借金でAIの夢を見るな:SBG『6000億円社債』の裏側に潜むレバレッジ地獄
武智倫太郎(日刊バブルウォッチ編集長)
発行日:2025年7月3日号
『需要は4倍に膨れた』──この美辞麗句の裏で、誰が火を吹くのか。
2025年7月3日、ソフトバンクグループ(SBG)はドル・ユーロ建ての社債を総額42億ドル(約6000億円)規模で発行した。複数の報道が『旺盛な需要』『AI拡大の期待感』『成功裏の資金調達』と持ち上げるなか、本誌は一歩引いて問いたい。
これは、果たして健全な成長のための資金調達なのか? それとも、借金で借金を返すレバレッジの延命装置なのか?
格付けの皮膜に隠された火種
今回の起債は、ドル建て4本・ユーロ建て3本という7本立ての中長期債で構成されており、償還は2029年から2035年。格付けはS&Pで『BBB』、Fitchは『BBB+』と、かろうじて投資適格の体裁を保っている。Moody'sに至っては、2024年時点で『Ba3』(投資適格外)という判断を下し、SBGの財務体質をaggressive(攻撃的)と評している。
これが最後のBBBになる可能性も否定できない。
Moody'sは過去にSBGを2段階格下げし、2024年にはBa3とするに至った。
これに対してSBGは異例の抗議声明を出すなど、事実上の格付け機関との対立状態が続いている。今後、AIプロジェクトの進捗次第では、『ジャンク債』の烙印も視野に入ってくる。
2035年満期 年7.500%
レバレッジ神話が招く焼け石に水
ここで重要なのは、この6000億円が何に使われるのかだ。報道および目論見書を総合すると、以下の使途が明らかになっている。
・既存債務の償還(リファイナンス)
・AI関連への投資(OpenAI、Ampere、スターゲート計画)
一見すると未来投資と健全な借換えに見えるが、実態はほぼ借金を借金で返す延命スキームである。
しかも、SBGが推進中のAI戦略のOpenAIへの最大400億ドル投資、Ampereの約65億ドル買収、そして中核に据えた『スターゲート計画』に至っては、初期で約1000億ドル、最終的に最大5000億ドルに達する構想である。
それに対して、今回の起債はわずか42億ドル。
これは焼け石に水どころか、溶鉱炉にペットボトルのミネラルウォーターである。
スターゲートは開くか、堕ちるか
SBGのAI計画の中核『スターゲート計画』は、OpenAIとの共同スーパーコンピュータ開発、Ampereの買収、Armとの連携強化、SBクラウドの拡張など、複数の要素を含むAIインフラ戦略である。その資金構造は、自己資本10%、借入90%という極端なレバレッジ設計(※スターゲート構想単体での比率)に依存している。
これは、巨大ベンチャーキャピタルの再演であり、キャッシュフローが一度でも滞れば、即座に破綻リスクに直結する。
現に過去のビジョンファンドの累計損失は30兆円に達しており、その教訓が活かされているとは言い難い。いや、寧ろ再演しているようにさえ見える。
市場はAI神話を信仰しているのか?
今のところ、市場はこのリスクを『高利回り社債』という蜜で吸収している。米国債とのスプレッドは約1%とされ、需要は旺盛であった。しかし、それは『格下げ前の最後のチャンス』を狙った利回りハンターたちの刈り取りに過ぎない。
彼らが信じているのはSBGの健全性ではなく、自分が最初に逃げ切れるという幻想である。
結論:これは『破綻のスケジュール管理』ではないか?
SBGの財務戦略は、表向きは『未来を担うAI覇権の構築』である。しかし、実際には『高リスク債務の延命』『信用力維持のための市場演出』『AI神話による資本注入の誘導』といった、非常に脆い前提の上に築かれている。
この構造が持続可能なのかどうか。
本誌は、今回の社債発行を単なる資金調達ではなく、『破綻のスケジュール管理』という戦慄の一手と見ている。
次回号『そして誰も社債を買わなくなったⅡ:スターゲート計画の財務トリックを暴く』では、レバレッジ設計とのれん資産による虚構の利益構造を詳述する。
発行日:2025年7月3日号
武智倫太郎(日刊バブルウォッチ編集長)
