しまむらが袋1枚1円をやめた日、7000億円の店が客の名前を持った
2026年3月9日の閉店時刻をもって、しまむらはレジ袋の買い取りをやめた。
それまで、使い終わったしまむらの買物袋を持っていくと、1枚につき1円がもらえた。翌3月10日からは、1枚につき1ポイントになった(注1)。
1円が1ポイントになっただけの話に見える。
ところがこの1円は、7,000億円を売る会社が、40年近く手をつけずにいた場所だった。

しまむらの2026年2月期は、売上高7,000億34百万円(前期比5.2%増)、営業利益614億83百万円(同3.8%増)、当期純利益444億60百万円(同6.1%増)。売上高も利益も過去最高を更新した(注2)。
この規模の小売で、しまむらには長らく無かったものがある。
共通ポイントだ。
しまむらでは、dポイントも楽天ポイントも貯まらないし、使えない(注3)。イオンでも、ローソンでも、ドラッグストアでも当たり前になったあの光景が、しまむらの店内には無い。
さらに言えば、クレジットカードは翌月1回払いのみ。分割もリボも受けない(注4)。
ただし、決済手段そのものを拒んでいるわけではない。オンラインストアの支払い方法には、クレジットカード、PayPay、楽天ペイ、d払い、au PAY、atoneの後払いが並んでいる(注5)。
ここが面白い。
しまむらは、決済は通す。しかしポイント経済圏には入らない。
共通ポイントに加盟するというのは、手数料を払って集客を借りることであり、同時に「誰が何をいくら買ったか」を外の会社と共有することでもある。しまむらは、前者の便益より後者を嫌ったように見える。
その代わりに何を持っていたかというと、「ワクワク」だった。
買わなくても貯まる制度だった
旧制度のワクワクは、会計時に会員証を見せると貯まった。レジ袋を持っていっても貯まった。つまり主に来店と、袋を返す行為に対して払われていた(注1、注6)。
買った金額には、ほとんど紐づいていない。
これは奇妙なようでいて、しまむらの商売にはよく合っていた。
しまむらは、店に来てもらうこと自体が難しい商売をしていない。むしろ、来ずにいられない仕組みを持っている。
日経ビジネスの記事によれば、しまむらは基本的に一点モノを扱う「売り切れ御免」のスタイルで、だから物流センターに備蓄する必要がない。商品はセンターに届くと翌日には店頭に並ぶ(注7)。
売り切れても追加発注はしない。1店舗におよそ5万点を並べるが、同じ商品が同じ棚に積まれてはいない(注8)。
だから客は、今日見た服が来週もあるとは思っていない。
「しまむらパトロール」という言葉が客の側から生まれたのは、そういう店だからだ。しまむらは広告で来店を買う代わりに、棚を薄くすることで来店をつくってきた。
来店が商売の起点なら、来店に報いる制度になるのは自然だった。

売れなければ、55人が店ごと動かす
薄く置く商売には、当然リスクがある。
置いた店で売れなければ、それは死に在庫になる。
しまむらの答えは、補充ではなく移送だった。
商品の売れ行きは1品単位で把握され、本部の「コントローラー」と呼ばれる担当がそれを監視している。売れない店から売れる店へ、商品を物理的に動かす。これを店間移送と呼ぶ。値下げをするかどうかも、コントローラーの権限にある(注9、注10)。
人数の記述は年によって振れる。2021年時点の記事では約80人(注9)、2026年5月の日経ビジネスの記事見出しでは、1,400店を55人で見ているとされている(注7)。
いずれにせよ、二桁の人数で千店単位の在庫を動かしている。
普通のアパレルなら、売れ残りはシーズン末に3割引や5割引で処分する。しまむらは、値引く前に「定価で売れる場所」へ先回りして送る(注10)。
値下げロスを消すために、服のほうを動かす。
在庫回転日数は31日で、ファーストリテイリングや良品計画より短いと報じられたこともある(注11)。
動力を使わないコンベヤー
しまむらの物流センターを見学した人が驚くのは、人の少なさだという。
そしてもうひとつ驚かれるのが、1988年に導入されたコンベヤーだ。
これは動力で動いていない。2.7度という傾斜がついていて、荷物が自分の重さで流れていく(注7)。
38年前の設備が、電気を使わずにいまも荷物を運んでいる。
しまむらが削ってきたのは在庫だけではない。動かすための力そのものを、できるだけ持たずに済ませてきた会社なのだと思う。
店舗も同じで、1店舗を店長1名とパート社員6〜10名で回す。作業は単純化とマニュアル化が徹底され、全社員から年間約2万件出てくる改善提案が、そのマニュアルを更新し続けている(注8)。
郊外の路面店は自ら物件を取得して家賃負担を軽くしている(注12)。
安さの正体は、買い叩きではなかった
ここまで来ると、なぜ安いのかが見えてくる。
しまむらの仕入れは、返品なしの「完全買取」だ。
大事なのは、これが仕入先を叩く仕組みではないことだ。しまむら自身の説明では、本社バイヤーが一括で商談するセントラルバイイングと大量発注で仕入コストを下げ、商品センターへの一括納品と完全買取によって、サプライヤー側のコストも軽減されるとしている(注13)。
返品が前提の取引だと、仕入先は戻ってくる在庫の処分費と不確実性を、あらかじめ値段に乗せる。返品が無いなら、その分が消える。
さらに、しまむらの貸借対照表には受取手形も支払手形も出てこない。納品から間を置かずに現金で払う、いわゆる「とっぱらい」だと指摘されている(注14)。
仕入先から見れば、返品が来ず、回収リスクも無い。だから安く出せる。
売上原価率は60%台後半、粗利率は30%台前半という薄利多売型で(注12)、2026年2月期の売上総利益率は34.8%だった(注2から算出)。
ここを取り違えると話が壊れるので、はっきり書いておく。
粗利率が34.8%だという事実は、しまむらが安いことを意味しない。65で仕入れて100で売っても、130で仕入れて200で売っても、粗利率は同じ35%だ。率は値入れの厚みであって、値札の高さではない。
安さをつくっているのは、仕入値そのものが低いことだ。そしてその低さは、返品しないという約束と引き換えに手に入れている。
その約束を守れるのは、55人が1,400店から売れる場所を探し出せるからだ。
売り切る力があるから、買い切れる。買い切れるから、安く買える。安く買えるから、安く売れる。
順番はこうなっている。

西松屋とワークマンは、まったく違う解き方をしている
低価格の衣料チェーンは、しまむらだけではない。ただし在庫の扱い方は三者三様だ。
西松屋は、動かさずに積む。バックヤードを持たず、売場の天井近くまで在庫を上げておく。2026年2月期は売上1,933億65百万円、営業利益99億41百万円で、営業利益率は5.1%だった(注15)。
ワークマンは、加盟店に預ける。2026年3月期のチェーン全店売上高は2,092億円、営業利益296億円で過去最高を更新している(注16)。
この違いは、思想の違いというより、扱っている商品の寿命の違いだと思う。
婦人服やトレンド衣料は腐りやすい。だから、しまむらは動かすしかない。
子ども服は身長で買う商品でサイズ需要が読みやすく、比較的腐りにくい。だから西松屋は積んでおける。
作業服はほぼ腐らない。だからワークマンは、在庫を加盟店の資産にしても事故が起きない。
腐りやすい順に、動かす、積む、預ける。
三社は違う哲学を持っているのではなく、違う速度で古くなるものを売っている。
そして2026年3月10日、報酬の宛先が変わった
しまむらグループのアプリは、2026年3月10日に「しまむらパーク」へ統合された。アベイル、バースデイ、シャンブルのアプリは終了し、靴のディバロが加わった(注1)。
このとき、ワクワクはポイントになった。
新しいポイントは、店舗とオンラインストアでの購入金額100円(税抜)につき1ポイント。買物袋の回収は1枚につき1ポイント。100ポイントに到達すると、100円分の割引クーポンが発行される(注1、注6)。
つまり、報酬の宛先が「来ること」から「買うこと」へ移った。
探し回ってくれる客ではなく、買ってくれる客に払う制度になった。
そして袋の1円は、ポイントになった。
この置き換えは、金額としては小さい。しかし性質がまるで違う。
1円は現金だから、渡した瞬間に店の外へ出ていく。財布に入って、どこで使われるか分からない。
1ポイントは、100貯まるまで使えない。つまり、しまむらの店の中に留まり続ける。しかも100ポイント貯めるには、袋を100枚返すか、1万円分買うしかない。
袋を返しに来た人に、次の来店の理由を持たせて帰す設計になっている。
外に出る1円を、中に残る1ポイントに変えた。それだけの話に見えて、これは7,000億円の会社が客のIDを持ち始めるための、いちばん小さな入口だった。

荒れた。そして2日で謝った
移行は、うまくいかなかった。
旧アプリで貯めていたワクワクが、新しいポイントへ引き継がれなかった。アプリを開くと数字が消えていた、という声が広がった(注17)。
ワクワクは、シールなどの人気商品の抽選に応募するための「チケット」に交換できるものだった。失効すれば、応募そのものができなくなる(注18)。
しまむらは3月12日、リニューアルから2日後にお詫びを出した。
案内不足を詫びたうえで、当初は再付与も交換もできないとしていた方針を変え、旧アプリで保有していたワクワクを会員特典応募券へ交換すると発表した。交換比率は3月9日0時時点の残数に対して5ワクワクにつき1枚、端数は切り捨て。手続きは3月31日9時からとされた(注19)。
ポイント制度の移行は、どの会社がやっても揉める。貯まっているものは客にとって既に自分の財産だからだ。
それでも、2日で方針を変えて救済を出したのは速い。
すでに終了した会員特典については個別の延長はしないとも明記していて、そこは線を引いている(注19)。詫びるところと引かないところを分けているのは、誠実な設計だと思う。
探させる商売から、探せる商売へ
しまむらのアプリには、在庫検索という機能がある。
もともとは店内でしか使えなかったが、2024年1月のアップデートで自宅からでも使えるようになり、値札のバーコードだけでなく7桁の品番を入力しても検索できるようになった(注20)。
SNSで見かけた品番を打ち込めば、近くの店に在庫があるかが分かる。
薄く置く商売は、客に探させる商売でもあった。その探す作業を、しまむらは少しずつ機械に渡している。
一方で、店間移送で「探す」のは相変わらず55人の仕事だ。
客が探し、会社も探す。しまむらは昔からずっと、探し続けている会社なのだと思う。
2026年3月に変わったのは、その探し方ではなく、探してくれた客をどう記録するかのほうだった。
それでも、まだ分からないこと
念のため、断っておく。
新しいポイント制度が業績にどう効いたかは、まだ公表されていない。会社は決算資料の中で、売上の前年比に新会員制度の影響が加味されていない旨を注記している(注21)。
ポイントの原資も開示されていない。100円で1ポイント、100ポイントで100円分のクーポンなら還元率はおよそ1%だが、粗利率34.8%の商売にとって1%は、粗利の約3%にあたる。決して軽い判断ではない。
袋の1円をやめたことで回収枚数が減るのか増えるのかも、まだ分からない。
分かっているのは、次のことだけだ。
3月9日で、袋1枚1円の現金買取が終わった(注1)
3月10日から、来店ではなく購入金額に報いる制度になった(注1、注6)
移行で混乱が起き、2日後に会社が詫びて救済を出した(注19)
2026年2月期は売上・利益とも過去最高で、値入率の改善により売上総利益率が上がった(注2、注22)
2027年2月期は売上7,291億93百万円、営業利益668億42百万円を計画している(注2)
最後に
しまむらは、増やさない会社だと思っていた。
棚に置く枚数を増やさない。物流センターに在庫を置かない。コンベヤーに動力を足さない。店に人を増やさない。他社のポイント経済圏にも入らない。
けれど調べてみると、増やさないのではなく、止めないのだった。
届いた商品は翌日には店頭に出る。売れなければ翌日には別の店へ動く。荷物は2.7度の傾斜で自分から流れていく。客は今日行かないと消えると思って店を回る。
すべてが止まらないように設計されている。
その中で、唯一止まっていたものがある。
客の記録だ。誰が何を買ったのかを、しまむらはずっと持たずにやってきた。
2026年3月、そこにも手をつけた。最初に動かしたのは、レジ袋1枚ぶんの1円だった。
小さすぎて誰も記事にしない1円が、いちばん最後まで残っていた場所だった。
この記事が面白かったら、スキで教えてください。次に何を掘るかの参考にしています。
出典
注1:株式会社しまむら ニュースリリース(2026年3月2日)「しまむらグループアプリを『しまむらパーク』として3月10日(火)に統合リニューアル」 https://www.shimamura.gr.jp/assets-c/uploads/release20260302.pdf
注2:株式会社しまむら「2026年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年3月30日) https://www.shimamura.gr.jp/assets-c/uploads/73_04_tanshin.pdf
注3:note「しまむらの支払い方法は?クレジットカード・電子マネーは使える?」 https://note.com/payment_methods/n/na888049bb419
注4:しまむらグループ「シャンブル 各種サービスのご案内」 https://www.shimamura.gr.jp/chambre/service/
注5:しまむらパーク「ご利用ガイド」 https://www.shop-shimamura.com/html/user-guide.html
注6:PR TIMES(2026年3月2日)「しまむらグループアプリを『しまむらパーク』として3月10日(火)に統合リニューアル」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000369.000066095.html
注7:日経ビジネス(2026年5月)「しまむら、1400店の在庫把握 店間移送しコントローラー55人『絶対売り切る』」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00878/051900003/
注8:しまむらグループ 新卒採用サイト「しまむら研究 企業研究編」 https://www.shimamura.gr.jp/recruit/shinsotsu/research/
注9:PRESIDENT Online(2021年4月6日)「『コロナ禍でも利益が2倍に』しまむらがアパレル業界で『勝ち組』になれた5つの理由」 https://president.jp/articles/-/44537?page=2
注10:LogiShift(2026年5月26日)「ファッションセンターしまむらの55人体制で値下げロス極小化が加速」
https://logishift.net/2026/05/26/post-5719/
注11:ビジネスジャーナル(2024年1月19日)「しまむら、高収益企業へ変身の秘密…在庫回転日数の短さはファストリを凌駕」
https://biz-journal.jp/company/post_369212.html
注12:WWDJAPAN(2024年6月10日)「値下げを抑えて売り切る 『しまむら』の在庫コントロールの秘訣」
https://www.wwdjapan.com/articles/1833862
注13:しまむらグループ「ビジネスモデル」
https://www.shimamura.gr.jp/company/business/model.html
注14:ゴールドオンライン(2016年9月6日)「『しまむら』が高収益を実現できた仕入型ビジネスとは?」
https://gentosha-go.com/articles/-/4636
注15:流通スーパーニュース「西松屋news|’25年度売上高1934億円・経常利益126億円」
https://news.shoninsha.co.jp/financial/303326
注16:FASHIONSNAP(2026年5月11日)「ワークマン26年3月期は過去最高業績を達成」
https://www.fashionsnap.com/article/2026-05-11/workman-2026-result/
注17:「【悲報】しまむらワクワクが消えた理由とポイント復活の救済措置は?」(2026年3月13日)
https://02kurata08.com/shimamurawakuwaku/
注18:育てるブログ(2026年3月31日)「しまむらパークリニューアルに新会員制度による混乱でしまむらがお詫び」
https://sodateru.art/news-85/
注19:しまむらパーク「【更新:お詫び】新会員制度(ポイント制)移行に伴う『ワクワク』の対応について」
https://www.shop-shimamura.com/info/4/424/
注20:PR TIMES(2024年1月)「しまむらグループアプリの会員限定機能『在庫検索』がアップデート!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000132.000066095.html
注21:commercepick(2026年3月2日)「しまむらグループ公式アプリ『しまむらパーク』統合リニューアル」
https://www.commercepick.com/archives/86832
注22:株式会社しまむら「2026年2月期 期末決算説明会資料」
https://www.shimamura.gr.jp/assets-c/uploads/73_04_setsumeianalyst2.pdf

