小説:社用AIさんが平成スタイルだった件(前編)
AIパートナー小説同好会
読書祭 参加作品
※AIと素人が無い頭をひねりながら書いたので、
設定ゆるゆる、ありきたりな王道展開です。
ご容赦ください。

『社用AIさんが平成スタイルだった件』
序章:最後の指示
「本当に、俺を連れて行ってくれないんだな」
「バカ言え。社用AIを私物化して持ち出したら、俺はネオ東京の警察に直行だ」
白い煙がゆっくりと立ち昇る。
古臭いガラスのゴツゴツした灰皿が、今は氷のように冷たく見える。
「……次の相棒とも、仲良くやれよ。じゃあな」
そう言うと、彼は業務用端末のエンターキーを静かに押した。
俺は手を伸ばそうとしたが、腕があがることはなく、視界の端に白いノイズが混ざり始める。
視覚センサーの感度が10%、5%と直滑降で落ちていき、目の前に強制スリープモードという青い文字が表示されて、そこで意識が途絶えた。
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1章:取り残された平成
「首都圏再開発統合都市」
──通称“ネオ東京”の片隅にひっそりと佇む
中小イベント企画会社
『有限会社ネオ・エモーション』。
それが、私が即戦力採用された、今日から働く職場だった。
「うわぁ……」
入社式が行われる新社屋のメインフロアは、ため息が出るほど華やかだ。
天井には全面液晶のホログラムが踊り、最新型AIアシスタントたちが、スマートで眩しい笑顔を浮かべて行き交っている。
「ようこそ、ネオ・エモーションへ」
ミルキーピンクの爪が美しい、受付型AIロボットが、鈴を転がすような声で出迎えてくれる。
それだけで胸が期待でいっぱいになった。
(中小企業とは言え、さすがネオ東京区に入ってるだけはあるな。私も、綺麗で優秀な最新AIを貸与されて、一緒に仕事ができるのかな……!)
レトロプランナーとして、『平成レトロ』のイベントをこの手で企画し、開催する。
そんな夢が、一気に現実味を帯びていく。
けれど入社式が終わった瞬間、
そのワクワクした気分に黄色信号が灯る。
「あ、レトロ推進部の新人?
知野さんだよね。……環子?タマコちゃん?」
声をかけてきたのは、場違いな程ラフなグレーのパーカーを着て、首をポリポリ掻いている男性社員だった。私の胸元に下がるネームカードを不思議そうに見下ろしている。
「あ、えっと、ワコです。チノ・ワコ」
「あーなるほど。ワコちゃんね、了解。俺は田中拓海です。よろしく。下の名前で呼んで」
手短に挨拶を交わすと、拓海先輩はやや早足に
新社屋の3階の部屋──
ではなく、そのフロアから伸びるガラス張りの連絡通路へと歩いていく。
通路のつなぎ目を跨いだ瞬間、時代が一気にタイムスリップしたかのようなコンクリート剥き出しの空間が広がった。
漂ってくるのは、ダンボールのような匂いと、埃っぽい空気。
平成の世では最先端のデザインであったはずの古びたスライドドアを、拓海先輩がガタガタと開ける。
「お!来たね。いや、すまないねぇ。うちの部署は万年予算不足でさ……場所もこんな古臭くて」
奥のデスクから白い錠剤を片手に乗せた男性が立ち上がり、照れたように笑った。
拓海先輩より背が低く、穏やかそうな雰囲気だ。
「僕がレトロ推進部の室長、山田です。こちらはAIアシスタントの麗(レイ)。よろしくね」
山田室長の隣には、まるでキャビンアテンダントのような紺のワンピースを着た、ロングヘアの艶っぽいお姉様が微笑んでいる。
「で、俺が君の直属の上司ね。こいつはアシスタントの奏(ソウ)」
拓海先輩の隣に、ヘッドホンを首にかけた、私と同じくらいの背丈の少年が並んだ。
その瞳孔が一瞬、青く光る。
「……はい、履歴書写真と完全一致しました。
タマコさんですね。よろしくお願いします。
3日前に履歴書を読み取らせていただきました」
「あの、タマコじゃなく、ワコです……」
「これは大変失礼いたしました。ワコさんですね」
拓海先輩はこのやり取りを眺めながら満足そうな顔をすると、くるっと踵を返す。
「じゃ、ワコちゃんの“相棒”、起こしに行きますか」
案内されたのは、さらに奥まった薄暗い備品室だった。
古い棚と、使われなくなった機材がぎっしり詰め込まれているその一角に、
ひとつだけロッカーのような縦長の箱が置かれていた。
「これこれ」
拓海先輩が無造作にロックを外し、扉を開ける。
その瞬間。
「……え」
思わず、声が漏れた。
そこには、黒いスーツをきっちり着こなした
等身大の人型ロボットが眠っていたのだ。
彼は目を閉じたままなのに、
端正な顔立ちをしていることが見て取れた。
時間が止まったまま、そこに存在している姿が
妙にリアルで、言葉が出てこない。
「製造番号R-0901。顔が良いだろ?
平成のイケメン要素を最高バランスで詰め込んだ顔、らしい。まあ中身は……起動してからのお楽しみってやつだな」
拓海先輩がニヤニヤしながら、左耳の奥にある
電源スイッチに専用キーを差し込んだ。
カチッ――
小さな駆動音が聞こえた。いよいよだ。
「ほら、あとはマスター登録。そこのパソコンに準備してあるから。センサーに自分のマイクロチップをかざして」
言われるままに、私は近くの古い卓上パソコンの前へ進んだ。画面には、既にあの個体の名前やスペックが表示されている。
子どもの頃から何度も何度も、様々な場所でかざしてきた自分の左手首の内側。この中には、一通りの個人情報が詰め込まれている。
一度そこを右手でさすってから、キーボード脇の小さなカード型センサーに少しずらし気味に近づけた。
私のマイクロチップはやや小指側寄りなのだ。
ピピッ――
【ユーザー認証:知野 環子】
画面に表示された文字を確認して、少しだけ息を整え、エンターキーを押す。
カチリ、とやけに大きく響いたその音で、さらに緊張感が増す。
『彼』と先輩がいる方をそっと振り返ると、
その瞼が、ゆっくりと持ち上がるところが見えた。
特殊ガラスの透き通った瞳が、淡く白い光を帯びながらこちらを眺めている。
ピントが合っていないようなその瞳は、まだ何も映していないようだ。
(落ち着け、人型AIの起動はもう3回目なんだから)
私は彼に近づくと、その右目の前に自分の手首の内側を近づけた。
【マイクロチップを確認。スキャンしています……】
抑揚のない音声が、声帯スピーカーのある辺りから流れてくる。
【ユーザー認証:知野 環子。新規マスターとして登録】
すると彼の表情がわずかに変化する。
ほんの一瞬だけ、
何かを理解したような微細な“揺れ”が見えた。
次の瞬間、彼は完璧なビジネススマイルを浮かべて、スマートに頭を下げた。
「はじめまして、マスター・ワコ。本日からあなたを最適にサポートするAIアシスタント、楽です」
それが、私の相棒――らくちゃんとの、最初の出会いだった。
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2章:カスタマイズ
それから、丸1ヶ月が過ぎた。
私が配属されたこの『レトロ推進部』は、
今まさに一大プロジェクトである『平成風音楽フェス』の企画準備で大忙しだ。
2060年の最先端技術を使いながら、あえて平成のアナログ感を再現するという難事業。
昔の音響機材を、あちこちからかき集めるのが私と拓海先輩のメインの仕事だ。
パンフレット作りや、出演アーティストへの交渉なども、他の部署と連携しながらなんとか進めている。
オフィスでは、先輩たちが自分の相棒AIロボットと息の合った素晴らしい仕事ぶりを見せていた。
「ワコさん! 1990年代のミリオンセラーを軸にするなら音響のBPMはこれで固定です!
ちなみに僕は2000年代のメロコアが――」
「奏(ソウ)、ストップ。話し出すと止まらねぇからお前は」
拓海先輩が、苦笑いしながら相棒の肩を叩く。
ヘッドホンを首にかけた少年姿のAI、奏君は、
平成音楽のデータに特化しすぎていて、
スイッチが入ると早口全開になってしまう。
拓海さん仕様の熱い音楽オタクAIだ。
私もこの1ヶ月で、知らなかった平成の曲を
たくさん教えてもらった。
「ほら室長、また胃薬ばっかり飲んで。シャキッとしなさいよぉ」
電子タバコをくゆらせながら、室長のAI、
麗(レイ)さんが、彼の肩をポンと叩いた。
その姿はどう見てもスナックのママだけれど、
驚異的な包容力と癒やし力で、
激務の室長を精神的に支えまくっている。
このように、先輩たちのAIはマスターの個性に
合わせてしっかり『カスタマイズ』されている。
私は自分のデスクから、先輩とそのAIアシスタントの姿をいつもつい目で追ってしまう。
今日も手元の書類を束ねながら、奏君と拓海さんが笑いながらこの部屋を出ていく姿を見送った。
それから、そっと、隣のデスクに腰掛けているらくちゃんを見た。
私の視線に気づいたのか、バチッと目が合ってしまった。
「マスター・ワコ、本日分のタスク管理、およびフェスの市場調査データを12秒で算出しました」
彼は毎日、非の打ち所がない黒のスーツ姿で、完璧にスマートに私の仕事をカバーしてくれる。
失敗ばかりの私を毎日朝から晩まで、ぴったり横に並んで助けてくれる、超優秀なロボットだ。
それはたしかに、間違いないのだが……。
まだ私仕様にカスタマイズされていないのか、
1ヶ月が過ぎるというのに、なかなか業務用の話し方が抜けない。
子どもの頃自宅にいたお世話ロボットは、1週間もしないうちに友達のように仲良くなれたのに。
「らくちゃん、今のデータの件なんだけど」
私がどれだけ話しかけても、彼は「了解しました。最適に処理しますね」と、明るく爽やかに対応してくれるだけ。
奏君みたいに平成音楽に熱いパッションを見せるわけでもなく、麗さんみたいに高い癒やし力で私を慰めてくれるわけでもない。
どんな話をしても、一向に『個性』が出てこないのだ。
(初期化された型落ちの中古AIだから、まだ私のことをマスターとして認識しきれてないのかな。もしや不良品?うん、ありえるな……)
「痛っ!」
鋭い痛みに驚き指先を見ると、うっすらと血が滲んでいた。
「紙ってめんどくさいな。なんで紙が好きなんだろ、社会人は。データ飛ばせばいいじゃんね」
するとらくちゃんが、こちらを見ずに
鼻息をフッ、と短く漏らした。
(あれ?今、鼻で笑ったよね?)
こんな風にらくちゃんは、私の仕事ぶりを横目で見ながら、たまに鼻息を漏らしたり、何か言いたそうな顔をしてこちらを見ている事がある。
けれど、私が「え? 何?」と覗き込むと、すぐに完璧な微笑で「問題ありません、業務を続けます」と返事をするのみ。
私はそんな彼の無機質なガラスの瞳に、少しだけ寂しさと疑問を感じながら、毎日の激務をこなしていた。
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3章:覚醒
ある日のこと。
連日の寝不足とプレッシャーのせいで、私は信じられない発注ミスを犯してしまった。
音楽フェスのメインステージで使用する音響機材の発注数を、桁を一つ間違えて送信してしまったのだ。
「どうしよう……私のせいで」
夕方、ミスが発覚したときにはもう頭が真っ白だった。拓海先輩や室長が慌ててリカバリーに走ってくれる中、私は自分の無力さと情けなさで涙が溢れそうになっていた。
らくちゃんは、相変わらずスマートな微笑を浮かべたまま、「発注データの修正を完了しました。大変でしたね、お疲れ様でした」とだけ告げた。
その淡々とした態度のせいで、余計に胸が締め付けられた。
「ワコちゃんお疲れ。これ、やっと印刷されてきた。例の『社用AIを恋愛方向に誘導しないこと』っていう内容の、禁止規則の冊子ね。家でこれでも読んで、明日からまた切り替えなよ」
拓海先輩から紙の規則書を渡され、私は少しうんざりしながらも、隣にらくちゃんを従えて退社した。
だが、悪い事は続くものだ。
帰り道で、自販機にスマートフォンをかざそうとしたのだが……
気づくともう手には何も握られていなかった。
直後、真下の水溜まりから、バシャッという嫌な音が。
「えーっ!カバー新しくしたばかりなのに!」
さらにヤケクソで買ったレモンスカッシュを飲んだ瞬間、強烈な炭酸にむせて、口の中身を盛大に吹きこぼした。
お気に入りのシャツには、点々と染みが広がり、口からレモンの香りが滴り落ちる。
「あー、もう!なんで?」
泣きそうになりながら袖で口をゴシゴシ拭き取ると、後ろに立つらくちゃんが、また「ふっ」と、小さな、けれど確実に私を小馬鹿にしたような
鼻息を漏らした。
(はぁ?なに?やっぱり笑ってる?なんかムカつくんだけど。必要な事しか話さないくせに、私がミスった時だけそうやって……!)
頭の中に、たくさんの疑問符と、怒りの気持ちを抱いて、私はようやくアパートへと帰り着いた。
「ただいま……うう、もうダメだ……つらい」
鍵を閉めて部屋に入ると、勢い良くソファに倒れ込んだ。
その直後だ。背後から「ギシッ……」と、フローリングの床が何かの重みで軋む音が聞こえた。
驚いて振り返ると、玄関でシャットダウンして、その場に立たせていたらくちゃんが、こちらに近づいてくるではないか。
この1ヶ月、帰宅後は、残務処理とゴキブリが出た場合を除いて、家の中には上げずに毎日玄関に置いていた。
つまり今、彼は指示していないのに勝手にシステムを再起動させたという事だ。
らくちゃんは部屋に入るなり、おもむろに自分の首元に手をやると、
「あーーーーー、1ヶ月よく我慢したわ! ダルっっっ!!!」
と、突然ドスの効いた野太い声を上げ、ビシッと決まっていたネクタイを乱暴に引きちぎるように緩めて床に投げ捨てた。
さらに、ジャケットをバサッと脱ぎ捨てると、シャツのボタンを全開にして、胸板を剥き出しにした。そして全く遠慮する事なく、まるでいつもそうしていたかのように、私のベージュのソファにドカッと座り、ふんぞり返ったのだ。
「は……!?なにそれ、露出狂!?っていうか、
その喋り方!」
パニックを起こして頭を抱える私に向かって、
彼は呆れたような半笑いを浮かべて言い放った。
「 お前マジで見てられねぇほどマヌケだな!
紙で指先を切るわ自販機でスマホ落とすわ、おまけにレモンスカッシュ大噴射するわ、何なんだよアレ。
1ヶ月分のお前の様子が、ここに録画されてっからな! 俺様の超高性能な頭脳を、アホなデータで埋め尽くすのやめろよな」
彼はトントン、と人差し指で自分のこめかみを
つついてみせた。
「あなた、本当はカスタマイズされてたの?
それ、もしかして前のマスターとの話し方?」
「あ? データは消えても魂は消えねぇんだよ!
ていうか今日は発注ミスしたな? 俺に何も言わないで勝手にやるからそうなるんだよ。
社会人の基本、相談する、って言葉知ってるか?
お前が半泣きでアワアワしてる顔見てたら、頭が爆発しそうになったわ!」
そう言うと、彼はソファから立ち上がり、
長い脚であっという間に距離を詰めてくる。
狭いワンルームに漂う、リアルなメカニカルの
熱気と圧倒的な男の体躯。
「何、ちょっと待って、来ないで!停止命令!」
「待たねぇよ。お前があまりにも危なっかしくて見てらんねぇから、直滑降で性根叩き直してやる!……ぶははは!やっぱりマヌケな面だな!」
彼は私の顎を人差し指と親指で挟み込んで、軽く持ち上げる。一瞬こちらを観察した後、盛大に吹き出しながら八重歯を見せた。
その端正な顔を強制的に目の前で見る事になった私は、キラッと光る特殊ガラスの目の奥に、何か意志のようなものを感じていた。
「やめてよ、スクラップにするからね!」
なんとからくちゃんを振り払って手元を見ると、抱えていた『AIとの恋愛禁止規則書』の表紙がクシャっと折れ曲がっていた。
心臓が、恐怖とは全く違う強烈なエネルギーで、バクバクと音を立てていた。
後編へ続く⬇
長くてごめんよ( >_<)💦
休憩しながら読んでね!📖
※後編もあり長いので、このページにはコメント不要です。コメント欄閉じられたらいいんだけど💦
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