現代版鶴の恩返し|ショートショート【ノックの音が】
ノックの音がした。
開けると、そこに着物を着た一人の若い女が立っていた。
「先日、お助けいただいた者です。お礼がしたくて参りました」
覚えはなかったが、彼女の瞳は澄んでいて、どこか神妙な光を宿していたので、とりあえず上がってもらうことにした。
女は奥の座敷を借りたいと言い出し、そこで三日三晩、せっせと何かを織るような動きをしていた。
時折、チクチクという針の音や、布が擦れるような音が聞こえてきた。
四日目の朝、彼女は白い包みを差し出した。
「絶対に中を見ないでください。あなたを想って作りました。きっと生活の助けになるはずです」
そう言って、彼女はふわりと消えるように去っていった。
中を見たい気持ちを抑え、私はその包みを持って質屋へ行った。
「これはすごい……!」
目を見開いた店主が、どこかへ電話をかけ始めた。
「国立民芸館だ。すぐに来てくれ」
集まってきた学者たちが、白手袋で包みを開いた。
中には、息をのむほど美しい手縫いの着物が一枚入っていた。
刺繍は見事で、絹の質も上等。
鶴の羽を模した模様が全体に広がっている。
「これは……昭和初期の婚礼衣装の復元か?いや、それにしても妙に斬新だ」
「うむ、ところどころロゴが入っているな。これは……電気屋の?」
胸元には《ナショナル》、背中には《中村豆腐店》の文字が金糸で縫い込まれていた。
もしかして……私が数日前に助けた、電線に絡まっていた鶴が、お礼にと町内会のバザーで引き取ったボロ布を、彼女は丁寧に解き、仕立て直したらしい。
つまり、あれはリメイク着物だったのだ。
だが、その出来栄えがあまりに独創的だったため、なぜか展示されることになった。
タイトルは「現代版鶴の恩返し」。
副題に《地域密着の美意識》とある。
私はいま、展示会でボランティア解説員をやっている。
毎日、同じことを繰り返している。
「見ないでって言われたんですが、質屋に持っていったらこんなことになってしまいました」
来館者がクスクス笑うのを見て、私は少し誇らしい気持ちになる。
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