ファミチキ45%増量は、45%値引きより儲かる。「もう少し」が「なかなか」に変わる線の話
ファミチキを買った。
いつものファミチキだと、食べ終わったときに「もう少し食べたいな」と思う。うまいのに、あと一口ぶん足りない。あの惜しさが毎回ある。
45%増量のファミチキは、そこを越えてきた。
なかなかのボリュームだった。

そして例によって、いつ食べてもジューシーでどうしてこんなにおいしいんだろう、と思う。油でも打ってるのかな。
その2つの疑問を追いかけたら、45%増量作戦という企画の設計と、ファミチキという商品の正体に、両方ともたどり着いてしまった。
まず、キャンペーンのほうから書く。
「もう少し」と「なかなか」の間に、線がある
2026年8月4日から17日まで、全国約16,400店で「お値段そのまま おかわり45%増量作戦」が行われている。ファミチキ、ハムサンド、パスタサラダ、千切りキャベツ、クレープ、弁当、たこ焼き、アイスまで、全13種類を週替わりで45%増やす。同じ年に増量キャンペーンを2度実施するのは、ファミリーマートにとって今回が初めてだという(注1)。
さて、僕の「なかなかのボリューム」という感想が、僕だけのものなのかを確認したい。
ファミリーマートは、45%増量がどの程度の「増量感」として受け取られているかの調査を行っている。結果は、1,747人のうち約580人(33.1%)が「2倍に近い」と回答し、これが最多だった(注1)。
45%しか増えていないのに、3人に1人が「2倍」と答えている。
これは、人間の目が大雑把だからという話ではないと思う。
通常のファミチキは、僕にとって「もう少し足りない」ところで終わる量だ。45%増えたそれは、「なかなかある」ところまで来る。
このとき動いているのは、量ではない。足りないか、満ちたか、という状態のほうが切り替わっている。
45%というのは、その線をまたぐのにちょうど足りる幅なのだろう。10%では越えない。20%でも、たぶん惜しいまま終わる。45%で初めて、「もう少し」が「なかなか」になる。
そして、状態が切り替わってしまえば、あとは体感が勝手に走る。2倍に近い、と口が言う。
企業から見れば、これは異常に効率がいい。

その体感を、値引きで作ろうとすると赤字になる
「2倍おトク」と感じてもらう方法は、増量だけではない。値引きでもいい。
では、値引きでやるといくらかかるのか。
ファミチキは税込248円、税抜230円だ(注1)。単品の原価は公表されていないが、ファミリーマートの2026年2月期決算では差益率が食品40.1%、非食品15.4%、全体32.0%と開示されている(注2)。ここでは食品の40.1%を借りて概算してみる。カテゴリ平均を当てはめただけなので、ファミチキ単品の実際の原価ではない。
通常時は、こうなる。
売価230円 − 原価約138円 = 粗利約92円
中身を45%増やす。かなり乱暴に、原価もまるごと45%増えると仮定する。
売価230円 − 原価約200円 = 粗利約30円
1個あたりに残る金額は3分の1になる。しかし、ゼロにはならない。
同じ45%を値引きに使うとどうなるか。
売価126円 − 原価約138円 = 粗利マイナス約12円
売れば売るほど赤字になる。
同じ「45%」でも、増量なら薄いながら黒が残り、値引きなら1個ごとに赤が出る。
しかも、さきほどの増量の計算は保守的すぎる。45%増えるのは主として中身であって、衣も油も包材もラベルも一律に45%増えるわけではない。レジで会計する時間が45%長くなるわけでもなく、家賃も照明の電気代も変わらない。実際に残る金額は、もっと多いはずだ。
つまり、周年に「45」という大きな数字を掲げられるのは、それが増量だからだ。値引きでは、45という数字そのものが成立しない。
ファミマが買っているのは、45%の鶏肉ではない。「2倍に見えること」を、45%の原価で買っている。

ファミマは、全部を増やしていない
もちろん、店内の全商品を無期限で45%増やしたら、商売は成り立たない。
だから増量の範囲は、かなり細かく制御されている。
対象は13種類のみ。期間は8月4日から17日までの2週間。しかも週替わりで、数量限定、なくなり次第終了だ(注1)。
対象を絞れば追加原価が管理できる。期間を切れば、増量が通常価格として記憶されない。週替わりにすれば、先週ファミチキを買った人に、今週は弁当やたこ焼きを見に来てもらえる。数量限定なら、「いつか買おう」ではなく「なくなる前に行こう」に変わる。
原資の管理は、ポイント還元の側でもっとはっきり見える。
期間中にファミペイで税込100円以上支払うと、抽選で45,000名に、期間中のファミペイ支払額の45%がファミマポイントで還元される。ただし付与上限は1人1,000ポイントだ(注1)。
上限があるということは、原資に天井があるということだ。単純に逆算すれば、この還元の最大コストは45,000名 × 1,000ポイント = 4,500万円相当になる。
「45%還元」と聞くと青天井のように響くが、実際には金額が固定されている。
ファミマは店をずっと安くしているのではない。決めた額の販促原資を、何度も来店したくなるイベントの形に変えている。

原価は誰が払っているのか
ここで当然の疑問が出てくる。
増えた原価を負担しているのは、本部なのか、加盟店なのか。
コンビニはフランチャイズだ。加盟店が商品を仕入れて売り、そこで生まれた売上総利益から本部にチャージを払う。だから原価が増えれば、加盟店の利益も本部のチャージ収入も、同時に痩せる可能性がある。
増量キャンペーンの原価を本部と加盟店がどう分担しているかは、公表されていない。だからここは断定できない。
ただし、決算から言えることが一つある。
2026年2月期の決算発表で、ファミリーマートは加盟店利益が5年連続で増加し、3年連続で最高益を更新したと説明している(注3)。
増量作戦が始まった2021年から数えて、5年連続だ。少なくとも、増量企画を毎年続けながら、加盟店の利益は減っていない。
増量が加盟店を削って成立している、という筋書きは、この数字とは噛み合わない。
増やしていたのは、来店理由だった
なぜ、いま年2回に踏み込んだのか。
ファミリーマートの2026年2月期は、全店平均日商が過去最高の58万5,000円、既存店日商も前年比3.0%増。事業利益は17.9%増の1,002億円で、初めて1,000億円を超えた(注2、注3)。
数字だけ見れば絶好調だ。
しかし内訳を見ると景色が変わる。
客単価は4.3%増えた一方で、客数は1.2%減った。しかも客数の前年割れは、2025年8月から続いている。会見で小谷社長はその原因について「原因は1つではない」と述べ、商品、価格、ポイント施策、販促の連動など複数の要因を挙げている(注3)。
売上は伸びている。だが伸ばしているのは、一人当たりの買い物金額だ。店に来る人自体は、1年にわたって減り続けている。
物価が上がれば、客単価は自然に上がる。しかし価格が上がり続ければ、コンビニに行く回数そのものを減らす人が出てくる。
ファミマにいま足りないのは、値上げでも値引きでもない。「今日、ファミマに行く理由」だ。
そして、ファミチキだけを目当てに来ても、会計がファミチキだけで終わるとは限らない。飲み物を買う。おにぎりを足す。デザートを見る。ATMを使う。ファミペイを開く。
大きくなったファミチキ単体の採算は、通常時より薄い。しかしコンビニが見ているのは一商品の利益ではなく、その商品が連れてきた来店1回の総額だ。

「45」を、全部にそろえた
今回の増量率が45%なのは、ファミリーマートが2026年9月に創立45周年を迎えるからだ。
もともと増量キャンペーンは、2021年の創立40周年を機に「40%増量作戦」として始まった、コンビニでの増量企画の先駆けだった。それが45周年の今年、45%になった(注1)。
普通なら、創立45周年は企業側の都合でしかない。利用者にとって、会社が45歳になったこと自体に大きな意味はない。
しかしその「45」を商品の量に変えれば、周年が顧客の利益になる。
45%増量。45,000名。45%還元。数字がそろっているから、覚えやすい。
周年キャンペーンには、記念ロゴをつくる、記念広告を出す、式典を開くといった方法もある。ファミマはその予算の一部を、商品の中身に変えたように見える。
45周年を説明するより、45%大きなファミチキを見せた方が早い。そして来年になれば同じ45%を続ける理由は薄くなるから、いま買う理由にもなる。
ちなみに今回のTVCMは、吉田鋼太郎さんと八木莉可子さんが、上空に浮かぶ「巨大ファミチキ」の謎に迫るUMA研究家と都市伝説リポーターを演じる「デカすぎ都市伝説」路線だ(注1)。
会社自身が、45%という増量を未確認物体として扱っている。増量とは何かを説明する広告ではなく、大きさそのものをネタにする広告になっている。
投稿は、期待されているのではなく買われている
増量商品は、SNSと相性がいい。
通常品と並べれば違いが分かる。重さを量れば数字になる。売り切れていれば「買えなかった」という投稿すら生まれる。
実際、「ファミマ 増量」に関するXの投稿数は、キャンペーン開始年である2021年8月の同期間と比べて約2057%に伸びている(注1)。
ここで見落としがちなのは、ファミマがこの投稿を待っているだけではない、という点だ。
今回は、公式Xをフォローして「#45パー増量クレープ出現」を付けてリプライすると、総計3万名に「ファミマ・ザ・クレープ100円引き」クーポンが当たる企画も同時に走っている(注1)。
投稿の対価が、明示されている。
ハッシュタグを決め、期限を切り、クーポンを対価に置く。通常の広告なら企業がお金を払って完成した映像を人に見せるが、増量キャンペーンでは顧客が商品を買い、写真を撮り、感想を書き、その対価にクーポンを受け取る。
10%増量では、写真だけで違いを伝えるのは難しい。20%でも個体差に見えるかもしれない。45%なら、袋を開けた瞬間に伝わる。
この「説明しなくても分かる差」が、そのまま広告素材になる。
ネット上の反応を見ても、2週目に登場した「大盛ミートソース」(税込598円)がさらに45%増えることに、メディア側が「コスパ祭」と沸いている(注4)。もともと量が多いことで知られる商品を、値段を据え置いたまま増やす。この持っていき方も上手い。
この流れは、単発の販促企画では終わらない。
ファミリーマートは2026年を「メディアコマース元年」と位置づけ、店内デジタルサイネージ「FamilyMartVision」と購買データを組み合わせた広告事業を本格化させている。当時の細見社長は、関連売上を約150億円から2030年度に400億円まで引き上げる方針を示した(注5)。2026年度は、ファミペイで来店を誘い、店内のサイネージで商品を見せ、売場の大量陳列で購買につなげる一体運営を進める計画だ(注6)。
ニュースやSNSで増量を知る。ファミペイでキャンペーンを見る。店に来る。店内の画面で別の商品を見る。ファミチキを買う。飲み物も買う。写真を投稿する。その投稿を見た別の人が店に来る。
ファミマがつくろうとしているのは、この循環そのものだ。
それでも、確実に儲かるとは言えない
ここまで書くと、増量すれば必ず儲かるように読めてしまう。もちろん、そんなに単純ではない。
原材料価格が想定以上に上がれば、増量分の負担は重くなる。売れ残れば通常商品より大きな廃棄が出る。増量商品だけを買って帰る人が多ければ、併買効果は小さい。期間中に売上が増えても、終了後に反動減が起きる可能性もある。
そして、前回の日商126%という数字は売上の指標であって、利益の指標ではない。
公開情報から言えるのは、次の範囲までだ。
2026年3月の45%増量では、前年の増量キャンペーン期間と比べて日商が約126%になった(注1)
Xの投稿数は2021年比で約2057%に伸びた(注1)
2026年2月期は事業利益1,002億円で過去最高、利益率の高いファーストフードと広告・メディア事業が寄与した(注2、注3)
加盟店利益は5年連続増加、3年連続で最高益(注3)
ただし、増量キャンペーン単体の損益も、本部と加盟店の原価分担も公表されていない
だから「45%増量で確実に儲かった」とまでは言えない。
それでも、初めて年2回目を実施したという事実は重い。会社は前回の結果を見て、もう一度やる価値があると判断した。増量による原価負担だけでなく、日商、客数、併買、アプリ利用、SNSでの露出まで含めて評価した結果なのだろう。
ところで、油は打っているのか
ここまで販促の話を書いてきたが、僕の中にはもう一つ、食べながら浮かんだ疑問が残っていた。
なぜファミチキは、いつ食べてもジューシーなのか。油でも打っているのか。
これは僕だけの疑問ではないらしく、Xでは「ファミチキって本当に鶏肉なの?」という声が話題になったことがあり、公式アカウントが「正真正銘、鶏肉」と返している(注7)。
ファミリーマート自身が公開している説明によれば、あのジューシーさの理由は、鶏もも肉の中でもとくに脂がのってやわらかい「サイ(腰肉)」という希少な部位だけを使っていることにある(注8)。
脂は、あとから打ったものではなかった。
最初からそこにある部位を選んで、それだけを集めていた。
もも肉1枚から取れるサイは限られる。それを全国約16,400店ぶん、毎日集め続けるということの意味を考えると、少し気が遠くなる。シリーズ累計販売数は26億個を超えている(2026年5月末時点)(注8)。
味付けや製法の詳細までは公開されていないので、そこは分からないままだ。ただ、少なくとも僕が「打ってるのかな」と疑った脂は、部位の選択だった。
そして、油の話にはもう一段あった。
ファミチキなど店頭の揚げ物を調理した後の廃食油は、全量が専門業者に回収され、100%リサイクルされている。用途は、養鶏用の飼料の添加剤、印刷用インク、工業用の石鹸などだ。佐賀県佐賀市では2021年から共同プロジェクトが行われており、協力店舗から回収された廃食油がバイオディーゼル燃料に精製され、市営バスやごみ収集車の燃料として走っている(注8)。
僕が疑っていた油は、打たれてはいなかった。
代わりに、揚げ終わった油のほうが、鶏の餌に戻っていた。
45%増量すれば、揚げる量も増える。増えた油の行き先には、すでに道がついている。
値上げは見えにくい。増量は一目で分かる
値上げのニュースは、以前の値段を覚えていなければ分からない。内容量がこっそり減っても、昔の商品と並べなければ気づきにくい。
しかし、大きくなったファミチキは袋を開けた瞬間に伝わる。企業が何をしたのか、説明を読まなくても分かる。
値上げが続く時代に、価格を下げ続けるのは難しい。だからファミマは、店全体を安くするのではなく、期間と商品と原資を限定して、驚くほど量を増やした。そこで薄くなる1個あたりの利益を、客数、併買、再来店、アプリ利用、SNSでの露出で取り戻そうとしている。
考えてみれば、増量キャンペーンは不思議な商売だ。
企業は多く入れる。客は多く食べる。その様子を客自身が宣伝する。宣伝を見た別の客が店へ来る。そしてファミチキ以外の商品も売れる。
ファミマが増やしたのは、鶏肉だけではなかった。
店に行く理由。一緒に何かを買う理由。写真に撮る理由。誰かに話す理由。
僕はといえば、いつもなら「もう少し食べたいな」で終わるところを、今回は「なかなかあったな」で終えた。
たった45%で、その線を越えさせられた。
たぶんファミマは、その線がどこにあるかまで知っている。
この記事が面白かったら、スキで教えてください。次に何を掘るかの参考にしています。
出典
注1:株式会社ファミリーマート ニュースリリース(2026年8月3日)「初の2回目開催!ファミマ名物「お値段そのまま おかわり45%増量作戦」8月4日(火)から開催!定番ファミチキや夏の野菜高騰の家計を救う「千切りキャベツ」など初登場7種類、全13種類を週替わりで発売!」
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2026/20260803_01.html
注2:ダイヤモンド・チェーンストアオンライン(2026年4月8日)「ファミリーマート、本決算は事業利益が17.9%増で過去最高益」
https://diamond-rm.net/flash_news/542751/
注3:流通ニュース(2026年4月8日)「ファミマ 決算/2月期増収増益、事業利益1002億円・平均日商58.5万円で過去最高に」
https://www.ryutsuu.biz/accounts/s040844.html
注4:ロケットニュース24(2026年8月10日)「ファミマ、8月11日から大盛ミートソースをさらに増量! 45周年「45%増量作戦」が弁当なども盛られるコスパ祭に突入か」
https://rocketnews24.com/2026/08/10/2786334/
注5:ITmedia ビジネスオンライン(2026年2月16日)「ファミマ、広告関連の売上400億円へ 細見社長「コンビニはメディアに進化」」
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2602/16/news113.html
注6:食品産業新聞社ニュースWEB(2026年6月)「【ファミリーマート】2026年度は「メディアコマース」本格展開、45周年で攻勢」
https://www.ssnp.co.jp/distribution/690502/
注7:ヨムーノ(2026年3月28日)「ファミチキってジューシーすぎる?【鶏肉の裏技】を管理栄養士が解説!」
https://yomuno.jp/posts/135951
注8:ファミリーマート サステナビリティ(2026年3月2日)「ファミチキ「おいしさの秘密」と、揚げた後の油がつなぐ物語 ~佐賀市ではバスのバイオ燃料としてリサイクル!~」
https://www.family.co.jp/sustainability/topics/2026/s20260302.html
注9:日本食糧新聞・電子版(2026年4月9日)「ファミリーマート・26年2月期 事業利益が1000億円を突破」
https://news.nissyoku.co.jp/news/yamamotoh20260409061322855
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