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アルゴリズムをONにしたら考えが変わり、OFFにしても戻らなかった話

あなたは今日、Xを何回開きましたか?

そのとき表示された投稿は、あなたが「自分で選んだ情報」だと感じていたでしょうか。私たちはSNSを開くたびに、自分の意思で情報を集めていると思っています。でも実際には、プラットフォームが用意した「おすすめ」に沿って、知らず知らずのうちに特定の方向へ誘導されている可能性がある。そんなことを示す、かなりインパクトのある論文がNatureに掲載されました。

今回は、公認心理師としてメンタルヘルスと情報環境の関わりに関心を持つ私が、この研究をできるだけわかりやすく紹介しながら、「私たちはSNSとどう付き合えばいいのか」について考えてみたいと思います。


Natureに載った「Xのアルゴリズム実験」とは何か

2026年2月、科学雑誌Natureにひとつの論文が掲載されました。タイトルを日本語にすると「Xのフィードアルゴリズムの政治的影響」。ボッコーニ大学、ザンクトガレン大学、パリ経済学院の研究者4人による共同研究です。

この研究のすごいところは、実際のXユーザーを対象に、大規模なランダム化比較実験(RCT)を行ったことです。RCTというのは、新薬の効果を調べるときと同じ手法で、対象者をランダムにグループ分けして効果を厳密に測定するものです。これをSNSのアルゴリズム研究に適用したのですから、エビデンスとしての強さは格別です。

実験の概要はこうです。2023年の夏、アメリカ在住のアクティブなXユーザー約5000人を、「アルゴリズムフィード(おすすめ順)」か「時系列フィード(フォロー中の投稿を新しい順に表示)」のどちらかにランダムに割り当て、約7週間使い続けてもらいました。その前後でアンケートを行い、政治的態度やプラットフォームの使い方がどう変わったかを測定したのです。

3つの主要な発見


この研究から見えてきた重要な知見を、3つに整理してお伝えします。

まず1つ目。アルゴリズムをONにすると、政治的意見が保守方向にシフトした。

もともと時系列フィードを使っていた人がアルゴリズムフィードに切り替えた場合、政策の優先順位、トランプ氏の刑事捜査に対する見方、ウクライナ戦争に対する態度が、いずれも保守的な方向に動きました。たとえば、共和党が重視するインフレ・移民・犯罪といった政策課題を優先する割合が4.7ポイント上昇し、トランプ氏への捜査を「受け入れがたい」と考える割合が5.5ポイント増えました。ゼレンスキー大統領を肯定的に見る割合は7.4ポイント低下しています。

これらの数字は、わずか7週間の介入で生じた変化です。私はこの結果を読んだとき、正直にいって背筋がひんやりしました。たった7週間でこれだけの影響が出るということは、何年もアルゴリズムフィードを使い続けている私たちには、もっと大きな累積効果が生じている可能性があるということです。

2つ目。アルゴリズムをOFFにしても、政治的態度は元に戻らなかった。

これが本研究の最もインパクトのある発見だと私は思います。もともとアルゴリズムフィードを使っていた人を時系列フィードに切り替えても、政治的態度にはほとんど変化がなかったのです。つまり、アルゴリズムの効果は「一方通行」なんですね。

なぜこんな非対称な結果が出るのか。研究チームが突き止めたメカニズムがとても興味深い。アルゴリズムフィードに触れた人は、保守的な政治活動家のアカウントを新たにフォローする傾向がありました。そして、フィードを時系列に戻しても、そのフォローは解除しない。つまり、アルゴリズムが「種」を蒔き、ユーザー自身の行動がそれを「根付かせる」のです。

これは私たちの認知の仕組みを考えると、非常に納得がいきます。人は自分がフォローした相手の情報は「自分で選んだもの」だと感じます。実際にはアルゴリズムが出会いのきっかけを作っているのに、一度フォローしてしまえばそれは「自分の判断」になる。心理学でいう「選択の正当化」が働いているのかもしれません。

3つ目。党派性や感情的分極化には、有意な変化が見られなかった。

面白いのは、「自分は共和党寄りだ」「民主党寄りだ」といったアイデンティティレベルの党派性や、相手陣営への嫌悪感(感情的分極化)には、アルゴリズムのON/OFFどちらでも有意な影響がなかったことです。変わったのは、個別の政策課題や時事的なニュースに対する態度のほうでした。

これをどう解釈するか。おそらく、党派性というのは私たちのアイデンティティの深い部分に根ざしていて、7週間程度では容易に動かない。一方で、「ウクライナ戦争についてどう思うか」「トランプ氏の捜査をどう評価するか」といった具体的な意見は、接触する情報によって比較的短期間で変化しうる、ということでしょう。これは認知心理学の知見とも整合的です。

Metaの研究では「影響ゼロ」だったのに、なぜXでは影響が出たのか


実は、2023年にMetaのプラットフォーム(FacebookとInstagram)で行われた同様の大規模研究では、アルゴリズムを切っても政治的態度に変化はなかったという結果が出ています。この結果は「アルゴリズムは思ったほど影響力がない」という解釈で広く知られていました。

しかし今回の研究は、この解釈に重要な修正を加えるものです。Metaの研究はアルゴリズムを「OFF」にした効果だけを調べていました。今回のXの研究で明らかになったのは、アルゴリズムをOFFにしても影響が残るメカニズムの存在です。つまり、Metaの研究で「影響ゼロ」だったのは、「アルゴリズムに影響力がないから」ではなく、「一度付いた影響は消えないから」かもしれないのです。

これは、たとえるなら「一度染まったインクは、水で洗っても完全には落ちない」ということに似ています。染める前と後では結果が違う。Metaの研究は「インクを洗い流す実験」だけをしていたのに対し、今回の研究は「インクで染める実験」と「洗い流す実験」の両方を同時にやった。だから、より全体像が見えた。

アルゴリズムは何を「推し」て何を「消す」のか


研究チームは、Chrome拡張機能を使って、参加者のフィードに実際に表示される投稿の内容も分析しています。ここから見えてきた構図も鮮明でした。

アルゴリズムフィードは、時系列フィードと比べて、保守的な投稿が表示される確率が約2.9ポイント高く、政治活動家の投稿が5.9ポイント多く表示されていました。逆に、報道機関の投稿は15.5ポイントも少なくなっていた。エンターテインメント系の投稿は9.1ポイント増加しています。

つまり、アルゴリズムがやっていることを大雑把にまとめると、「伝統的なニュースメディアを脇に追いやり、政治活動家とエンタメのコンテンツを押し出す」ということです。しかもこの傾向は、民主党支持者のフィードでも共和党支持者のフィードでも共通して観察されました。

エンゲージメント(いいね・リポスト・コメント)の差は桁違いで、アルゴリズムフィードに表示される投稿の平均いいね数は13,212、時系列フィードでは2,781。約4.8倍の差です。アルゴリズムは「多くの人が反応するコンテンツ」を優先的に表示する設計になっているので、これ自体は驚くことではありません。しかし、その「反応を集めやすいコンテンツ」が政治的に偏っているとすれば、結果として特定の方向への誘導が生じるわけです。

この研究の限界と、私たちが知っておくべきこと


公正を期すために、この研究の限界もきちんとお伝えしておきます。

研究者自身が論文で述べている通り、この結果は2023年夏のXという特定のプラットフォーム・特定の時期における発見であり、そのまま他のSNSや他の時期に一般化できるわけではありません。また、プラットフォームの所有者(イーロン・マスク氏)の方針がアルゴリズムに影響している可能性もあり、別のオーナーのもとでは異なる結果になるかもしれません。

参加者はアクティブなXユーザーに限定されていますし、コンプライアンス(指定されたフィード設定を守ったかどうか)は85%が自己報告に基づいています。サンプルサイズの制約から、細かなサブグループ分析も難しいとされています。

ただし、それでもこの研究の意義は大きいと私は考えます。なぜなら、Xの運営会社とは独立に実施された実験であり、利害関係がない第三者による検証だからです。また、ランダム化比較実験というゴールドスタンダードを用いている点で、因果関係の推定としての信頼性が高い。

公認心理師として考えること


ここからは、この研究を踏まえた私自身の考えを述べます。あくまで個人的な見解であり、論文の知見そのものとは区別してお読みください。

私がこの研究結果で最も気になったのは、「自分で選んだつもりの情報が、実はアルゴリズムによって方向づけられていた」という構造です。これは心理学的に見て、自律性(autonomy)の問題に直結します。

私たちの心の健康にとって、「自分で決めている」という感覚はとても大切です。自己決定理論(Self-Determination Theory)によれば、自律性は人間の基本的な心理的欲求のひとつです。SNSのアルゴリズムがこの「自分で決めている感覚」を密かに損なっているとしたら、それは単なる情報の偏りの問題ではなく、心理的な健康の問題でもあるはずです。

もちろん、だからといって「SNSを今すぐやめましょう」と言いたいわけではありません。SNSは私たちの生活に深く組み込まれていますし、有益な情報源でもあります。大切なのは、「受け身でいると流される」という現実を知ったうえで、意識的な使い方をすることだと思います。

今日からできる3つのこと


最後に、この研究から学べる実践的なヒントを3つ挙げます。

1つ目は、時系列フィードを意識的に使ってみること。Xには「フォロー中」タブがあります。ときどきこちらに切り替えて、自分がフォローしている人たちの投稿だけを見る時間を作る。これだけでも、アルゴリズムに「おまかせ」する時間を減らせます。

2つ目は、自分のフォローリストを定期的に見直すこと。この研究が示したように、アルゴリズムの影響は「フォローする相手」を通じて定着します。逆に言えば、フォローリストを意識的に管理することが、最も効果的な「防御策」になり得ます。

3つ目は、ニュースソースを複数持つこと。アルゴリズムは報道機関のコンテンツを大幅に減らし、代わりに活動家やインフルエンサーの発信を増やします。信頼できる報道機関の公式サイトやアプリに直接アクセスする習慣を持つことで、情報の偏りを是正できます。

終わりに

ここまでの内容をまとめます。

  • Xのアルゴリズムフィードは、わずか7週間の接触でユーザーの政治的態度を保守方向にシフトさせることが、Nature掲載の大規模RCTで実証された

  • その影響は非対称的で、アルゴリズムをOFFにしても態度は元に戻らない

  • メカニズムは「フォロー行動の変化」にあり、ユーザーが自発的にフォローした保守的な活動家アカウントが、フィード設定を変えても残り続ける

  • アルゴリズムは保守的コンテンツを増やし、報道機関のコンテンツを大幅に減らす傾向がある

  • 私たちにできることは、フィード設定の意識的な切り替え、フォローリストの定期見直し、ニュースソースの多元化

SNSのアルゴリズムは、よくも悪くも私たちの「世界の見え方」に影響を与えています。でも、その仕組みを知っていれば、振り回されるのではなく、主体的に付き合うことができる。知識は、いつだって最強の防具です。

この記事を読んでくださったあなたには、その防具がもう手に入っています。あとは使うかどうか。私は、あなたならきっと使えると思っています。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


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出典: Gauthier, G., Hodler, R., Widmer, P. & Zhuravskaya, E. The political effects of X's feed algorithm. Nature (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10098-2


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