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駅で鯛を釣る|毎週ショートショートnote

雨上がりの駅前で、見知らぬ男に声をかけられた。
「それと、これを交換しませんか」

差し出されたのは、異国の紋様が彫られた古い小箱。ひと目で高価な品物だと分かった。私はぼろいキーホルダーを渡し、引き替えにそれを受け取った。

その日以来、体が妙に軽くなり、通勤中のざわめきも遠くで鳴っているように感じた。

まるで“エビで鯛を釣った”ようだ。いや、駅で鯛を釣ったと言うべきか。そんな言葉がふと頭に浮かんだ。

その夜、玄関を開けると、再びあの男が立っていた。
「続きをお見せします」
そう告げられ、無言のまま車のような装置に乗り込む。視界が微かにゆらぎ、気づけば外は暗い宇宙になっていた。

無音の通路を進むと、潮の匂いが漂う広い部屋に案内される。
中央には透明な液体をたたえた槽があり、天井には糸巻きのような装置が規則正しく並んでいた。
「そのまま、お入りください」
男は静かに言い、ゆっくりと後ろに下がった。

誘われるままに足を入れる。
ひんやりとした液体が太腿を包み、境界線が溶けていく感覚が広がる。
胸まで浸かったあたりで、頭の中の音が静かに途切れた。

天井から細い糸がするりと降りてきて、そっと右肩に触れた。
次の瞬間、糸はゆっくり引き上げられ、私の体は何の抵抗もなく液面から持ち上がっていった。

 これじゃ、液で体を吊るじゃないか…

そう思ったが、それ以上考えることはできなかった
(573文字)


今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
こちらの企画になります。

https://note.com/tarahakani/n/n2e94d782f28d?from=notice

#毎週ショートショートnote
#駅で鯛を釣る


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