発表(一次情報)はあるか」「この情報で誰が得をするのか」――この2つを自分に問いかけるだけで、判断の精度はぐっと上がります。
心得その2:「ソ・ウ・カ・ナ」の4文字を覚えておく
情報リテラシー教育の現場で使われる、覚えやすい合言葉があります。
ソ…即断しない
ウ…鵜呑みにしない
カ…偏らない
ナ…中(一部)だけ見ない
たったこれだけ。でも、この4つを頭の片隅に置いておくだけで、シェアする前のひと呼吸が自然と入るようになります。
私は患者さんやご家族に医療情報をお伝えするときも、この姿勢を大切にしています。「すぐに結論を出さない」ことは、医療でも情報でも、本当に大事な作法だと感じます。
心得その3:「分からない」を抱えていられる強さを持つ
これは少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、情報防災の本質はここにあると私は確信しています。
人は不確実な状態に弱い生き物です。だから、たとえ間違っていても「明確な答え」をくれるデマや陰謀論に惹かれてしまう。
でも本物の専門家ほど、「現時点では分かっていません」「もう少し時間が必要です」と正直に言います。それが誠実さだからです。
「分からないことは、分からないまま保留しておく知的な忍耐力」
これこそが、現代を生きる私たちに求められる新しい胆力ではないでしょうか。情報の空白に耐えられる人は、デマに乗っ取られません。
一人ひとりが「情報の防波堤」になる
ここまで読んでくださって、もしかすると「自分には荷が重い」と感じた方もいるかもしれません。
でも、安心してください。完璧でなくていいのです。
私は臨床の場で、人がいかに不完全で、いかに誠実であろうとしているかを、毎日のように見ています。だからこそ言えます。情報防災は「上手にやる」ことではなく、「やろうとし続ける」ことに意味があるのだと。
あなたが今日、シェアボタンを押す前に3秒立ち止まったとしたら。それだけで、あなたの後ろにいる誰かを救うかもしれません。
情報防災とは、特別な技術ではありません。隣にいる人を思いやる気持ちの、ひとつの形なのだと私は思っています。
おわりに
最後に、今日お伝えしたかったことを整理しておきますね。
ひとつめ。災害時のデマは「悪意」ではなく「善意」から広がります。だからこそ、自分も加害者になりうると知っておくこと。
ふたつめ。デマは「重要性 × 曖昧さ」で爆発します。情報が乏しい状況ほど、心がだまされやすくなる――これを覚えておいてください。
みっつめ。感情が動いた瞬間こそ立ち止まる。シェアの前の3秒が、誰かの命を守るかもしれません。
よっつめ。「ソ・ウ・カ・ナ」の合言葉を、いつでも引き出せるようにしておきましょう。
いつつめ。「分からない」を抱えていられる人になりましょう。それが現代の知性です。
水や食料を備えるのと同じように、心にも防災を。
あなたはきっと、変化を起こせる人です。今日のひと呼吸が、明日の誰かを救う。そう信じて、私も一緒に学び続けていきます。
ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。「おもしろかった」「役に立った」と感じていただけたら、そっとスキを押していただけると、とても励みになります。
#情報防災 #災害対策 #公認心理師 #メディアリテラシー #SNSとの付き合い方
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