【小説】忘れえぬ女(ひと) 第3章 第8話
第8話
「あった、これや」
電車の中で吊り革をつかみながら片手で操作していた創は、スマホの画面を保奈美に向けた。
検索に引っ掛かったのはツイッターの記事だった。『ワークショップのご案内』とある。アカウントは映画監督本人だ。
「とっくに終わってるやつやからな、連絡先が載ってへんわ」
日時や内容は残っているものの、参加費の振込先や問い合わせ先は消えており、赤文字で『この募集は終了しました』とだけある。
念のためワークショップの会場を検索してみたが、そこはただの貸しスタジオだった。
夕方を過ぎ、電車が混み始める。保奈美がつぶされないように、創は壁に手をついた。
「困りましたね……」
創の作った小さな空間の中で、スマホの画面を見ながら保奈美が呟いた。
「せやな……」
保奈美の手からスマホを受け取り、創は画面をタップする。
『突然すんません、『十三番目の月』っていう映画の監督をした神園おうかって知ってますか』
送った相手は大石だった。すぐに既読がつく。
『なんや、コメンテーターの次は映画監督か』
からかうような言葉に続き、すぐに次のメッセージが届いた。
『けど知らんわ。俺が知ってる監督は一人だけやからな』
十数年ほど前に、関西の若手芸人を描いた映画があった。確か大石はその作品に出演していた。
『神園おうか監督にどうしても連絡を取りたいんです。大石さんの知り合いの監督さんに聞いてもらうことって、できませんか』
創のメッセージに既読はつくものの、返信が来ない。
『先にこっちの連絡先を教えてもらってええです』
慌てて追記するが、しばらく待っているうちに画面が暗くなった。諦めてポケットにしまおうとした時、スマホが受信を告げた。
『わかった』
気を悪くしたわけではないとわかり、短いメッセージにほっとする。その途端、電車が大きく揺れた。
背中に乗客たちの重みが加わる。片手にスマホを持ったまま壁に両肘を突っ張ったが、支えることは無理だった。創の胸に保奈美の顔が押しつけられる。
「すまん」
重みが消え、体勢を戻した。腕の中の保奈美に謝る。
「いえ、大丈夫です」
保奈美が上目遣いに創を見ながら小さく首を振った。巣に潜む小さくて温かい小動物のようだ。
創は顔をそむけ、窓に張られた広告に目をやった。
十四歳の中学生を相手に、おかしな気持ちになるだけでアウトやな。
