Arm株の過剰評価とソフトバンクグループの債務超過リスク
武智倫太郎(週刊バブルウォッチ編集長)
企業ステージと業態に応じた株価算定方法
株価は企業が将来生み出す価値を先取りした価格であり、その算定には複数の手法がある。主な指標と適用場面は次の通りである。
PER(株価収益率):純利益に対する株価倍率。急成長テック企業では期待値が大きく、高水準となることも少なくない。
P/S(株価売上高倍率):売上高に対する株価倍率。まだ利益が安定しない創業期企業やAIスタートアップで用いられる。
EV/EBITDA(企業価値倍率):企業価値(EV)をEBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)で割った指標。特に負債が多い成熟企業やインフラ企業での評価に向いている。
DCF(割引キャッシュフロー法):将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて理論価値を算出する手法。キャッシュフローが比較的読みやすい安定企業に向く。
株価は『人気投票』だが最終的には論理値へ収束する
株価は短期的にはニュースや市場心理に大きく左右され、『人気投票』のような性質を持つ。しかし、長期的には企業の実力、即ちファンダメンタルズに基づいた合理的な価格(論理値)へ回帰する。たとえば、AIブームによって過剰な期待が織り込まれた銘柄や、一時的な不安で過度に売り込まれた銘柄は、最終的に企業価値に見合った水準へ落ち着く傾向がある。
Arm Holdings(ARM)の過剰評価
ARMの株価はAIブームに支えられた人気先行価格であり、企業価値の実態(論理値)とは大きく乖離している。特に、2024年中盤時点のデータでは、ARMの予想PERは100~150倍、P/Sは38倍、EV/EBITDAは80倍と、いずれも業界平均を大幅に上回る。
ロイターによれば、この評価を正当化するには売上を1年で倍増させ営業利益率45%を維持する必要があるが、スマートフォン市場の伸び悩みを踏まえると達成は容易でない。
ソフトバンクグループ(SBG)の財務とARM依存リスク
SBGはARMの約90%を保有しており、ARMの株価下落がSBGの純資産価値(NAV)に影響を与えるリスクを抱える。SBGはARM株の約75%を担保に135億ドルの融資枠を設定しているが、レバレッジは8~8.4%と低く、手元流動性は約4.7兆円(約30億ドル)あるため、リスクは相対的に低い。しかし、ARM依存度が高いため、ARMの株価下落リスクは依然として注意すべきである。
SBGの破綻リスクとOpenAIへの投資
SBGによる総額約100億ドルのOpenAI出資は、OpenAIの上場プランが消滅したことにより、事実上『議決権ゼロ・配当ゼロ』のまま塩漬けとなる可能性が極めて高い。現行の非営利統治体制では、キャピタルゲインも換金性も望めず、この投資からのリターンは事実上失われたと見るべきだ。
しかし、SBGの連結収益構造は多角化しており、OpenAI単体の損失が即座にSBG全体を揺るがすわけではない。具体的には、以下の三つの主要収益源がある。
Arm株:AIブームで高評価を受けたが、過剰評価による調整リスクが高い。
通信・金融子会社:ソフトバンク株式会社(SBKK)、ペイペイ(PayPay)など、安定的なキャッシュフローを提供する事業。
Vision Fundポートフォリオ:ハイリスク・ハイリターンの投資先が多数含まれているが、評価損の影響を受けやすい。
ただし、Arm株の価格調整とVision Fund銘柄の同時不振が重なる『デュアル・ショック』が発生した場合、SBGの財務健全性は急速に悪化するリスクがある。このシナリオでは、以下の要素に注視する必要がある。
Arm持分の時価推移:高評価の維持は不透明で、急落すればSBGのNAV(純資産価値)も大幅に縮小する。
Vision Fundの評価損益:スタートアップ投資の損失が続けば、ポートフォリオ全体の評価が下落し、SBGの純資産にも悪影響を及ぼす。
社債・融資のヘッジ構造:LTV(ローン・トゥ・バリュー)比率が上昇し、社債のリファイナンス余力が低下する可能性が高い。
これらのリスクは、投資家がSBGの資産ミックスの質と流動性を常に監視し、ストレスシナリオにおける資本クッションの厚みを検証する必要があることを示している。
孫正義が掲げる『AIは人類の叡智の一万倍』という夢が崩れた瞬間、SBGの財務健全性を左右するのは、最終的に『資産の質と換金性』である。
結論
ARM株はAIブームの象徴として異例の高評価を享受しているが、業績が期待に届かなければ大幅な調整は不可避である。SBGは低レバレッジと高い流動性でリスクを軽減しているが、ARM依存度が高いため、ARMの株価下落リスクは依然として注意すべきである。投資家は割高感とレバレッジ動向を冷静に見極める必要がある。
主要引用文献
ARM Holdings Forward PE Ratio:57.40 (As of May. 09, 2025)
https://www.gurufocus.com/term/forward-pe-ratio/ARM
ARM (ARM Holdings) PS Ratio : 30.92 (As of May. 09, 2025)
https://www.gurufocus.com/term/ps-ratio/ARM
Arm Holdings plc (ARM):NasdaqGS - Nasdaq Real Time Price
https://finance.yahoo.com/quote/ARM/key-statistics/
Arm IPO: Dominant But Very Expensive
https://www.morningstar.co.uk/uk/news/239207/arm-ipo-dominant-but-very-expensive.aspx
Softbank Group shares target raised on buyback and NAV discount
https://www.investing.com/news/company-news/softbank-group-shares-target-raised-on-buyback-and-nav-discount-93CH-3474428
SoftBank Is Trading Cheap, And That Could Be An Opportunity
https://finimize.com/content/softbank-is-trading-cheap-and-that-could-be-an-opportunity
武智倫太郎

