【小説】忘れえぬ女(ひと) 第2章 第7話
第7話
「ブーちゃん! 久しぶりー!」
嬌声に顔を向けると、美咲と祐奈が駆け寄ってくるところだった。
受付のカウンターから飛び出す。輪になって再会を喜び合った。
「変わってなーい。ブーちゃんそのまんま」
「懐かしー」
元級友たちがべたべたと風花の身体に触れる。
「いや変わったでしょ。大人の女になったと言ってよ」
風花の言葉に、美咲がにやりと笑い、
「ホントだ~、大きく育って。これならいつでも出荷できるね」
「ブタじゃねーわ!」
風花の言葉に、二人だけでなく周囲にいた旧友たちがどっと笑い声をあげた。その中には五十嵐くんの姿もある。笑っている姿を見られただけで、嬉しくて胸が詰まった。
「いやー、やっぱりブーちゃん最高」
二つ折りになって笑い転げる二人から会費を徴収する。
同窓会の会場にはネットで見つけたダイニングスペースを選んだ。内装はオシャレなクラシックタイプで、ビュッフェ形式の食事に飲み放題もつけても、予想よりずいぶんリーズナブルだった。
参加率はクラス全体の八十五パーセントだった。卒業しておよそ十年。出産して子育て中の者もあれば、県外へ転勤している者もいる。この数は充分と言えるだろう。
連絡すら取れなかったのは幸田久子だけだった。受付を閉めて会場に入ると、恩師の姿が目に入った。
「先生。今日は本当に、わざわざお越しいただきありがとうございます」
駆け寄り、受付で顔を合わせた時と同じ挨拶をして頭を下げた。恩師である石橋教諭が目を細める。十年前からベテランの女性教師であり、風花と幸田久子のクラスを三年間受け持った担任だ。
「こちらこそお招きありがとう。赤羽さん、元気だった?」
「ええ、先生もお元気そうで」
恩師は微笑んで頷いた。
「赤羽さんのことだから、仕事でも活躍しているでしょうね」
恐縮して首をすくめる。中三の時、五十嵐くん目当てで始めたクラス委員だったが、いい経験になった。あれがその後の人生にも影響を与えた気がする。
ふと五十嵐くんの姿を目で追った。当時から仲の良かった男子たちに囲まれて楽しそうに笑っている。
「ねえ、幸田久子って来ないの?」
ビュッフェの料理をトレー一杯に乗せて席に戻ると、祐奈がそっと耳打ちをしてきた。
「連絡取れなかったの」
口元を手で覆い、祐奈の耳に小さな声で返す。
「そうか……」
祐奈が眉をひそめた。意外な気がした。幸田久子と仲良くしていたそぶりはなく、むしろ嫌っているものと思っていたのに。
「実家にも連絡したの?」
「うん。でもダメだった」
風花は口を噤んだ。『おまえのせいで人生がめちゃくちゃ』という母親の言葉を口にする気にはなれない。
「幸田久子の連絡先、知ってるとしたらブーちゃんだけかと思ってたんだけどな」
祐奈の言葉に、嫌な記憶を閉じ込めていた蓋が開きかける。その時、重岡が風花を手招きした。促されるままに、壇上に立たされる。
「えー、みなさん。本日はお集まりいただいてありがとうございます。今日は十年前に戻って、おおいに騒いで盛り上がりましょう!」
風花の音頭で会場が盛り上がる。五十嵐くんの笑顔が眩しい。特別な一日になりそうだった。
