【小説】忘れえぬ女(ひと) 第2章 第11話
第11話
『奴隷島』というタイトルのAVの中で、幸田久子は他のたくさんの裸の女たちと共に檻に入れられていた。首輪がはめられ、鎖でつながれている。
蹴り転がされ、悶絶する幸田久子を見ているうちに、風花の腹から笑いがこみ上げた。ざまあみろ。そう呟いたら止まらなくなった。ざまあみろ。ざまあみろ。ざまあみろ。
修学旅行事件のわだかまりが、少し解けた気がした。
修学旅行の班別行動。それまでのグループを抜けて幸田久子と二人で組むことになったことを、風花はさっそく後悔していた。
計画を立てようにも、幸田久子はなにひとつ意見を出さず、風花の提案に「なんでもいい」としか言わない。
他の班が楽しそうに話しているのがうらやましかった。
そんな時、幸田久子がふとガイドブックの一ページに目をやった。お土産物として定番の、有名なあぶら取り紙だった。それをじっと見つめている。
「これ、欲しいの?」
と尋ねると、幸田久子は顔を上げ、ぷいと顔を背けながらも、
「昔、うちに同じのがあったから」
ぽつりと呟いた。それだけのことで、風花は嬉しくなった。
「じゃあ、このお店にも行こうね」
と行動計画に組み込んだ。幸田久子は黙ったまま静かに頷いた。これを機に彼女と打ち解けられるような気がしていた。
そんな期待は無残なまでに打ち砕かれた。修学旅行当日、待ち合わせの東京駅に幸田久子は現れなかった。担任に尋ねると、昨夜になって欠席するという連絡を受け取ったそうだ。
悔しくて、怒りのあまり手が震えた。二人掛けの新幹線の座席で、風花はぽつんと窓の外を眺めていた。
サボるつもりなら、最初からそう言ってくれたらよかった。二人きりのグループなのだから、幸田久子がサボれば風花が一人きりになってしまう。こうなるのはわかっていたはずだ。もちろんわざとに決まっている。
偽善者。幸田久子の笑みが浮かんだ。すべて見透かされていたのだろう。風花は修学旅行で幸田久子が一人ぼっちになってしまうのを心配したわけではなかった。幸田久子が五十嵐くんと共に班別行動をすることを阻止したかっただけだった。
──許せない。幸田久子も、愚かな自分も。
新幹線の中に楽しそうな笑い声が飛び交う。お菓子を交換し、写真を撮り合う級友たち。風花は誰にもばれないように涙を拭い、寝たふりをした───。
