魔法がインフラになる日 : Mythosから最強が消えた後の、新しい景色の正体
Mythosの熱狂の裏にあるマーケティングの仕掛け、そして「借り物の剣」に依存する日本のサイバー防衛の危うさ。
これまで2回にわたり、少し斜に構えた視点から、今起きている事象を因数分解してきました。
では、最後にもう少しだけ未来の話をして、このシリーズを終わりにしようと思います。(3シリーズにするつもりはなかったのですが、連日のメディア露出の影響で、90歳になる親までがミュトスってAIは怖いんだね、どうなるの?と言い出したので、つい。)
半年後、あるいは1年後。
間違いなく、Mythosと同等かそれ以上の能力を持ったオープンソースモデルや、他社の対抗馬が次々と市場に溢れ返ります。
「最強のぶっ壊れ武器」の独占は崩れ、誰でもその強大な力にアクセスできるようになるでしょう。
その時、私たちの目の前に広がる「新しい景色」とは、どのようなものなのでしょうか。
サイバー空間が火の海になる、終末的なディストピアでしょうか?
私は、そうはならないと思っています。
むしろ、表面上は今と何も変わらない、どこか退屈で、静かな日常が続いているはずです。
ただ一つ決定的に変わるのは、水面下で繰り広げられる攻防の「主体」です。
誰でもAIを使って、全自動で脆弱性を探し出し、攻撃を仕掛けられるようになります。それに対抗するため、防御側もまた、全自動でパッチを当て続ける防衛用AIをシステムに常駐させることになります。
つまり、「終わりのない AI vs AI の自動サイバー戦」です。
人間のエンジニアがアラートを見て、慌ててキーボードを叩いて対処する時代は終わります。
私たちが寝ている間にも、システム内部では毎秒何千回という見えないミサイルが撃ち込まれ、防空システムがそれを自動で撃ち落とし続ける。そんな世界が到来します。
かつて「魔法」や「脅威」と呼ばれた最新技術は、水道の浄水システムや、電気の変圧器と同じように、社会を裏側で支える「ただのインフラ」へと溶けていくのです。
Anthropic社が真に狙っていたのも、単なる覇権の誇示ではなく、この「自動防衛インフラ」の根幹に自社のシステムを潜り込ませることだったのでしょう。
ターミネーターのような派手な破滅は来ない。
ただ、気がつけば、私たちの生活の土台が、完全に人知を超えた機械同士の絶え間ない対話(という名の攻防)の上に築かれている。そんな静かなパラダイムシフトです。
足元が海外製のブラックボックスで構成されているという、第2話で感じた「属国化の恐れ」は消えません。
しかし、インフラが高度に自動化され、私たちが技術の底を覗き込むことができなくなった世界で、最後に残るのは「人間そのものの営み」なのだと思います。
水面下でAIたちがどんなに激しい攻防を繰り広げていようと、私たちは朝起きればコーヒーを淹れ、仕事に向かい、誰かと笑い合い、時にSF小説を開いてはるか彼方の星々に想いを馳せるでしょう。
技術の進化速度に息切れしそうになったら、一度立ち止まればいいのです。
どうせ最強の武器なんて、半年でただの標準装備になるのですから。
Mythosという一陣の嵐が過ぎ去った後、少しだけ底上げされた新しい世界で、私たちはまた、不器用に試行錯誤しながら生きていく。
ただそれだけのことなのかもしれません。

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