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【小説】忘れえぬ女(ひと) 第1章 第2話

   第2話

 真空パックされた肉団子の袋がベルトコンベアーに乗って絶え間なく流れてくる。蓮は素早く箱を組み立て、十二個を詰めた。もう一人の男性、原田が機械を使ってそれを密閉する。梱包は二人一組の作業だ。

 ひどいパワハラを受けて前の職場を辞めてから体調が戻るまでの間、しばらくは家で引きこもりのような生活をしていた。枕も上げられない日々が続いたが、少しずつ時間が経つことを長く感じるようになってきた。なにもせずに寝ているばかりの自分が嫌になり、アルバイトを探した。

 最初に就いたのは接客業だったが、すぐに辞めた。客からほんの少しでもクレームを受けると、冷汗が止まらず言葉が喉から出てこない。

 たどり着いたのは工場での夜勤業務だ。夕方から早晩勤務のアルバイトたちと交代し、深夜から朝までを窓のないがらんとしたスペースで作業する。

 巨大な機械を止め、また起動させることにはコストがかかる。そのため、機械は一定の緩やかさで休まずに動き続け、人間がそれに合わせることになっている。

 最初の頃は、自分のペースを作れないことに苦しんだ。箱に入れる手際が早すぎると、次に流れてくるのを待たなくてはいけない。そこにリズムの狂いが生じる。

 待つといっても十秒ほどで、一分も気を抜けば商品の渋滞が起こる。そんな短い間隔の中でオンとオフを使い分けることはできず、自分以外のものにリズムを合わせることは、考えている以上に苦しいものだと知った。

「やりがいがない」──辞めていく人はそう言う。この作業の本当の大変さを、誰もうまく説明できない。

 窓のない広いスペースは空調が効いており、一年中ずっと同じ温度と湿度が保たれている。大きな機械が動く音と、商品を箱に入れる時のビニールと紙が擦れる音だけが響く。

 ペアを組む原田は、決して無駄口をたたかない。蓮が勤め始めた時にはもう既にここにいた。年齢は六十過ぎか、それよりも若いのか。いつも休憩以外の八時間を二人きりで過ごすが、挨拶以上の会話をしたことがない。

 窓のない部屋ではいつ夜が明けたのかわからないが、最近では時計を見なくても腰の痛みや手足の疲労感で時間の経過がわかるようになった。やがて仕事の交代を告げるベルが鳴る。

「おい、そこ片付けとけよ」

 原田がそう言って、床に落ちている梱包材のゴミを指さした。「はい」という返事を待たず、原田はさっさと部屋を出ていく。蓮はわざとのろのろと業務用のガムテープの芯を拾い集め、ゴミ箱に入れた。

 着替えるためにロッカーに行くと、原田の姿は既になかった。蓮と顔を合わせたくないのだろう。蓮だけではない、おそらく誰とも私語などしたくないのだろう。そのために、わざといつも蓮に用事をいいつけ、素早く着替えて消える。

 私語などしたくないのは蓮も同じだった。けれども、自分もいつか原田のように、自分よりもずっと若い同僚との間に流れる沈黙を恐れるような年齢の重ね方をするのかと思うとぞっとした。

 スマホを手にし、着替えながら一条かれんの動画を流す。なにも直視してはいけない。先のことなど、決して考えてはいけない。

 外に出ると、早朝にもかかわらず刺すような日差しだった。空調に甘やかされた身体が、およそ九時間ぶりにどっと汗を噴き出す。

 古くてよれよれのTシャツの背中は、汗を吸って色を変えているだろう。ぱりっと夏のスーツを着こなした、さほど年齢が変わらないはずの男性が蓮を追い越していく。

 会社に向かう人たちの波とは反対に、蓮は下り電車のホームにぽつりと立った。

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