いとおかし作家|毎週ショートショートnote
志摩野は、どんな出来事にも動じない作家だった。
電車が止まっても、
「人の都合を超えて動く鉄の意志。いとおかし。」
財布を落としても、
「金は巡るもの。いとおかし。」
周囲は呆れ返ったが、彼の心は波立たなかった。志摩野にとって、世界はただ流れる川のようなものだった。
彼の作品は、古語と現代語が混ざった奇妙で難解な文体だった。
だが、文学賞の選考委員には妙にウケた。
選考委員は、意味がわからないことを「深い」と言い、読みにくさを「革新」と呼び、志摩野の作品は文学賞を受賞した。
授賞式で志摩野は言った。
「意味を求める心こそ、意味を失う。いとおかし。」
その後、読者から出版社には
「読んでも意味がわからない。」
という声が殺到。
出版社は志摩野の次回作を見送った。
志摩野は世間から忘れられたが、孤独に言葉を書き続けた。
ある日、机の上に一通の手紙が届く。
見知らぬ高校生からだった。
「何を言っているのかはわかりません。でも、なぜか涙が出ました。」
志摩野は静かにペンを置いた。
「言葉は、意味を超え、ただ響きとして残る。
いとおかし。」
今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
たはらさんのこちらの企画になります。
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