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急性カーテンコール中毒|毎週ショートショートnote

急性カーテンコール中毒。医者はそう言った。正確な病名はどうでもいい。症状は単純だ。舞台が終わった後、観客の拍手が途切れる寸前、照明が落ちきった瞬間。わずか数秒の完璧な暗闇に、身体が耐え難いほどの渇望を覚えるのだ。

僕は会社を辞め、古いフォードを売っぱらった。毎日、新宿の片隅にある、錆びたドアの小さな小劇場に足を運ぶ。上演されるのは、誰の心にも届かない現代詩の朗読劇か、マイナーな弦楽四重奏だ。客はいつも十数人だ。

僕が求めているのは熱演ではない。最後の音が黒いベルベットに吸い込まれた後さの、あの透明な虚無だ。それは、心臓の隣にある十年来の空洞に、驚くほどぴったりとフィットした。客席がざわつき始めるまでの、無音の静寂こそが、僕にとっての真の治癒だった。

治療法はないらしい。医者は古いジャズレコードのように肩をすくめた。それでも構わない。
今夜も僕は、一番後ろの席で、スタン・ゲッツのサックスのように甘く切ない、次の暗闇を待っている。
(415文字)


今回参加させていただいたのは、いつも感謝。
こちらの企画になります。

https://note.com/tarahakani/n/nf55f0c03c2d8


#毎週ショートショートnote
#急性カーテンコール中毒



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