世界が注目するフィンランドのメディアリテラシー教育
「これは本当に信頼できる情報なのか?」——SNSやネットニュースが溢れる現代、私たちは日々この問いに直面しています。
フィンランドでは、子どもたちが学校で「情報の真偽を見極める力」を体系的に学んでいます。NHKでも取り上げられたその取り組みの中心にあるのが、Merkki(メルッキ)のファクトチェックシートです。
このシートには、18項目のチェックリストが掲載されています:
□ 全文を読もう。どのような内容ですか。
□ 情報源を確認しよう。情報はどこからのものですか。
□ 著者は実在する人/ものですか。
□ 投稿の日時を確認しよう。その情報はタイムリーですか。
□ 同じ情報を他でも見つけられるか確認しよう。
□ 発行元を確認しよう。それはどのような機関ですか。
□ 発行元のURLを確認しよう。信頼できるものですか。
□ 情報を投稿したサイトやアカウントを確かめよう。
□ 発行元のフォロワー数を調べよう。
□ 投稿の画像を確かめよう。怪しいところはないですか。
□ 投稿の目的を考えよう。投稿で得をする人はいませんか。
□ 画像検索をして、同じ画像が他でも見つかるか確かめよう。
□ 細かいところを調べよう。例えばロゴが疑わしいことはないですか。
□ 投稿の文章をチェックしよう。誤字脱字などはありませんか。
□ 親や先生、図書館の人など、信頼できる大人に相談しよう。
□ "真実だとしたら信じられない" そんな内容でないか確認しよう。
□ 専門家の意見を聞いてみよう。専門家はその情報を真実と認めるだろうか。
□ 自分の思考や意見を意識しよう。判断に影響していないか考えよう。
実用的で包括的なこのチェックリストは、学校教育の現場で実際に使われており、子どもたちの「考える力」を育てています。
なぜ、フィンランドはここまで徹底したのか?
このような国家規模のメディアリテラシー教育は、一朝一夕で生まれたものではありません。どのような背景や経緯があって、フィンランドは世界に先駆けてこの取り組みを進めることになったのでしょうか。
今回、ChatGPT-5 Deep Researchを使って、その歴史的背景と教育政策の変遷を詳しく調査しました。
歴史的背景(情報リテラシー教育の開始と背景要因)
フィンランドは世界に先駆けてメディア・情報リテラシー教育に取り組んできた国です。その萌芽は1970年代まで遡り、この頃からメディアリテラシーが国家の教育課程に組み込まれていました[1]。背景には、国民の読解力向上や批判的思考の育成といった教育面での関心に加え、隣国ロシア(旧ソ連)からのプロパガンダへの警戒心がありました。事実、フィンランドでは教育を社会の防衛手段(collective civil defense)の一環と捉える伝統があり、高い教育水準と公共機関への信頼が偽情報への耐性を支える要因とされています[2]。
21世紀に入りインターネットとSNSが普及すると、オンライン上のフェイクニュース拡散が深刻化しました。フィンランド政府は2013年に国家的なメディアリテラシー教育推進目標を策定し、数年間で「フェイクニュースや誤情報を見分ける方法」を教えるキャンペーンを加速させました[3]。特に2014年の欧州議会選挙や国内選挙の時期に、ロシア発のプロパガンダや医療デマ、気候変動否定論など誤情報の氾濫が顕著になったことが大きな転機となりました[4]。このときフィンランドでは民間のファクトチェック団体「Faktabaari(ファクトバーリ=FactBar)」が設立され選挙関連の偽情報検証に当たりましたが、次第に「いくら検証情報を発信してもフェイクの拡散スピードに追いつけない」という問題意識が高まりました[5]。そこで発想を転換し、「国民一人ひとりが自らファクトチェッカーになれるよう教育しよう」という戦略が取られるようになったのです[6]。この流れの中で2016年には新国家カリキュラムが導入され、「複合的リテラシー(multiliteracy)」の概念の下、幼稚園・学校教育に情報リテラシーを本格的に組み込む改革が行われました[7]。こうした教育面の強化は、2014年以降顕在化したロシアからのハイブリッドな情報工作への社会的な危機感と相まって推進され、2022年にロシアによるウクライナ侵攻が起きるとその重要性は一層増しています[3]。
学校教育(初等・中等・高等教育における対策)
フィンランドの学校教育では、メディアリテラシー(情報リテラシー)教育が初等教育から高等教育まで一貫して重視されています。特徴的なのは、専用の単独科目を設けるのではなく国語や社会、理科など複数の教科横断的にメディアリテラシー要素を組み込み、幼児教育から継続的に指導するクロスカリキュラムモデルを採用していることです[8]。例えば2016年施行の新教育指導要領では「複合的リテラシー(multiliteracy)」が重要な学習領域に位置づけられ、児童・生徒がデジタルメディアやSNS上の情報を主体的かつ批判的に読み解く力を涵養することが明確に掲げられました[7]。フィンランドの教師は担当科目に関わらず授業の中でメディアリテラシー教育の要素を取り入れることが義務づけられていますが、その実施方法については大きな裁量が与えられており[9]、各現場で創意工夫が凝らされています。
こうした柔軟な指導のもと、多彩な授業実践が行われています。例えば、中学校の授業でニュース記事を読ませ「記事の目的は何か?」「いつ・誰によって書かれたものか?」「筆者の主張は何か?」といった点を生徒同士で議論させる[10]、あるいはTikTok上の短い動画を3本見せて「投稿者の意図やその情報が視聴者に与える影響」について話し合う[10]といった具合です。また別の教師の実践では、生徒自身に画像や動画の編集を体験させ「デジタル上で情報を操作するのがいかに容易か」を実感させる授業も行われています[9]。あるヘルシンキの教師は、生徒に「予防接種」という語でネット検索させ、検索エンジンのアルゴリズムの仕組みや、検索結果の上位に表示された情報が必ずしも信頼できるとは限らない理由について議論させました[11]。こうした活動を通じて、生徒たちはオンライン情報をうのみにせず出所や意図を批判的に捉える習慣を身につけていきます。
初等教育の段階からも段階的な学習が行われており、例えば小学生向けにはネット上で拡散されたフェイクニュースを教材として、その発信者の背景や画像加工の有無を分析する手法を学ぶ授業があります。その授業では次のようなチェックリストが活用されています[12]:
· 情報の投稿者は誰か(発信源の確認)
· 発信源は信頼できるか
· 画像に不自然な点はないか(加工や偽造の痕跡)
· 他のメディアでも同じ情報が報じられているか
このようなポイントを子ども達が一つ一つ点検することで、偽情報に惑わされない視点を養うことが狙いです。
さらに、ファクトチェックの専門機関Faktabaari(ファクトバーリ)は教育現場向けにデジタル・ツールキットを開発し、学校でのフェイクニュース対策教育に提供しています[13]。この教材は、いわゆるミスインフォメーション(misinformation:誤情報)、ディスインフォメーション(disinformation:虚偽情報)、マルインフォメーション(malinformation:悪意ある情報)という3種類の情報の質に着目し、それぞれを見極め判断する力を養うことを目的としています[14]。具体的なエクササイズとして、例えばYouTube動画やSNS投稿を題材に「思わずクリックしたくなる煽情的な見出しやインパクトの強い文言にどんなバイアスが潜んでいるか」「誤情報が読み手の感情にどう働きかけるか」を検証したり[15]、生徒自身に架空のフェイクニュース記事を書かせてみるといった活動も含まれています[15]。こうした実践に携わった教育者の一人、カリ・キヴィネン氏(元欧州学校書記長)は「子ども達には、SNSで“いいね”を押したり内容をシェアする前に『これは誰が書いたものか?どこが発信元か?他の情報源でも確かめられるか?』と常に自問する癖を身につけてほしい」と強調しています[16]。
なお、フィンランドの教員養成課程自体にもメディア教育の視点が組み込まれており、例えばラップランド大学には「メディア教育」を専門に学べる国際修士課程が設置されています[17]。また教師向けには国立音声視聴覚研究所(KAVI)が運営する「メディアリテラシー・スクール」というオンラインポータルがあり、学校・図書館・青少年センターなどで使える教材やワークショップ資料が無償提供されています[18]。このように初等教育から高等教育、教員研修に至るまで体系的かつ継続的なフェイクニュース対策教育の仕組みが整えられている点がフィンランドの大きな特徴です。
一般市民への取り組み(成人教育・高齢者対策・社会啓発活動)
フィンランドではフェイクニュース対策のリテラシー向上策が学校教育だけでなく社会全体に広がっています。政府・教育機関・メディア・民間団体が連携し、全年齢層を対象にした啓発活動や生涯学習プログラムが展開されています。
まず政府主導の啓発として、毎年2月には全国規模の「メディア・リテラシー週間」が開催されます。この取組は2010年代から毎年行われているもので、子どもから大人まで幅広い層のメディアリテラシー技能の向上を目的に、官民55のパートナー組織が協働して教材やキャンペーンを多数実施しています[19]。例えば2019年のメディアリテラシー週間では約30種類の教材・キャンペーンが展開され、保育園・学校の教師や保護者、図書館員、企業の広報担当者など、情報教育に関わるあらゆる人々を支援する内容となりました[19]。この週間はEUのSafer Internetプログラムの一環として資金支援も受けており、安全なインターネット環境づくりと表裏一体で国民のメディアリテラシー啓発を進める狙いがあります[20]。
また前述の国立音声視聴覚研究所(KAVI)は、メディア教育分野の法定機関として国内の情報リテラシー施策を統括しています。KAVIは毎年「メディア教育フォーラム」を開催して教育・メディア関係者のネットワーク構築や知見共有を促進しているほか[21]、前述のオンライン教育ポータル「メディアリテラシー・スクール」を通じて質の高い教材を幅広く提供しています[18]。加えてKAVIは欧州委員会のメディアリテラシー専門家グループやSafer Internet専門家グループにも参画し、国際協調のもと最新の偽情報対策知見を国内にも取り入れています[22]。こうした政府機関の尽力により、教育現場以外の図書館や青少年施設、地域コミュニティでもメディアリテラシー学習の機会が確保されています。
民間やメディアの取り組みも盛んです。フィンランドにはメディア教育に関わる多くの市民団体・NPOが存在し、その多くはフィンランド・メディア教育協会(Finnish Society on Media Education)のメンバーとして活動しています[23]。同協会は情報リテラシーに関する最新の研究・実践情報を発信し、全国規模でセミナーやワークショップを開催するなど、官民のハブ的役割を果たしています[23]。公共放送であるYLE(フィンランド放送協会)もまた社会全体のメディアリテラシー向上に寄与しています。YLEは自社のウェブサイト上で一般向けのデジタルリテラシー講座「Digitreenit(デジトレーニ)」を開設しており、インターネットの基本的な使い方からフェイクニュースの見抜き方まで、誰もが自主学習できる豊富な教材を無料提供しています[24]。さらにYLEは「Uutisluokka(ニュース・クラス)」と呼ばれる青少年向けプログラムも展開しており、11~18歳の中高生を対象にニュース制作体験やジャーナリズム学習の機会を提供しています[24]。若者が実際にニュース番組を作ったりプロの記者と交流したりすることで、メディアの仕組みや報道倫理への理解を深め批判的思考を育む狙いがあります[24]。
成人や高齢者に向けたリテラシー向上策も充実しています。フィンランドの成人教育機関やNGOは、デマ情報に脆弱になりがちな高齢者層への働きかけにも力を入れています。例えば2018~2020年には教育文化省の資金提供によりIKÄIhme(「高齢者の驚異」の意、年長者向けメディア教育プロジェクト)と呼ばれる取り組みが実施されました[25]。これは各地の成人教育指導者に対し、高齢者を対象にデジタル・メディアリテラシーを教えるための研修を行うプロジェクトで、高齢者がインターネット上の情報に適切にアクセスし活用できるよう支援するものでした[25]。また健康分野では、フェイクニュース対策と市民教育を兼ねたユニークな試みとして「Vastalääke(ヴァスタラケ)」(フィンランド語で「解毒剤」や「特効薬」の意味)というプロジェクトが挙げられます[26]。これはフィンランド生涯学習財団(KVS)が2019年に開始したプロジェクトで、医学生のグループにジャーナリストが科学ライティングの技術を指導し、巷に広がる誤った健康情報を正すブログ記事を書いてもらうという内容でした[27]。医学の専門知識を持つ若者たちが一般の人にも分かりやすい文章でワクチンや医療デマの真相を解説する記事を次々と公開し、その情報サイト「Vastalääke」は開設当年にフィンランドのジャーナリズム賞「2019年ベスト・ジャーナリズム行動賞」を受賞するほど高い評価を得ました[26]。現在も医学生・医師らによるチームが運営を続けており、「健康情報を見極めるにはどうすればよいか」をテーマに各地で講演やワークショップも実施しています[28]。このように、成人市民が日常生活の中で批判的思考を実践できるよう、多方面からリテラシー支援の網が張り巡らされている点もフィンランドの特徴と言えます。
最新の事例(2020年以降:COVID-19パンデミックやロシアの影響)
近年、世界的な出来事に関連してフィンランドでも新たな偽情報対策の取り組みが見られます。まずCOVID-19パンデミックへの対応ですが、感染症にまつわる誤情報・デマの蔓延はフィンランド当局にとっても大きな課題でした。政府や医療機関は公式発表や記者会見を通じて正確な情報発信に努める一方、先述のメディアリテラシー教育ネットワークもこれに呼応しました。例えば2020年前後には「新型コロナに関するニュースの信頼性を見分けるポイント集」といった一般向けガイドが作成・配布され[29][30]、SNS上で怪しい健康情報を見かけたときにどう対処すべきかを啓発しています。[30]また前述のVastalääkeプロジェクトはパンデミック下でますます注目を集め、ワクチンに関する誤情報や根拠のない治療法のデマを打ち消す記事を積極的に発信しました。こうした草の根の取り組みも奏功し、フィンランドではコロナ禍においても比較的政府や専門家の情報に対する国民の信頼が保たれ、高いワクチン接種率や冷静な社会対応につながったと評価されています(国民の約76%が新聞等の報道を信頼できると回答した調査もあります[31])。
一方、ロシアの影響(情報戦)への対策も近年強化されています。フィンランドは地政学的にロシアと接するため、ロシア発の偽情報キャンペーンやサイバー攻撃の脅威に常に備える必要があります。2010年代後半から、「ハイブリッド脅威」(軍事・サイバー・情報戦を組み合わせた脅威)に対抗する専門組織の設置や法制度の整備が進みました。2017年には首都ヘルシンキにNATOとEUの共同出資による欧州ハイブリッド脅威対策センター(European Centre of Excellence for Countering Hybrid Threats)が設立され、フィンランドはホスト国として国際連携のハブを担っています[32]。このセンターでは偽情報対策も含めた加盟各国の知見共有・研究が行われています。
さらに自国の体制としては、国家緊急供給庁(NESA:国の安全保障やサプライチェーン維持を管轄する機関)に2022年、「情報レジリエンス知識センター」が新設されました[33]。この部署は、国家に対する悪意ある偽情報キャンペーンや世論操作の動きを常時監視・分析する専門チームです[33][34]。人工知能(AI)技術も駆使し、SNS上で大量に偽情報を拡散するボットアカウントや組織的な世論工作を検知するシステムを開発・運用しています[35][34]。2022~2024年にパイロット運用が行われ、その成果を踏まえて2026年末まで体制を拡充することが決定しました[36]。現在、偽情報キャンペーンの検知結果は隔月で重要インフラ企業や関係当局に報告されており、まもなく一般市民にも概要を公開して透明性を確保する予定です[37][38]。これはフィンランド政府が国家安全保障の観点から偽情報拡散を「社会の脅威」とみなし、物理的な防衛やサイバー防衛と一体で対処していることを示しています。「総合的安全保障(Overall Security)」の枠組みの中で、官民・産学が緊密に協力し合い情報空間の防衛に当たるモデルはフィンランドの特徴であり、ハイブリッド戦への先進的対応例として注目されています[39][40]。
なお2022年にはフィンランドのNATO加盟申請を巡り、ロシア側から様々な虚偽の主張(「フィンランド国民の多数は加盟に反対している」等)が発信されましたが[41]、フィンランド政府や主要メディアは速やかにファクトチェックや反論を行い、国内世論への影響を最小限に留めました。このように情勢の変化に即応して偽情報対策を講じられるのも、平時から教育と啓発により国全体でリテラシーを高めてきた効果が現れていると言えるでしょう。実際、ロシア・ウクライナ戦争が激化した2022年以降、フィンランド国内では一般市民の間でニュースの真偽を確かめようとする意識が一段と高まったとの報告もあります[3]。学校教育の場でも、現実の戦争報道やプロパガンダ分析を教材に取り上げるなど、タイムリーな指導が行われています。例えば高校の歴史の授業で過去の戦時宣伝を研究したり、公民の授業で現在進行形の国際ニュースにおける情報操作の例をディスカッションしたりといった取り組みです[42][43]。このようにフィンランドはパンデミックや安全保障上の危機といった新たな状況にも迅速に対応し、国民の情報リテラシーを底上げすることで社会の安定を図っています。
成果と課題(評価・効果測定データ、他国への波及、残る課題)
成果(効果・波及): フィンランドのフェイクニュース対策と教育の取り組みは国際的にも高く評価され、多くのデータがその有効性を裏付けています。象徴的なのは、欧州のシンクタンク「オープン・ソサエティ研究所(OSIソフィア)」が毎年発表しているメディアリテラシー指数(Media Literacy Index)において、フィンランドが2017年以降5年連続で調査対象の欧州41か国中第1位となっていることです[44]。この指数は各国の報道の自由度、教育水準(読解力や科学・数学リテラシー)、社会における信頼度などから「フェイクニュースに対する回復力(レジリエンス)」を評価したものですが、フィンランドは他の北欧諸国と並び常にトップクラスに位置しています[44][45]。2022年の報告書でもフィンランドが総合1位で、「早期からの教育と政府の対策が充実し、市民全体のメディアリテラシーが高い」ことが強調されています[44][46]。また別の国際世論調査では、フィンランド国民の約3/4が新聞(紙・デジタル)の報道を信頼できると答えており、米国のわずか34%という結果と対照的でした[47]。このような高いメディア環境への信頼度も、長年の教育施策の成果といえます。
フィンランド国内でも、政府による政策評価がおこなわれています。2013~2016年の国家メディアリテラシー政策の成果を調査した報告では、「数多くの民間団体やメディア企業、公共部門が協力し合い、子ども・若者の参加を重視した活動が展開されたこと」が強みとして指摘されました[48]。また欧州大学院大学(EUI)のメディア多元性モニターはフィンランドについて「メディアリテラシー促進のための政策が非常によく整備・実施されている」と2015年時点で評価しています[49]。
フィンランドの成功事例は海外にも大きな影響を与えています。EUやUNESCOはフィンランドモデルを研究し、各国へのガイドライン策定に活かしています[50]。実際、EUの専門家グループ(欧州委員会の偽情報対策エキスパートグループ)にはフィンランドの有識者も参加し、学校教育でデジタル・リテラシーを促進するための教師向けガイドや実践集が作成されました[51]。他国でもフィンランドに倣った取り組みが始まっており、例えばラトビア政府は2023年、「国家対話」プログラムを立ち上げ、市民と政府の対話を通じて公共への信頼を高める施策を実施しましたが、これは「フィンランドの例に倣ったもの」とされています[52]。またエストニアやスウェーデンなど北欧・バルト諸国もメディア教育に力を入れており、国際会議の場でしばしばフィンランドがモデルケースとして紹介されています[46]。要するに、フィンランドのアプローチは「偽情報に強い社会」を築くロールモデルとして世界に波及しつつあるのです。
課題(残されている問題点): 他方で、フィンランドが抱える今後の課題もいくつか指摘されています。まず、教育効果の測定と教員支援の面です。フィンランドは既に高度な実践を行っていますが、「どの手法がどの程度効果があるか」を科学的に測定しエビデンスを蓄積する作業は発展途上です。現場の教師からは「メディアリテラシーの授業をどう評価し、生徒の批判的思考力が向上したかを測る指標がもっと必要だ」という声もあります。EUの専門家報告書でも「教師には研修や指導ガイドだけでなく、授業効果を測定する方法論のサポートが求められる」と指摘されています[53]。今後、国内外の研究機関と連携して教育プログラムの効果検証を行い、より効果的な教材・教授法を開発していくことが課題と言えるでしょう。
次に、若年層の読解力低下とデジタル世代の落とし穴です。フィンランドの教育現場からは「近年、子ども達の活字離れで読解力が低下しており、注意力が続かなくなっている」との声があります[54]。ゲームや動画に親しむ時間が増え、本や長文を読む時間が減ったことが一因とされます[54]。読解力が落ち注意力が散漫になると、SNS上の刺激的なフェイク動画に騙されやすくなったり、誤情報を見抜く知識が身についても実践できなかったりする恐れがあると指摘されています[54]。実際、デジタルネイティブ世代であっても陰謀論に陥るケースがあるように、SNSに慣れているからといって必ずしもフェイクニュースに強いわけではありません[55]。このことはフィンランドの調査研究でも明らかになっており、若年層向けのメディアリテラシー教育をさらに強化し、読解力や集中力を養う従来のリテラシー教育とも両輪で進めていく必要性が示唆されています。
高齢者層への浸透も引き続き課題です。先述のとおり高齢者対象のプロジェクトは進められているものの、デマに触れる機会の多い世代だけに、一層の周知と支援が求められます。またフィンランド語という言語的特殊性も両刃の剣です。フィンランド語話者は世界で約540万人と少なく、このため外国発のフェイクニュースは文法ミスなどで見破れる場合もあると専門家は指摘します[56]。しかし裏を返せば、フィンランド語話者が少ないからこそ同国向けの誤情報工作が目立ちにくい可能性もあり、将来的に高度なAI翻訳などでフィンランド語の偽情報が大量生産される事態も考えられます。そうした新手のフェイクへの備えも怠れません。
最後に、技術の進展による新たな脅威です。ディープフェイク技術や生成AIの発達により、偽の画像・動画・音声がますます精巧に作られるようになっています。フィンランド当局も「AIが発生源の偽情報」を検知・対処する方法を模索しており[35]、教育現場でも「写真や動画だからといって鵜呑みにせず、出所を確認する」指導に一層力を入れる必要があるとされています。加えて、プラットフォーム側(SNS運営企業など)への規制や働きかけも国際協調のもと進めていく必要があるでしょう。「学校教育だけで偽情報への人々の免疫を完全に作れるわけではない」が、「子どもの批判的思考を育てる教育はソーシャルメディアのアルゴリズム対策と同じくらい社会にとって重要だ」とフィンランドの専門家も述べています[57]。まさに教育と技術規制の双方から総合的に取り組むことで、はじめてフェイクニュースの蔓延を抑止し人々の判断力を守ることができるという認識です。
結論: フィンランドのフェイクニュース対策と教育への取り組みは、長年にわたる地道なメディアリテラシー教育の積み重ねと、政府・社会を挙げた包括的な偽情報対策戦略によって支えられています。その成果は国際比較でも裏付けられており、フィンランドは「偽情報に最も強い国」としてしばしば引用されます[58]。しかし同時に、時代とともに変化する課題へ適応し続ける必要も認識されています。フィンランドの経験は、「教育によって社会の免疫力を高めることが可能である」ことを示す好例であり、その成功と試行錯誤から他国も多くを学ぶことができます[59][50]。今後もフィンランドは先頭に立って情報リテラシーの向上に取り組み続け、デジタル時代における民主社会の基盤を支えていくことでしょう。
参考資料: フィンランド教育文化省・国立音声視聴覚研究所の公式資料[60][61]、UNESCO・OSCE・OECD等の国際機関レポート[62][8]、Open Society Institute (OSI)調査報告[44]、フィンランド政府機関発表[33][38]、およびニューヨーク・タイムズ紙の記事を要約したGIGAZINE等の報道[3][10]。
[1] [12] [35] [46] [58] [59] 日本のメディアリテラシー教育は十分か?フィンランドの成功に学び、社会全体で対策を! - coki (公器)
https://coki.jp/article/news/49806/
[2] [4] [5] [6] [7] [42] [43] [50] [51] [53] [57] issues.org
[3] [9] [10] [11] [31] [44] [45] [47] [54] [55] [56] 「フェイクニュースや誤情報を見分ける方法」をフィンランドでは学校で子どもたちに教えている - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230116-finland-teaching-spot-misinformation/
[8] Policy Brief ENG
https://www.osce.org/files/f/documents/c/0/587873_2.pdf
[13] [14] [15] [16] フィンランドのメディアリテラシー教育に学ぶ、フェイクニュース対策 | ライフハッカー・ジャパン
https://www.lifehacker.jp/article/195010-how-to-learn-media-literacy-to-take-measures-to-fake-news/
[17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [32] [60] [61] Media literacy in finland – national media education policy - Policy Monitoring Platform
[26] [27] [28] [29] [30] European Association for the Education of Adults » Critical media literacy to fight fake news
https://eaea.org/2020/04/30/critical-media-literacy-to-fight-fake-news/
[33] [34] [36] [37] [38] [39] [40] The National Emergency Supply Agency will continue to produce information on harmful information campaigns - Huoltovarmuuskeskus
[41] [PDF] DISINFORMATION LANDSCAPE IN FINLAND - EU DisinfoLab
https://www.disinfo.eu/wp-content/uploads/2023/05/Finland_DisinfoFactsheet.pdf
[48] [49] [62] Promoting media literacy - Policy Monitoring Platform
https://www.unesco.org/creativity/en/policy-monitoring-platform/promoting-media-literacy
[52] oecd.org
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