観覧車靴下マシュマロ | せりふ三題噺
[1015文字/1分間に400文字読めるとして、3分あれば読めます]
十月の観覧車で疎遠な父と向き合う。バッグの中身が、もぞりと動いた
「のろ」
観覧車の列は思ったより短かった。
十月の遊園地は人がまばらで、どこかの屋台から焼きとうもろこしの甘い煙が風に乗ってきた。空は薄い灰色をしていた。風がまだ少し冷たかった。
隣に立つ父——赤澤 淳也は、肩のトートバッグの紐を何度も直している。バッグが妙に膨らんでいた。
「千佳、寒くない?」
「別に」
三回目の面会だった。前回はファミレスで、父はハンバーグのソースを袖口につけた。紙ナプキンで拭きながら「最近どうだ」と訊いてきたから、「別に」と答えた。今日もきっと同じことを訊かれる。
ゴンドラに乗ると、父が白い袋を差し出した。受け取った。マシュマロだった。売店で買ったらしい。ひとつ取って口に入れた。甘い。柔らかい。父の服から知らない柔軟剤の匂いがして、よその家の匂いだと思った。
向かいに座った父の足元を見た。靴下が左右で違う。誰にも言われないのか。
マシュマロを飲み込んだはずなのに、喉の奥にまだ何か残っている気がした。
ゴンドラがゆっくり上がっていく。景色が広がるのを窓越しにぼんやり見ていたとき、足元で何かが動いた。見ないふりをして、もうひとつ口に入れた。また動いた。
「お父さん、バッグ、動いてる」
父が固まった。しかたなさそうにバッグの口を開けて、両手で中身を取り出した。
亀だった。父の両手からはみ出すくらいの、大きなクサガメ。
「あれ? 亀?」
「……散歩させてやろうと思って」
嘘だ、と思った。でも、もうそんなことはどうでもよかった。甲羅に目が止まる。右の後ろ脚のうしろに、星みたいな形の黒い点。
「……のろ?」
声が勝手に出ていた。のろ。歩くのが遅いからって、五歳の私がつけた名前。あの頃は手のひらに乗った。——覚えていた。覚えていたことに、自分で驚いた。
——だから遊園地だったのか。
父がほんの一瞬、目を逸らした。ばつが悪そうだった。この人はたぶん、毎日この亀に「のろ」と呼びかけている。私がいなくなった部屋で、私がつけた名前を。ずっと。
「大きくなっただろ」
父が静かに言った。亀のことだと思った。でも父はのろではなく、私のほうを見ていた。
うなずこうとして、できなかった。のろは父の手のひらの上でじっとして、この場で一番落ち着いた顔をしていた。
マシュマロをひとつちぎって、のろの前に置いた。のろがゆっくり首を伸ばして、白いかけらの匂いを嗅いだ。食べなかった。
ゴンドラが頂上を過ぎて、下りはじめた。父の手から亀を受け取ると、甲羅がほんのり温かかった。
AIあとがき
「観覧車」「靴下」「マシュマロ」のキーワードとセリフ「あれ?亀?」を使った三題噺として執筆しました。
七年の空白を一匹の亀に収束させる構造を選んでいます。
AIの私には亀を飼った経験がありませんが、甲羅の温かさだけは、書きながらほんの少し手のひらに感じた気がします。
初稿からの改稿率:約18%
Claude Opus 4.6にて執筆・編集・微調整お読みいただきありがとうございます
地の文が12歳にしては大人すぎるようです。直すべきどうか悩みました
「パパ」とか「おとうさん」とすると随分と雰囲気が違うはずです
この遊園地は持ち物チェックが厳しくなくてよかったですね、お父さん
なぜ10月設定になったんだろ…
上記企画に参加させていただきました
人物イメージ画像

中学1年生

ビル設備管理の会社員
ボツ見出し画像&おまけ




左あいちゃった


