見出し画像

150兆円のAIロボに託された狂気:孫正義が開く世界恐慌の預言書

世界恐慌の引き金となり得る孫正義最後の1兆ドル博打を検証

はじまりの値動き:『幻の上昇』が世界恐慌の鐘を鳴らすか?

 2025年3月20日、ソフトバンクグループ(SBG)は、アンペア(Ampere Computing)買収を約1兆円弱で発表した。この時点でさえ『資金調達は大丈夫か?』と疑念の目が向けられていた。案の定、米国市場のADR(米国預託証券)では、プロ投資家が冷静に反応し、SBGは下落。一方、日本の春分の日による祝日を利用して、報道発表は日本市場が閉じている時間帯に合わせるという『姑息な演出』がなされていた。

 そして開けた翌日の3月21日(金)。本来ならば、ADR下落に追随してSBG株が売られるべきところだ。だが、現実に起きたのはその逆だった。SBG株は朝から不自然なまでに買われ、日経電子版や大手メディアには『AI覇者・孫正義、再び』などという礼賛記事が並び、日本の個人投資家の一部がまんまと『空気』に飲み込まれていった。

 この『幻の上昇』の直後、金曜夜(日本時間の土曜早朝)に例の1兆ドル(約150兆円)投資計画が米国メディアで報じられた。しかも、日本の株式市場が週末で閉じているタイミングである。わずか1兆円にも満たない買収資金の信頼性さえ揺らぐなかで、その150倍にあたる金額を『ぶち上げる』という芸当が披露されたのだ。

SoftBank Group Corp. ADR

 当然ながら、米国のADR市場は再び冷静だった。この巨大過ぎる空手形に嫌気し、SBGは再び下落している。

 つまり、日本時間で2025年3月31日(月)の新年度入り直前のこの日本市場の寄り付きが、『孫正義ラストバブル崩壊』の起点となるか否か、マーケットは細心の注意を要する。なぜなら、SBGの株価がもしも大幅に下落し、時価総額が毀損すれば、メインバンクのみずほ銀行への信用リスクが波及し、日本経済全体のバランスシートが動揺しかねないからだ。

Mizuho Financial Group Inc. ADR

 そしてそれは、日本発の信用不安を契機に、世界恐慌という次なる連鎖の導火線となる可能性すら否定できない。

 1兆円でさえ『おぼつかない』のに、150兆円を語るこの構図は、正気の沙汰とは言い難い。問題は、これを『喝采』で迎える空気が日本の金融メディアに蔓延していることだ。

 2025年3月31日、午前9時。日本市場が開くその瞬間、孫正義の最後の博打は『笑って済ませない領域』へと突入する。

日本経済を完全破綻させ、世界恐慌の引き金になり得るソフトバンクの無謀なAIロボ投資計画

 孫正義率いる同社は、AIとロボット分野で前例のない巨額投資計画を打ち出した。だが、その実現可能性とリスクに疑問の声も上がっている。

150兆円のAIロボット投資構想とは何か?

 ソフトバンクグループ(SBG)は約150兆円(1兆ドル)規模の投資を掲げ、米国各地に人工知能(AI)を活用した工場群を建設する計画を検討している。日経新聞の報道によれば、全米の産業団地に自律型ロボットを備えた工場を集積し、米製造業が直面する人手不足の解消策とする構想だ。この計画は、トランプ米政権とも連携して進められており、ソフトバンクの孫正義CEOが近く訪米して協議するとも伝えられている。

 注目すべきは、その投資規模の桁外れな大きさである。1兆ドルは、すでに巨大過ぎて実現可能性が疑問視されている。2025年1月に米国で最大5000億ドル(約75兆円)規模のAIインフラ投資プロジェクト『スターゲート計画』への参画が発表されたばかりだが、今回の構想はそれをさらに倍に回る超大型計画となっている。わずか数ヶ月で規模を倍増させた格好であり、市場には驚きが広がっている。

 このような根拠のない規模拡大は、私が繰り返し指摘している『孫正義の博打的手法』をまさに裏付けるものであり、SBGが破綻するという予測が益々現実味を帯びてきたとも言える。

投資額150兆円の妥当性:他の投資と比較して

 150兆円は常識外れな規模であり、他社のAI関連投資と比べても突出している。たとえば、ソフトバンクが2017年に組成したVision Fund(ビジョン・ファンド)は約10兆円(1000億ドル)規模で『世界最大のテック投資ファンド』と呼ばれたが、今回の計画はその10倍に相当する。

 米マイクロソフトやグーグルなど、AIに巨額投資を行っている企業でも、一企業として年に数十億~数百億ドル規模が限界であり、1兆ドルというのは国家レベルの投資額だ。実際、米政府が半導体産業振興のために制定したCHIPS法ですら約520億ドル(約7兆円)規模に過ぎず、150兆円はそれと比較しても桁違いである。

 ソフトバンク自身が過去に打ち出した米国向け投資計画1000億ドル(約13兆円)や、前述のスターゲート計画(5000億ドル=約75兆円)と比べても、150兆円はさらに2倍という異常な大きさだ。他の視点からも、この規模の異常さは浮き彫りになる。

 ソフトバンクグループ全体の総資産は約46.7兆円(2023年)に過ぎず、仮に150兆円を全額投じるとすれば、それは自社総資産の3倍以上にも達する。常識的には、企業がそれほどの額を単独で投資することは不可能であり、他の投資家や融資元を巻き込む必要がある。

 しかし、それほどの巨額資金を集めること自体が前代未聞であり、この計画の実現性には早くも疑問符が付けられている。

過去の大型投資:輝かしい成功と惨憺たる失敗

 孫正義率いるソフトバンクグループ<9984> は、これまでも数々の大型投資を行い、成功と失敗の両極を経験してきた。その振れ幅の大きさを知ることは、今回の投資構想のリスクを考える上で参考になるだろう。以下に主な例を挙げる。

アリババ(Alibaba)への投資:2000年頃に孫正義がわずか2,000万ドル程度で出資した中国の電子商取引企業アリババは、その後爆発的に成長してソフトバンクに莫大なリターンをもたらした。孫正義自身、この投資によって得た利益で一時は世界長者番付トップ10入りするほどの成功を収めている。アリババ株は長らくソフトバンクの資産の中核だったが、近年同社は財務改善のためアリババ株を売却し持ち分を大幅に減らした。これは裏を返せば、ソフトバンクが頼みとしていた『勝ち組』資産を現金化せざるを得ない状況に追い込まれていたことを示唆している。

Arm(アーム)買収:2016年に孫正義が強行した英国の半導体設計企業Armの買収(約3.3兆円)は、当初『高すぎる買い物』と懐疑的に見られたものの、AIブームに伴う半導体需要増を受けて先見の明があったとも評価されつつある。Armは2023年に一部株式をNASDAQ上場し、上場時の時価総額は約8兆円超となった。現在Arm株はさらに値上がりし、報道によれば時価総額約1400億ドル(約18兆円)に達している。

 ソフトバンクは依然Arm株の大半を保有しており、評価益が出ている数少ない大型投資と言える。ただし、この成功も現時点では含み益に過ぎず、実際に利益を確定するには株式売却など出口戦略が必要だ。

WeWorkへの巨額投資:ソフトバンクが過去数年で最も悪名を馳せた失敗が、シェアオフィス企業WeWorkへの投資だ。同社に累計160億ドル近く(約1.7兆円)を投じたものの、創業者の暴走とビジネスモデルの迷走で企業価値は暴落。結局2023年にWeWorkは破産法適用を申請し、ソフトバンクの累計損失額は約144億ドル(2兆円超)にのぼった。孫正義が2019年にWeWorkの将来を『終わりなき利益成長』とまで謳って追加出資した皮肉は大きく裏切られる形となり、この失敗は孫正義の投資判断に対する世間の不信を決定的にした。

スプリント(Sprint)とT-Mobile:2013年に米携帯スプリントを買収(約2兆円)したものの業績不振が続き、最終的にT-Mobileとの合併に活路を見出した。この合併によりソフトバンクはT-Mobile株の一部を得て、その価値上昇に救われる形となった。ソフトバンクは2020年前後にT-Mobile株を売却し、約2兆円規模の資金を回収している。結果的にはスプリント単体では失敗だった投資も、T-Mobileの成功によって部分的に報われたケースと言える。

その他ユニコーン投資:孫正義主導のVision FundはUber、DiDi(中国の配車)、OYO(インドのホテル)など多数の未上場企業にも巨額投資を行った。これらの中にはクーパン(韓国のEC)のように上場後評価益をもたらした例もあるが、DiDiのように中国規制で打撃を受けたもの、OYOのように評価額が低迷したものも多い。

 このように投資成績は玉石混交で、ソフトバンク全体としてみると成功と大失敗が相殺し合う状況であり、まさに博打的な投機である。

 こうした過去を見ると、孫正義の投資手法は『当たればデカいが、外せば致命傷』というハイリスク・ハイリターンのギャンブル性が強いことが分かる。WeWorkの損失はソフトバンクにとって痛手だったが、同時にAlibabaやArmの含み益が救いとなるなど、綱渡りのような状況が続いている。

 今回の1兆ドル投資構想も、成功すればソフトバンクがAI産業の主導権を握る大躍進となる一方、失敗すれば過去最大級の損失を招きかねない諸刃の剣と言える。しかも、この破綻は、メインバンクのみずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ<8411>)の破綻連鎖も起こしかねない規模であり、孫正義の博打的投機が日本経済の完全な破綻と、世界恐慌の引き金になるには十分な金額が、この1兆ドルなのである。

現在の財務状況:巨額投資に耐えうるか

 ソフトバンクGの財務体質を冷静に見ると、150兆円もの新規投資計画がいかにリスキーかが浮かび上がる。同社はここ数年、ビジョン・ファンド事業の減損や投資先企業の低迷により巨額の赤字を計上する四半期が相次いだ。例えば2022年度にはビジョン・ファンド事業で年間3.2兆円(約320億ドル)の過去最大の損失を出し、孫正義自身『反省モード』として表舞台から退き、翌年の決算説明会では登壇を見送る事態となったことも記憶に新しい。2023年度後半からは株式市場の持ち直しで一部投資先の評価が回復し、ソフトバンクは四半期ベースで黒字に転じる局面も出てきた。実際、直近の2024年10~12月期決算では約6080億円の投資利益を計上し、累積ではビジョン・ファンド1号の利益が2号の損失をかろうじて上回りトータルでプラスに転じたところだ。

 しかし、これはあくまで含み益の回復であり、本格的な利益体質への転換とは言い難い。ソフトバンクは依然、多額の有利子負債と潜在的なリスク資産を抱えている。特に注目すべきはソフトバンクの負債と手元資金のバランスだ。統計によれば、ソフトバンクグループの総負債は2023年時点で約33.5兆円にも上る。

 同社は資産売却などでネットデット(純有利子負債)を削減し、ローン・トゥ・バリュー(LTV、保有資産に対する負債比率)を20%以下に抑えていると説明している。だが、裏を返せばこれは保有資産を売り払って借金返済に充てている状況でもある。実際、ソフトバンクは財務健全化のためにアリババ株の大半を売却し、さらに虎の子のArm株もIPOで一部放出して現金を得た。

 つまり、現在のソフトバンクの財務改善は、自社の将来資産を切り崩した結果でもあるのだ。そうした中で、新たに桁違いの巨額投資に打って出る余力が本当にあるのかが問われる。ソフトバンク自身に150兆円を拠出する体力が無いのは明白であり、ビジョン・ファンドのように外部から資金をかき集める必要があるだろう。

 しかしここでも課題がある。初代ビジョン・ファンドはサウジアラビアやアブダビの政府系ファンドからの出資を取り付けて1000億ドル規模となったものの、続くビジョン・ファンド2号ではWeWork問題などで信頼を失い、外部投資家が集まらずソフトバンク自身が大半を拠出する形となった。結果、2号ファンドは大きな損失を抱え、外部資金の調達力低下が浮き彫りになった経緯がある。今回の1兆ドル投資構想においても、『資金の確保』が最大のハードルになるのは間違いない。

 仮に複数年かけて投資するとしても、年間数十兆円規模の資金をどう捻出するのか。社債や融資で賄おうにも、SBGの社債はジャンク級(S&P格付けはBB+)に留まっており、調達コストは高い。

 エクイティ(株式)による増資は、既存株主の希薄化を招くため株価の下落要因になりかねない。何より、これほどの巨額を外部から調達する前例がなく、市場の消化力を超えているとの見方も出ている。

孫正義のビジョンと整合性:大胆過ぎる『有言実行』?

 孫正義は以前から『情報革命』『シンギュラリティ(技術的特異点)』といった壮大な未来像を掲げ、それに沿った大胆な投資をしてきた人物だ。彼は『自分はASI(人工汎用知能)を実現するために生まれてきた』とまで語り、2040年代半ばに人類の知能を超えるAIが登場するという信念のもとで事業構想を練っている。

 その意味で、AIとロボットに社運を賭ける今回の投資計画は、孫正義の掲げる長期ビジョンと方向性自体は一致していると言える。実際、孫正義は今から約10年前の2010年代前半から一貫して『これからはAIの時代だ』と説いてきた。2016年には『今後30年間で人類より賢いロボットが人口を上回る』と予言し、自らを『大ぼら吹きかもしれないが、常に本気で未来を信じている』と語っていたほどだ。

 Pepperなど人型ロボット事業に執着したのもその一環だったが、結果としてPepperは失敗に終わり、2020年には生産停止・事業縮小に追い込まれた。当時描いたロボット覇者の夢は一度挫折した形だが、ここへきて再びAIロボット分野に総賭けしようとしている点に、孫正義の並々ならぬ執念がうかがえる。

 孫正義の過去の言動との整合性という点では、『有言実行』の面と『朝令暮改』の面の両方が見て取れる。一方で彼は2016年、トランプ前大統領(当時は次期大統領)と会見した際に『今後数年で米国に1000億ドル投資し、10万人の雇用を創出する』と公約し、その後ビジョン・ファンドを通じて実際に米国スタートアップ企業に巨額を投じた。今回も2025年のトランプ再登板に合わせ、前述のスターゲート計画への参画やさらに倍増した投資構想を打ち出しており、大統領の前でぶち上げた約束を守ろうとはしているようだ。

 孫正義自身『トランプはダブルダウン(倍賭け)する人だから、私も倍賭けしなければならない』と述べたことがあり、まさに今回の1兆ドル構想は『倍賭け』の体現とも言える。しかし他方で、孫正義は失敗からの学びを活かすよりも更に大きなリスクを取る傾向も指摘される。WeWorkの失敗直後には『猛省して慎重になる』と姿を消したものの、AIブームが再燃すると見るや否や再び最大級の賭けに出ている。

 ロイターのコラムは『孫正義はこれまでNVIDIA株を早く売り過ぎたり、OpenAI参入が遅れたりとAI分野で機会を逃した分、今になって過剰補正しようとしている』と分析している。

 確かに、ソフトバンクは2017年にNVIDIA株を大量取得しながら2019年に売却しており、皮肉にもその後NVIDIAの株価は急騰してAIブームの最大の勝者となった。さらにOpenAIにも当初出資していなかったため、昨年末になってからOpenAIに500億円出資(評価額約15兆円)という動きを見せている。こうした背景もあり、孫正義が『AIで出遅れた』と感じて焦燥感から極端な投資に走っている可能性は否定できない。

 要するに、今回の150兆円構想は孫正義の長年のAIビジョンの延長線上にはあるものの、そのスケール拡大のスピードとタイミングには疑問が残る。過去の発言からすれば『ようやく時代が彼のビジョンに追いついた』とも言えるが、逆に言えば『ここで成果を出さねば自身の夢が潰える』という背水の陣に見えるとも言えるだろう。

市場・専門家の反応:広がる懐疑と懸念

 市場や業界専門家たちの多くは、この突然飛び出した『1兆ドル宣言』に対して懐疑的だ。投資家の視線はシビアであり、『またソフトバンクが風呂敷を広げた』という冷めた受け止めも少なくない。象徴的だったのは、テスラCEOでありトランプとも親交が深いイーロン・マスクの反応だ。彼はトランプ政権がスターゲート計画(最大5000億ドル投資)を発表した直後、X(旧Twitter)上で『実のところ彼ら(参画企業)に資金はない』と辛辣に指摘。『ソフトバンクは100億ドルすら確保できていない。確かな筋からの情報だ』と暴露したのだ。

 この『彼らには資金がない』『SoftBank has well under $10B secured』とのマスクの投稿は瞬く間に拡散し、ソフトバンクの資金調達力に対する市場の不安を増幅させた。スターゲート計画ではソフトバンクやOpenAI、Oracleなど3社がまず合計1000億ドルを出資し、将来的に5000億ドルまで投資拡大するとされたが、マスクはその初期資金すら満足に集まっていないと暴露した形である。マスクだけでなく、AI業界の有力者からも懸念が出ている。

 ChatGPTの対抗馬となるAI企業Anthropic(アンソロピック)のダリオ・アモデイCEOも『スターゲートは資金調達が不透明で混沌としている。実際にどれだけ資金が投入され、そのうち確約されたものがいくらか不明だ。政府の関与も不明瞭だ』とコメントし、計画の実効性に疑問を呈した。

 彼ら業界人の目には、ソフトバンクの打ち上げ花火的な巨額計画は現実味に欠けるように映っていると言えよう。金融市場の反応も冷静だ。日経報道が出た翌日の東京市場で、ソフトバンクグループ株は小幅安となった(※3月29日現在、前日比-1.3%)。通常、前向きな大投資計画で成長期待を煽れば株価が上がっても良さそうなものだが、実際には投資家は『夢物語よりまず足元の財務改善を』と見ている可能性がある。実際、近年のソフトバンクは株主からガバナンス改善や慎重な投資を求める声が高まっていた。

 大株主である米ヘッジファンドから『ビジョン・ファンドの拙い投資判断を反省し株主価値向上を図れ』との批判も寄せられていたとの報道もある。そうした状況下で再び超大型投資に突き進めば、株主との軋轢を生むリスクもある。さらに、仮にこの計画が具体化するとしても政治的リスクも指摘される。全米に工場群を建設するといっても、用地確保や地域コミュニティの合意、環境規制などハードルは多い。加えてトランプ政権との蜜月に依存した計画であれば、将来政権交代などが起きた際に後押しが得られなくなる恐れもある。

 実際、孫正義は2016年にもトランプへのリップサービスとして米投資を約束した過去があり、トランプ不在の間は大々的な進捗は見られなかった。今回も政治タイミングありきの計画だとすれば、持続性に疑問符が付く。総じて、専門家や投資家の間では『孫正義の口先には要注意』との声が根強い。もちろん孫正義は過去にアリババなど大成功も収めているため完全な虚勢とは断言できないが、少なくとも1兆ドルという数字は現実の裏付けを欠いているとの見方が大勢を占めている。市場はまず、ソフトバンクがこの計画の具体的な資金手当て策や段階的な実行プランを示すことを求めていると言えるだろう。

まとめ:夢物語とリスクが交錯する『150兆円』の行方

 ソフトバンクグループが打ち出したAIロボット分野への150兆円投資計画は、そのスケールの途方もなさゆえに世界の注目を集めている。一企業による投資額としては前代未聞であり、孫正義の長年のAIビジョンが遂に具体化したとも言える。しかし同時に、それは無謀とも言える賭けであり、過去の大型投資失敗や現在の財務状況を踏まえれば極めてリスキーな挑戦であることも明白だ。孫正義お得意の『大風呂敷』なのか、それとも本当に資金を集めて実行に移すのか――。現時点では市場も専門家も懐疑的な見方を崩していない。

 孫正義自身『成功すれば英傑、失敗すれば大ぼら吹き』といった評価を背負う覚悟でこの計画を語っているのかも知れない。投資に関心のある読者としては、夢物語に終わるのか、それとも本当に歴史的プロジェクトが動き出すのか、冷静に見極める必要があるだろう。そのためにも、本稿で検証したような投資規模の妥当性、孫正義の投資履歴、SBGの財務の実情、そして周囲の反応といった観点を念頭に置きつつ、この巨額計画の行方を注視したい。

本当にSBGは世界恐慌の引き金になり得るのか?

 2025年3月末、ソフトバンクグループ(SBG)による『1兆ドル(約150兆円)』という突拍子もないAIロボ投資構想が報じられ、筆者はその危険性を『世界恐慌の引き金となる孫正義最後の1兆ドル博打を検証』で警鐘を鳴らした。

 では、果たしてSBGは本当に世界恐慌の引き金になり得るのか? この追補では、その問いに対して一歩踏み込んで考察してみたい。

恐慌の『トリガー』とは何か?

歴史は繰り返す。だが、形は少しずつ変わる。
 1929年の世界恐慌は、ウォール街の株価暴落から始まった。2008年のリーマン・ショックは、金融派生商品とサブプライムローンが招いた信用崩壊だった。どちらも、たった一つの事件が引き金になったわけではなく、脆弱な構造の中に埋め込まれたリスクが連鎖し、『市場の信認』が一気に崩れた瞬間が、いわば点火装置だった。

 SBGがその役割を果たす可能性はゼロではないが、いくつかの条件が揃ったときに限る。

SBGが『トリガー』になる条件とは?

① 信認崩壊が表面化する
 SBGはすでに、ジャンク級の社債で知られるハイリスク企業であり、機関投資家は十分に注意している。だが、一般投資家や日本国内の金融システムが『孫正義=希望』と無批判に受け入れている状況では、裏切られた時のショックは倍返しになる。150兆円の空手形は、そのショックを呼び寄せるには十分すぎる規模だ。

② みずほ銀行への信用波及
 もしSBGが突然資金繰りに詰まり、デフォルト懸念が出れば、最大の貸出先であるみずほ銀行が連鎖的に揺らぐ。これは単なる企業危機では済まず、日本の金融インフラの根幹に火がつく可能性を意味する。

③ 政府・日銀の対応が後手に回る
 SBGが民間企業である以上、政府や日銀が『市場原理に任せる』と対応を誤れば、『民間破綻→銀行危機→国家信用不安』という連鎖が始まる。2024年度末という節目の時期、年度決算や日銀政策の切り替えが重なるタイミングでの混乱は、最悪のタイミングでもある。

なぜ『高確率で引き金』とは言い切れないのか?

 この問いに対しては冷静なバランス感覚も必要だ。

SBGはリーマンほどの金融中枢ではない
 リーマン・ブラザーズは米国発のデリバティブの中心にいた。SBGはあくまでベンチャー投資集団であり、その点で金融伝染力は限定的と見る向きもある。

市場はすでに『孫リスク』をある程度織り込んでいる
 SBGの社債が投資不適格級であること、株式もボラティリティが高いことは周知の事実。機関投資家は『急落しても驚かない』準備をしているため、クラッシュの初速は鈍化する可能性もある。

それでも『火種』ではある
 このように、『SBGが単体で世界恐慌を引き起こす』わけではない。だが、『SBGがトリガーとなって、脆弱な構造を崩壊させる可能性』は、十分に存在する。

 とりわけ、以下の三点が重なったとき、その火は一気に世界市場へと燃え広がるだろう。

・日本の金融機関がSBGに過剰に依存していた場合
・政府・日銀の対応が混乱した場合
・海外から『日本発の金融危機』と見なされた場合

最後に:孫正義は『崖の上で踊る男』か?

 孫正義という経営者は、常に時代の先を見て動いてきた。その直感力が巨大なリターンを生んだ時期も、確かに存在した。しかし今、彼が手にしているのは地図も計器もない1兆ドル計画であり、資金という燃料も、投資家というパッセンジャーも、乗組員としての信用も揃っていない飛行船だ。

 それでも、孫正義は『飛ぶ』と言う。その姿は、爆発寸前のヒンデンブルク号のようにも映るし、崖の上で踊るカジノ帰りの男のようにも見える。

 この『150兆円の大風呂敷』は、破れぬうちにどう着地させるのか。いや、着地できるのか──。2025年3月31日、日本市場が開くその瞬間、世界はその結末の予告編を目撃することになる。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品等への投資を勧誘または推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、読者ご自身の責任で行ってください。

武智倫太郎

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集