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【小説】忘れえぬ女(ひと) 第3章 第27話

   第27話

 酒屋に寄り、若店主に教わった場所に辿り着いた。建物の向かいは公園になっており、母親が小さな男の子を遊ばせている。

 かつて幸田久子が住んでいた家は火災で焼け落ち、今は二階建てのアパートが建っている。しかし十一年前まで、彼女はここに住んでいた。

 隣の家のチャイムを押す。しばらく待つと、ドアが開いて若い男性が顔を出した。

「はい、どちらさまですか」
「あの、すんません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
 そう言って頭を下げると、男性は創と保奈美の立つ門の外に出てきた。

「なんですか」
 笑顔で尋ねる。突然の訪問にもかかわらず、親切な対応にホッとする。

「あの、こちらのアパートが建つ前の家が火災になりましたよね。覚えてはりますか」
 創の指す隣家に目をやり、男性は「ああ」と顔を曇らせ、重々しく頷いた。

「もちろん覚えてますよ。僕はあの時中学生でしたけど、すごく怖かったです」
 男性は自分の家を振り返ると、

「うちの外壁も煤で真っ黒になりました。保険で塗りなおしましたけどね」
 言いながら壁を指す。しかしそこには火災の片鱗は残っていなかった。

「幸田さんという一家が住んではったんですよね。親子三人で」
「ええ、でもあの火事でご主人が亡くなって。お母さんはたまたまいなかったからよかったけど、娘さんも火事で大やけどをしたんです」

「その娘さんについて、詳しく教えてくれませんか」
 創が尋ねた。彼女のルームメイトだった保奈美の姉を探しているという事情を伝えると、男性は頷いて、

「チャコちゃんですよね。幸田久子ちゃん。弟と同い年で、小さい頃からよく遊んでいましたよ」
 そう言って、再び顔を曇らせた。

「可哀想だったなあ……ひどいことになって。その後、引っ越しちゃったんですよね。確か隣の市って聞いたかな」
 そう言って腕組みをする。その時、後ろから声がした。

「昂ちゃん、どうしたの?」
 振り返ると、向かいの公園で男の子を遊ばせていた母親が立っていた。

「うん、こちらのお二人が、昔火事になった隣の家のことを聞きたいんだって」
 親子なのだろう。母親の手を離れて駆け出した小さな男の子が、男性に飛びついた。

「もう、あっくん。パパのこと邪魔しちゃだめよ」
 母親が笑った。ちょっとだけ一条かれんに雰囲気が似ているような気がした。

「チャコちゃんのことだったら、弟の方がよく知っていますよ。いつも遊んでいたし、確か高校も同じだったんじゃないかなあ」

 男性が小さな男の子を抱き上げながら言った。「ちょっと待って下さいね」と言いながら、その場でポケットから取り出したスマホをタップする。
 しばらく話した後、男性が創と保奈美に顔を向けた。

「チャコちゃんのこと、詳しく話してくれるって言ってますよ。ここからそう遠くないところに住んでるんですけど、今日は休みだから部屋にいるって。連絡先を教えていいって言っているので、今渡しますね」

 男性は家に入り、小さな紙片に書いたメモを持って戻ってきた。

 住所が記されたそのメモの一番上に書かれていた名前は、
『鴨志田蓮』
 とあった。

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