丸亀製麺はなぜ店で麺を打つのか、利益率17.8%と6月の客数10%減から読む
学生の頃、僕の中でうどんチェーンの序列は単純だった。はなまるは安い。丸亀はコシがあって美味いが、少し高い。金がない日ははなまる、少し余裕がある日は丸亀。そういう使い分けをしていた。
最近は、ほぼ丸亀しか行かなくなった。かき揚げが大きいし、うどんがうまい。そして何より「どうせ値段も大差ないから」と思っている。
この「大差ない」が本当かどうか、数字で確かめてみたくなった。調べていったら、うどんの値段の話が、いつのまにか「なぜこの会社は非効率なやり方をやめないのか」という話になり、最後は先月の月次にたどり着いた。順番に書く。
まず、値札を並べてみる
丸亀製麺のかけうどん(並)は、いま440円だ。2026年1月14日の価格改定で、420円から20円上がった。
遡ると、この値札はずいぶん長いこと動かなかった。かけ・ぶっかけ・ざるの並は、もともと看板の釜揚げうどんと同じ280円で、2006年から2010年代半ばまでほとんど据え置かれている。動き出すのは2019年で、300円。そこから2021年に320円、2022年1月に340円、同年10月に360円、2023年3月に390円、2025年1月に420円、そして2026年1月に440円。20年近く動かなかった値札が、直近7年で1.5倍を超えた。
看板の釜揚げうどん(並)はもっと極端で、20年以上280円から290円へ10円しか上げていない。それが2023年3月に一気に340円へ跳び、いまは390円になっている。
一方のはなまるうどん。かけ(小)は2022年2月時点で240円だった。同年10月に270円、2023年3月に290円、2025年1月に360円。4年で1.5倍だ。
ここで面白いのは、直近の改定でこの2社が逆の判断をしていることだ。丸亀は2026年1月にかけを440円へ上げた。はなまるは2026年2月17日の改定で、看板メニューのかけ(小)を360円のまま据え置いた。日常食として生活の一部であり続けたいから主要商品の価格は維持する、という説明つきである。

数字だけ見れば、かけうどんは丸亀440円、はなまる360円。80円、丸亀のほうが高い。学生の頃の序列は、いまも変わっていないことになる。
僕の体感は、間違っていたのだろうか。
グラム単価で検算する
ここで気づく。丸亀の「並」と、はなまるの「小」を並べて比べていいのか、という問題だ。
両社とも1玉あたりのグラム数を公表していない。以下は複数の第三者調査で共通して挙がっている概数で、公式値ではないことを先に断っておく。その前提で、丸亀は並が約260g、大が約390g、得が約520g。はなまるは小が約210g、中が約420g、大が約630g。丸亀は並・大・得が1玉・1.5玉・2玉、はなまるは小・中・大が1玉・2玉・3玉という刻み方だ。
同じ「1玉」でも、丸亀のほうが5割ほど多い。これを踏まえて、100gあたりの単価を出す。
価格 麺量(概数) 100gあたり 丸亀 かけ(並) 440円 約260g 約169円 はなまる かけ(小) 360円 約210g 約171円
ほぼ同じだった。それどころか、わずかに丸亀のほうが安い。
80円の価格差は、麺の量の差でほぼ全部説明がついてしまう。「値段も大差ないから丸亀」という僕の体感は、錯覚ではなかった。舌が覚えていたのは味だけではなく、丼の中身の量だったらしい。
ただし、これは1玉の話に限る。サイズを上げると景色が変わる。はなまるは小から中へのサイズアップが160円で、麺は倍の420gになる。合計520円、100gあたりに直すと約124円まで落ちる。丸亀は大でも並の1.5倍にしかならないので、増量域では明確にはなまるのほうが安い。
つまりこの2社は、価格の勝負所そのものが違う。丸亀は一杯目のグラム単価で戦い、はなまるは増量したときのグラム単価で戦っている。看板の値札を据え置いたはなまると、値札を上げながら薬味の無料サービスを続ける丸亀。どちらも「安さ」を守っているのだが、守っている場所が違う。

「非効率の極み」という選択
ではなぜ丸亀は、値札の絶対額で不利になってまで、一杯目に量を積めるのか。
ここで店内製麺の話になる。丸亀製麺は全店に製麺機を置き、国産小麦から店で麺を打っている。工場もセントラルキッチンも持たない。作り置きもしない。
これはチェーン店の教科書からすると、明確に間違ったやり方だ。多くのチェーンは全国をブロックに分けて工場を建て、そこから各店に配送する。店舗数が増えるほどスケールメリットが効く。全店に製麺機を置き、麺を打てる人を各店に配置する方式は、店舗が増えるほど設備も人材育成コストも積み上がっていく。
そして興味深いことに、会社自身がそれを認めている。粟田貴也社長は、非効率と言われようともセントラルキッチンは採用しないと明言している。理由は、打ったばかりの麺をその場で茹でて出す製麺所の感動こそが丸亀の強みだから、というものだ。創業のきっかけも、父の故郷である香川で小さな製麺所に行列ができているのを見たことだったという。
美談として消費するのは簡単だ。でも僕は、そこで止まると何も分かった気がしない。非効率を承知で払っているコストが、何を買っているのか。決算を開いてみる。
非効率なのに、利益率17.8%
2026年3月期上期、丸亀製麺セグメントの売上収益は713億66百万円で前年同期比9.6%増。営業利益は126億95百万円で11.4%増。営業利益率は17.8%と、中間期として過去最高を更新した。
外食で営業利益率17〜18%というのは、かなりの水準だ。通期で見ても、2025年3月期は売上収益1,281億42百万円に対し事業利益208億96百万円で16.3%。2026年3月期は第3四半期累計で丸亀セグメントの売上収益1,044億20百万円、事業利益168億70百万円と、いずれも過去最高を更新している。
店舗当たりで割ってみると、もっとはっきりする。国内店舗数は2025年3月末で861店。売上収益を割ると1店舗あたり約1.49億円。26年3月期上期の数字を年換算すると約1.64億円になる。2012年3月期の時点では1店舗当たり1億円弱と紹介されていたので、この十数年で6割ほど伸びている計算だ。
普通、同じチェーンの店を増やしていけば、商圏が重なって店舗当たりの売上は下がる。実際、会社も出店が進んだロードサイドでのカニバリ抑制を課題に挙げている。それでも店舗数を900近くまで積み上げながら、店舗当たり売上を落としていない。2026年6月末で丸亀は899店、この4〜6月は12店を出して閉店ゼロだ。重い設備を積んだ店が、畳まれていない。
ここまでの数字が言っているのは、こういうことだ。非効率は、収益を毀損していない。むしろ利益率は過去最高を更新し続けている。だとすれば、あの製麺機が買っているものは「感動」という情緒だけではないはずだ。
僕の答えはこうだ。買っているのは、模倣困難性である。セントラルキッチン方式は、資本さえあれば真似できる。工場を建てて配送網を敷けばいい。だが全店に製麺機を置き、麺を打てる人を全店に配置する方式は、追随した瞬間に自社の効率化モデルを捨てることを意味する。競合が真似できないのは技術がないからではなく、真似すると自分の設計思想と衝突するからだ。
丸亀は毎日、各店の厨房で参入障壁を製造している。そう考えると、あの製麺室が客から見える位置に置かれ、調理場を囲うように列が伸び、待っている間にトッピングを取らせる動線になっているのも、単なる演出ではなくなる。茹でたてを出す以上ロットは小さくなり、待ち時間は必ず発生する。その待ち時間を、客単価を上げる回遊に変換している。券売機1台に注文も決済も集約する松屋とは、真逆の設計だ。
好調を作っていたレバーの正体
ただ、決算資料をもう少し丁寧に読むと、別の顔が見えてくる。
2026年3月期、丸亀製麺の既存店売上高は前期比4.5%増だった。その内訳が興味深い。値上げ効果で客単価が2%増、そして「麺の増量サービスなどの期間限定施策が奏功し」客数が2.5%増、と説明されている。
客数を動かしたのは、値引きではなく増量だった。
これは、グラム単価の話とぴたりと重なる。一杯目のグラム単価で戦っている会社が、客足を作るときに引くレバーは、値札を下げることではなく、同じ値札のまま麺を増やすことだった。価格設計と販促手法が、きれいに一本の線で繋がっている。

そして、6月の数字
ここまでなら「非効率なのに絶好調な会社の話」で終わる。だが直近の月次を見て、書きたい話が変わった。
トリドールホールディングスが公表している2027年3月期の月次は、4月が既存店売上102.6%、5月が104.2%と順調だった。ところが6月は93.0%。7.0%の減少である。
内訳を見ると、客数が90.1%、客単価が103.3%。落ちたのは客数だけで、客単価は伸び続けている。カレンダー要因を示す曜日特性の補正率は−1.7%しかないので、休日数だけでは説明がつかない。前年同月にあたる2025年6月は、売上107.7%、客数103.7%、客単価103.8%。客数はプラスからマイナスへ、13ポイント以上振れたことになる。
ここで先ほどの一文を思い出す。前期の客数増は「麺の増量サービスなどの期間限定施策が奏功し」だった。
去年の6月に客数を作っていたものが今年は動いていない、と考えると数字の辻褄は合う。断定はできない。単月の振れかもしれないし、他の要因もあり得る。ただ、客単価が伸び続けたまま客数だけが落ちるという形は、値上げに客が耐えられなくなったのではなく、客を呼ぶレバーを引かなかった月の姿に見える。
もしそうなら、これは丸亀にとって悪い話ばかりではない。レバーは手元にあり、引けば戻る。会社は2027年3月期に丸亀の既存店売上4.3%増を見込んでいる。7月以降の月次で客数がどう動くかを見れば、この読みが当たっているかどうかは検証できる。

店で麺を打ち続けるということ
整理する。
丸亀とはなまるは、かけうどん一杯の値札で80円違う。だがグラム単価で見れば1玉サイズではほぼ同じで、僕の「大差ない」という体感は正しかった。両社の違いは高い安いではなく、一杯目で戦うか増量で戦うかという価格設計の分岐だ。
丸亀が一杯目に量を積めるのは、店で麺を打っているからだ。工場を持たないという非効率は、利益率17.8%、店舗当たり売上1.64億円という数字を見る限り、収益を削っていない。むしろ真似のできない構造として機能している。
そして、その好調を客数の側で支えていたのは、値引きではなく増量だった。6月の客数−9.9%は、そのレバーの存在を裏側から証明している。
店で麺を打ち続けるというのは、毎日コストを払い続けるという意味だ。そのコストを払い続けられるかどうかは、結局のところ、増量というレバーで客数を買い続けられるかにかかっている。20年動かなかった値札が7年で1.5倍になった時代に、それは決して楽な条件ではない。
それでも僕は、次の休みにも丸亀に行くと思う。あの製麺室の前を通って、かき揚げを取って、レジまで歩く。その数分が、この会社の損益計算書そのものだと知ってしまった今は、少しだけ違う気持ちで並ぶことになりそうだ。
※本記事の麺量は各社非公表のため、複数の第三者調査による概数を用いています。価格は税込・2026年8月時点の標準価格で、一部店舗やテイクアウトでは異なる場合があります。業績数値はトリドールホールディングスの決算資料および月次売上高レポートに基づきます。

