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閉じて厚いAmex、開いて広いVisa。クレジットカードのブランドに潜む「二つの設計思想」

「結局どのカードがいちばんお得?」という話は尽きない。
還元率、年会費、空港ラウンジ。でも、その一段下を覗くと、国際ブランドは大きく二つの構造に割れている。そして、還元率も加盟店手数料も使える店の数も、ほとんどがこの一つの構造の選択から流れ出している。

VisaやMastercardのような四者間と、Amexやダイナースのような三者間。今日は、この二つの設計思想の話をする。前に書いた「税金で還元が削られる理由」とも、ここで一本につながる。

まず、登場人物の数が違う

VisaやMastercardが取っている形は四者間と呼ばれる。利用者、加盟店、カードを発行する会社(イシュア)、加盟店と契約する会社(アクワイアラ)。役者が4者いて、ブランド自身はルールと決済網を貸すだけだ。自分ではカードを発行しないし、お店も開拓しない。

一方、Amexやダイナース、米国のDiscoverは三者間。ブランドと発行会社と加盟店契約会社を、一社(とそのグループ)が兼ねる。役者は利用者、加盟店、そして「カード会社」の3者だけ。発行も加盟店開拓も全部自分でやる。構造でいえばPayPalも、口座の中で完結する閉じたループという意味で、これに近い。

ここまでは入り口だ。本当に効いてくるのは次の一点だ。

違いの根っこは「インターチェンジがあるか、ないか」

四者間では、イシュアとアクワイアラが別会社だ。だから両者のあいだで、アクワイアラからイシュアへ手数料が渡る。これがインターチェンジ・フィーで、加盟店手数料(MDR)の大半を占める。前の記事で書いた「お店が払う3%の大部分がイシュアに入り、そこからあなたのポイントが出ている」は、この四者間の話だった。

三者間にはこれが無い。発行も加盟店契約も同じ会社なのだから、お金は自社の左ポケットから右ポケットへ動くだけ。外部に払うインターチェンジという概念が、原則として存在しない¹。だから三者間の加盟店手数料は「インターチェンジ+スキーム料+アクワイアラの利幅」の積み上げではなく、カード会社がお店に直接提示する一本の値段になる。

たった一つ、この差。ここから先の違いは、すべてここから派生する。

だから、手数料も還元も真逆になる

四者間は、薄いインターチェンジを原資にして、薄く広く還元する設計だ。無年会費でも成り立つし、誰にでも配れる。その代わり、税金や公共料金のようにインターチェンジが特例で薄くなる場所では、還元を出すと赤字になり、削るしかなかった。楽天カードが税金を0.2%まで落としたのは、ケチではなく、この構造の限界だった。

三者間は逆だ。加盟店手数料は総じて高めに設定できる。富裕層や接待・旅行(T&E)中心の会員、ステータス、囲い込みを背景に、お店に高い料率を飲ませる力がある。そのうえ年会費も高い。つまり、還元やサービスの原資を「高い加盟店手数料」と「高い年会費」の二本で、濃く取れる。

濃く取って、濃く返す。だから三者間は、薄利の支払いでも四者間ほど還元を削らずに済む余地がある。これは規制が違うからではなく、そもそも原資の取り方が違うからだ。会費という太い柱がある以上、一回の決済の薄さに、還元が直接は縛られない。

四者間が「薄く広く、誰にでも」なら、三者間は「濃く深く、限られた人に」。同じクレジットカードでも、狙っている経済がまるで違う。

使える店の差と、その埋め方

この設計思想は、使える店の数にもそのまま出る。

三者間は加盟店手数料が高いぶん、お店から敬遠されやすい。だから昔のAmexやダイナースは「使えない店がそこそこある」ブランドだった。閉じたネットワークの宿命だ。

そこで彼らは、閉じたまま広げるための工夫をしてきた。ひとつは発行の開放。銀行や信販に「自社ブランドのカードを発行させる」提携で会員を増やす。Amexはこれをグローバル・ネットワーク・サービス(GNS)と呼ぶ。もうひとつが加盟店網の相互利用だ。日本では、AmexやダイナースがJCBの加盟店網に相乗りすることで、使える店を一気に埋めた。

面白いのは、こうやって工夫するほど、三者間は構造的に四者間へにじり寄っていくことだ。外部の銀行が発行すれば、そこへインセンティブ、つまり実質的なインターチェンジに近いお金が流れ始める。純粋な三者間ではなくなっていく。

だから、規制の当たり方も違う

この「にじり寄り」を、EUの規制はきっちり突いた。

EUは2015年の規制で、四者間の消費者カードのインターチェンジに上限をかけた。デビット0.2%、クレジット0.3%だ⁴。だが三者間には、規制対象のインターチェンジがそもそも無い。だからAmexの直営、ダイナースの直営、そしてPayPalのような純粋な三者間は、この上限規制の対象外になる²。前の記事で「公金でも還元を残せる例外がある」と書いたのは、ここに根がある。

ただし抜け道は塞がれている。三者間でも、コブランドのパートナーと組んで発行したり、代理人を通じて発行する場合は、四者間として扱われる³。2018年2月のEU司法裁判所の判決(Amex対英財務省)でこの解釈が確定し、コブランドや代理人を通じた発行は、そのパートナーが発行や加盟店契約に関与しているかどうかに関わらず四者間に分類される、とされた³。Amexの直営発行は規制の外、GNSやコブランドの発行は規制の中。二つの世界は、ここで触れ合う。

日本の地図に置いてみる

日本に落とすと、この構図はぐっと身近になる。

JCBは日本唯一の国際ブランドで、国内では発行と加盟店契約の両方を自社中心に担う三者間的な顔と、提携での四者間的な顔を併せ持つハイブリッドだ。ダイナースは三井住友トラストクラブが運営・発行する老舗で、1960年からの歴史を持つ⁶。ちなみにダイナースクラブ自体は、世界初の汎用カードとして1950年に生まれたブランドで、いまは資本的にはCapital Oneの傘下にある(2025年5月にDiscoverの買収が完了し、ダイナースはDiscoverのグローバルネットワークの一部だ)⁵。

そしてAmexは、日本支社が直接出すプロパーカードに加えて、クレディセゾンや三菱UFJなどの提携発行がある⁶。これがまさにGNS的な四者間化だ。だから「Amexのプロパー」と「セゾンが出すAmex」は、ロゴは同じでも構造も経済もまるで別物になる。同じ三者間ブランドの中に、純粋な三者間と、四者間に近いものが同居している。

決済オタクの結論

三者間と四者間は、どちらが優れているという話ではない。閉じて高い手数料で濃く返すか、開いて薄い手数料で広く返すか。設計思想が違うだけだ。

選ぶ側の答えもそこから決まる。年会費を払ってでも、薄利の支払いまで含めて厚い還元と体験を買いたい高頻度・富裕層型なら三者間。年会費ゼロで、薄くても誰にでも、広く使いたいなら四者間。自分の使い方に、手段を合わせればいい。

ただ、大きな流れははっきりしている。規制が叩いているのは四者間のインターチェンジで、その先にあるのは「薄く、広く、開いていく」方向だ。改札がオープンループに開いていくのも、同じ地殻変動の一部だと思う。閉じて濃いモデルには、それを愛する人にとっての確かな価値が残る。でも世界の主旋律は、安くてオープンなほうだ。

決済は手段だ。三者間の厚い還元も、年会費を回収できなければ得ではない。お得は、得とはかぎらない。手段は、自分の使い方に合わせて選べばいい。


出典

  1. 四者間(利用者・加盟店・イシュア・アクワイアラ)と三者間(ブランド・発行・加盟店契約を一社が兼ねる)の構造、およびインターチェンジ・フィーがMDRの主要構成要素である点。EUの定義(Regulation (EU) 2015/751、第2条18項「三者間決済カードスキーム」、第1条5項)。

  2. 純粋な三者間スキーム(Amexの直営、ダイナースの直営、PayPal等)は、規制対象のインターチェンジを持たないため、EUの上限規制(IFR)の対象外。英国議会・欧州精査委員会資料、Regulation (EU) 2015/751。

  3. 三者間でも、コブランド・パートナーと組み、または代理人を通じて発行する場合は四者間として扱われる(IFR第1条5項・第2条18項)。EU司法裁判所 Case C-304/16(American Express Co. 対 英財務省、2018年2月7日判決)。Amexの「GNS」モデルが典型例。EUR-Lex、Bird & Bird解説ほか。

  4. EUのInterchange Fee Regulation(2015年12月施行)は、消費者カードのインターチェンジをデビット0.2%・クレジット0.3%に上限設定。EUR-Lex(Regulation 2015/751)。

  5. Capital Oneは2025年5月18日にDiscover Financial Servicesの買収を完了。Discoverが運営するDiscover Global Networkには、Discover Network・PULSE・Diners Club Internationalが含まれる。ダイナースは金融機関などのライセンシーが発行・加盟店契約を担うネットワーク。Capital One/Discover公式リリース、SEC提出書類(2025年)。

  6. 日本では、ダイナースクラブは三井住友トラストクラブ(1960年創立)が運営・発行し、提携カードも展開。Amexは日本支社によるプロパー発行に加え、クレディセゾンや三菱UFJなどによる提携発行があり、加盟店網はJCBとの相互利用で補完される。三井住友トラストクラブ公式、各社案内。

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