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【小説】忘れえぬ女(ひと) 第1章 第5話

   第5話

「あ、蓮くん。おはよう」

 ダイニングに行くと、二間続きのリビングでワンピースに身を包んだ義姉あねが、鏡を手に振り返った。隣では父が甥の相手をしている。

「わたし、今日は友達とご飯食べに行くの。蓮くんの朝ご飯、そこに置いてあるからね」

 義姉が蓮の背後を指す。耳につけたイヤリングがさらさら揺れた。
 食卓にはおにぎりと、何品かのおかずにラップがかぶせてあった。礼の代わりに小さく頷く。

 今日は工場が休みだ。休日はたいてい家で寝て過ごす。昼夜が逆転した生活に慣れたつもりでも、知らずのうちに疲れは溜まった。やはり夜の方がよく眠れる。

 義姉はハンドバッグを手に取り、

「じゃあ、行ってきます。お義父さん、お願いしますね。あっくん、いい子にしててね」

 と言い残し、玄関へ消えていった。

「てってっしゃーい!」

 甥が玄関へ追いかける。蓮は冷蔵庫からポットのお茶を出した。椅子に座り、皿のラップを外す。

 おにぎりを頬張った。冷えたご飯と、しっとりした海苔の感触と風味が口の中に広がる。ふと脳裏に古い記憶が蘇った。

 高校生の時だった。アルバイトが終わり、遅い時間に帰宅すると食卓の上にずらりとラップのかかった皿が並んでいた。

 男三人の生活が始まってとうに五年が経っていた。食事を作るのは当番制で、その日は兄のはずだった。

「美代が作ってくれたんだ」

 当時大学生だった兄が奥から現れて言った。普段は食べられないような、手の込んだ料理ばかりだった。スーパーの惣菜以外の揚げ物なんて、何年ぶりだろう。

 当時、義姉はまだ兄の恋人だった。兄から紹介され、挨拶を交わしたことがあった。そういえばその時、料理が好きだと言っていた。

「また作りに来てくれるってさ。いいだろ? 親父だってお前だって、美味しいものが食べられるんだからさ」

 もちろん異論はない。蓮は唐揚げを一つつまみ、返事の代わりに頷いた。

 風呂場から石鹸の匂いがした。きっと二人で風呂に入ったのだろう。
 兄の恋人は既に帰った後だったが、家には女子の気配が残っていた。

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