月見バーバー|毎週ショートショートnote
月見床屋は、満月の夜にだけ開いた。
N氏は看板に惹かれ、ふらりと入った。
老人の店主が微笑む。
「髪を切りに? それとも……増やしに?」
小瓶の液体が差し出された。
「月光水です。次の満月まで髪が生えます。ただし、その夜に必ず戻らねばなりません」
N氏は迷ったが、頭皮の悩みに勝てなかった。
翌朝、髪は見違えるほど豊かになった。
やがて周囲にも気づかれる。
「秘訣は?」と問われ、彼は曖昧に笑った。
満月が巡るたび、N氏は通い続けた。
髪はますます増え、青白く輝き始める。
あるとき、ふと思った。
「他の客を見たことがない」
店主は静かに言った。
「皆、途中で待てず消えてしまう。あなたは特別だ。律儀に月を守り続けている」
N氏は鏡を見つめた。輝く髪に、背筋が寒くなる。
外に出ると、空には満月。まるで同じ光が、自分の頭から空へ昇っているかのようだった。
(360文字)
今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
こちらの企画になります。
https://note.com/tarahakani/n/nb53fc221454e
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