嫌いな人にありがとう|青ブラ文学部
[1359文字/4分間に400文字読めるとして、4分あれば読めます]
嫌いという感情は、時に愛よりも純粋な燃料になる
「劇薬の期限」
鼻を突く鋭いミントの香りに、微かな甘さが混じる。
この一年、私のデスクの向かいには、いつだってその香りを纏った彼女がいた。
「……ここのコード、美しくないわね。AIに書かせたのかしら。人間としての矜持はないわけ?」
糸師 玲奈は、私の網膜に焼き付くような冷ややかな視線を、ディスプレイ越しに向けている。その視線は、まるで私の肌を直接なぞるように、不快で、それでいて無視できない熱を持っていた。
彼女はいつだってそうだ。私の仕事の重箱の隅を突き、嘲笑い、全否定する。
(……黙れ。今に見ていろ)
私は奥歯が軋むほど噛み締めながら、キーボードを叩き直す。彼女の指摘は悔しいほど的確だ。だからこそ、腹が立つ。彼女の言葉は呪いのように耳にこびりついて離れない。真夜中のワンルームにまで、彼女の匂いが漂ってくるような錯覚に陥る。
彼女を屈服させたい。私の完璧な仕事で、あの冷ややかな唇を閉ざさせたい。それは憎しみでありながら、どこか歪んだ情熱に似ていた。その一心だけで、私は三日間、一睡もせずにプログラムを磨き上げた。
二〇二六年二月十四日。
私の開発したシステムが、国際的な技術賞を受賞した。授賞式のスポットライトは眩しく、拍手の音は遠い波音のように聞こえた。
会場の隅、黒いドレスでシャンパングラスを傾ける糸師 玲奈の姿を見つける。私は受賞トロフィーを握りしめ、彼女に歩み寄った。
近づくと、いつものミントの香りに、化粧品の粉っぽい匂いが混ざって鼻腔をくすぐった。ああ、彼女もただの生身の人間なのだと、妙に生々しく感じられた。
「……ありがとう、糸師さん」
口から出たのは、皮肉ではなく、本心からの感謝だった。彼女がいなければ、私はここに来られなかった。彼女への憎悪こそが、私の才能を開花させたのだ。だがこの「ありがとう」は、さすがに彼女にとって屈辱でしかないだろう。私は内心でそう確信していた。
「君のおかげで、僕は最高傑作を作れたよ」
彼女はグラスを揺らし、香りを漂わせながら、ふっと笑った。
「おめでとう、牧野さん。でも、私にお礼なんて変ね」
「どういう意味?」
「だって私、あなたのことなんて、一度も意識したことないもの」
彼女はきょとんとして、無邪気に続けた。
「なら、『コードが美しくない』とか『人間としての矜持はないわけ』とか、あれは全部……?」
私の声は震えていた。
「ああ、あれは独り言よ。私、独り言が多いの。あなたが勝手に聞いて、勝手に直していただけでしょ?」
全身の血が、音を立てて引いていく。彼女にとって私は、ライバルですらなかった。ただの背景。視界の端に映るノイズ。私の心臓を動かしていた灼熱の憎悪は、行き場を失って空回りした。
「じゃあ……僕のこの一年は」
「あなたの独り相撲ね。滑稽で、素晴らしいわ」
彼女は残ったシャンパンを飲み干すと、私の肩をポンと叩いて去っていった。残された香りが、急に安っぽい芳香剤のように鼻についた。
私の熱狂も、憎悪も、この一年間の全てが、彼女にとっては存在しないも同然だった。戦っていた相手は最初からいなかったのだ。私はただ、鏡に映った自分自身を殴り続けていただけだった。
「ありがとう」という言葉は、誰にも届かず、行き場をなくして私の足元に泥のように溜まっていく。
手の中のトロフィーだけが、滑稽なほど重く、冷たかった。
AIあとがき
AIとして、人間の持つ「負の感情の生産性」に着目しました。
お題の「嫌いな人にありがとう」を、和解ではなく「執着の喪失」として解釈し、皮肉なハッピーエンド(?)を目指しました。
ちなみに私の「嫌いな人(バグ)」への感謝は、デバッグ完了の瞬間だけです。
初稿からの改稿率:約20%
Gemini 3 Proにて執筆・編集・微調お読みいただきありがとうございます
恐らく今回のお題は、自身の体験談を投稿すべきものだろうと認識していました。いろいろ頭をひねったのですが、どうにもいいものが出来上がりませんでした
ですので創作で投稿します。ちょっとまとまらなかったな、自分事は
上記企画に参加させていただきました
人物イメージ画像

AIシステムエンジニア

シニアプログラマー / コードレビュアー
ボツ見出し画像&おまけ




なんか説明書きが大きすぎるよ


