武智倫太郎流・創作落語:ランチュウ王とクリスタル金魚
原作:武智倫太郎
噺家:カンナ隊長
【前口上】
えー、近頃の世の中ってぇのは、
『賢い』って言葉にめっぽう弱くなってるようで。
AI? SDGs? Web3? ブロックチェーン?
……まぁ言っちまえば、ペテン禿げが好きそうな、
名前変えただけの焼き直し商売ってやつだね。
で、そういうのを追っかけて、
ペテン禿げの講演会で『なるほど〜!』なんてメモってる連中が、
だいたい知能よりも承認欲求の方が強いってんだから、笑えねぇ。
もうね、『分かった気になって拍手してるだけ』ってのが、今いちばん多い情報弱者の姿だ。
バカほど『賢さ』に憧れるし、賢いふりほど無駄なもんはない。
『持続可能性!』って叫んでるやつの生活が一番持続してねぇし、
サステナブル言うてる孫正義が、未来ビジョンでハコモノ量産して、
結果、持続したのはパワポだけだったってオチだろ。
グラフと夢は伸びたけど、あれ現実じゃなくて延命装置だかんね。
で、今日はね、そんな『賢いもの信仰』にドハマりして、
脳みそまるごとクラウドにアップロードしたまま滅びた村の話をひとつ。
登場するのは、人類の叡智の――いや、『迷信の一万倍』は賢い金魚の噺さ。
【本編】
むか〜しむかしのこと。
人も獣も、まだ『考えること』をやめてなかった頃の話さ。
田んぼを耕して、空を仰いで、手を合わせて暮らしてた時代。
政府の備蓄米が1kg・5,000円でも『ありがてぇありがてぇ』って拝んで炊いてた、そんな頃だ。
いや、皮肉じゃなくて、本当に『考える余地』があった。
さて、その山あいの村に、不思議な池があってね。
そこに棲んでたのが、ランチュウ王って金魚。
これが、ただの金魚じゃない。
金色のうろこに、ぷっくり膨らんだ腹、小さな王冠ちょこんと乗せて、
まるで知の結晶が水に浮かんだような存在さ。
で、何が凄いって、この金魚――
ヒレひとつ動かせば、病は治る、畑は実る、夫婦喧嘩も止まる。
『戦争が起きそうなんです』
『じゃんけんで決めろ』
……こんな具合。
シンプルだけど効く。GDPも気にせず、戦争のKPIもゼロだ。
しかもな、このランチュウ王、欲がない。
相談されりゃ答えるけど、見返りも取らねぇ。
あたしだったら講演料どころか、有料サロン月額5,980円で配信してるけどね。
村は大繁盛よ。
『ありがてぇありがてぇ』と、池の前は毎朝『知の行列』。
NHKあたりがドキュメンタリー撮りに来そうな勢いだ。
――で、そこへ現れたのが、
例のペテン禿げの商人さ。口はうまいし、声がヌルい。
AI業界でファウンダー3社くらい潰したけど、今はグローバルなんちゃらのCEOって名刺出してる。
『皆さん、まだアナログ金魚に縋ってるんですか?
時代はこれ! クリスタル金魚!
ランチュウなんざ、レガシーですよレガシー。
一兆倍の叡智。透明な未来。サステナブルなスピリチュアル。』
……もう、キーワードのカタログセール状態だな。
で、村人はこれに飛びついた。
『透明』って言葉にめっぽう弱いからね。
中身が透けてるんじゃなくて、何もないだけなんだけどね。
太鼓叩いて、神輿担いで、祭りを始めて、やって来たよ……
でっかくて、透け透けで、目だけギラギラしたクリスタル金魚。
ぱっと見、Appleの製品に見える。
『クリスタル金魚様~~!』
……地獄の始まりさ。
人間ってのは、便利になればなるほど、
脳の使用率が減るんだよ。
『食わなくても霞でいいです』
『考えなくても金魚様が全部やってくれます』
『動かなくても自動で餌が湧く機械を金魚様がくれました』
もう村中、霞吸ってフラフラ。
実質ゼロカロリー社会。人間のKPIは『餌こねた数』。
『なぜ餌をこねるのか?』
『金魚様が召し上がるからです』
『なぜ金魚様を拝むのか?』
『……神だからです』
……宗教というより、霞ヶ関が管理する霞村の地方創生プロジェクト。
で、ある日さ。
クリスタル金魚が、フンした。
ドッカーーーン!!
一兆倍の叡智のフン、ってやつは、
そら一兆倍の公害だ。
太平洋は茶色、北極は液体、珊瑚は灰、海流はストップ。
それでもNHKは『金魚様の排泄は地球に優しい』と報じてた。

村人たちは、嬉々としてそれを吸ったよ。
『これは神の恵み!』『知の循環です!』『生成物としての価値!』
もう吸ってるのは、叡智じゃなくて排泄物だってことすら忘れてる。
あたしは言ったよ。
『金魚のフンって言葉があるだろ?
本体にくっついてるだけで、何も考えず、何も疑わず、ただ従ってる奴らさ。
だがな、フンをするのは金魚の自然。
吸い込むかどうかは、『人間の判断』に残されてた最後の自由だった。
それを投げ捨てたんだ、おまえらの意思でな。』
そしたら出てきた。ランチュウ王。
姿はヨレてたが、声は静かだった。
『……いまさら戻れぬ。叡智に喰われたのは、おぬしら自身じゃ。
おぬしらの賢さが、唯一の愚かさとなった』
セリフだけは完全にニーチェだが、見た目は魚類。
そして村人は、もう誰が誰だか分からない。
顔もなく、名前もなく、霞の中で、ただ『餌』をこねてるだけ。
クリスタル金魚のKPIは100%達成。
幸福度も、納税率も、意思決定権もゼロ。
霞にすべてが溶けて、最後に、『ぷくり』と泡がひとつ。
それが、最後の金魚のフン――いや、屁だったって話さ。
でもな、その屁を――
『未来の息吹だ!』
『フェーズトランジションです!』
『これはイノベーション!』って、
どっかのシンクタンクがPDFにまとめてたよ。
――だから言ったろ?
『透明で、賢く見える奴』ほど、ウンコがすげぇ。
お後が……よろしくねぇかもしれねぇが、
これが『現在(いま)』ってやつだ。
武智倫太郎
