モザンビークから考える世界情勢:国際金融都市TOKYO?
みなさんは、モザンビークがどこにあるかご存じでしょうか? そもそも、モザンビークが国名だということ自体ご存じでしたか? 私は専門地域である中東諸国以外にも、ブルネイ、アルジェリア、モザンビークなどでエネルギーやアグロフォレストリー事業を展開しています。そのため、日本のメガバンクにブルネイやモザンビークへの送金を依頼すると『それはどの国にありますか』と、何度も聞かれることがあります。
そのたびに『モザンビークもブルネイも国名です。モザンビークの首都はマプト、ブルネイの首都はバンダルスリブガワン(BSB)です』と説明しますが、ほとんどの場合、銀行の海外送金窓口から『本店に確認します』と言われ、長時間待たされるのが常です。
外為業務を担当しているのであれば、SWIFT/BICコードにSOGEMZMAXXXとあればソシエテ・ジェネラル銀行・モザンビーク・マプト支店を示していることを理解してほしいものです。しかし、こうした基本的な知識が通じないので、海外からは『日本は国際金融都市ではない』と言われてしまいます。
実際、国際的にはアジアの国際金融都市といえば香港やシンガポールであり、東京は金融都市とはみなされていません。下記の論説記事でも、その問題点が指摘されています。
日本のメガバンクの呪縛からは何度も『その国はイランやキューバ、北朝鮮と関係ありませんか?』と問いただされますが、そのたびに説明するのは大変です。私は『それを調べるのは、あなた方の仕事ではありませんか? それ以前に、日本はイランから石油を輸入しているので、日本とイランには強力な関係があるのを、ご存じないですか?』と逆に質問しなければならなくなってしまいます。
日本では海外送金の専門家であっても、この程度の知識しか持ち合わせていないのが現状です。そのため、一般読者に対してどこから説明を始めればよいのか、なかなか判断が難しいところです。そこで今回は、モザンビークの前に、まずアフリカがどこにあるのかから解説してみたいと思います。
ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、トルコ、シリアなどが面している小さな海が地中海です。その南側に位置するのがアフリカ大陸であり、欧州諸国からアフリカへのアクセスは比較的容易です。スペインとアフリカのモロッコの間にはジブラルタル海峡がありますが、その最短距離はわずか14kmほどなので、泳いで渡った人もいるほど、地理的には非常に近接しています。
アフリカ大陸の面積は日本の約80倍もあります。その広さを具体的に示す例として、フランスのパリやエジプトのカイロから南アフリカ共和国のヨハネスブルグ、ケープタウン、ダーバンまでの飛行時間は11時間以上です。これは、東京からロサンゼルスまで太平洋を横断する飛行距離とほぼ同じです。
そのアフリカ大陸最南端の南アフリカ共和国と国境を接している東アフリカの国が、モザンビークです。
ロシア・ウクライナ戦争がモザンビークの政情不安に与える影響
ロシアとウクライナの戦争
ロシアとウクライナの戦争を、二国間の紛争か、あるいはアメリカを含めた東西戦争に過ぎないと考えている方も多いでしょう。しかし実際には、ロシアの動向はシリア、アルジェリア、モザンビークといった国々にも非常に大きな影響を与えています。
2024年12月25日、ウクライナ各地でロシア軍によるエネルギー関連施設への大規模攻撃が行われました。東部ハルキウでは、火力発電所や暖房供給施設が被害を受け、市内の大部分で暖房が使えない状態となっています。
一方、ウクライナ軍はロシア西部のクルスク州への越境攻撃を実施し、一時的に約100平方キロメートルを占領したと報じられています。これらの動きにより、戦況はいっそう激化しています。
ロシアのシリア、アルジェリア、モザンビークへの影響
シリア:2024年12月にシリアのアサド政権が崩壊し、アサド大統領はロシアに亡命しました。これにより、ロシアがシリア国内に保有していた軍事拠点の維持が難しくなり、中東における影響力が低下する可能性があります。
アルジェリア:ロシアはアルジェリアと軍事的・経済的関係を維持しており、特にエネルギー分野での協力を進めています。しかし、ウクライナ戦争の影響でロシアの国際的立場が揺らぐ中、アルジェリアとの関係も変化する可能性があります。
モザンビーク:ロシアはモザンビークにおいて、エネルギー資源開発や軍事協力を展開してきましたが、ウクライナ戦争による国際的な制裁や圧力が、これらのプロジェクトに影響を及ぼす可能性があります。
直近のロシアおよびアメリカ情勢
2025年にはドナルド・トランプが再びアメリカ大統領に就任する予定です。トランプの外交政策は、かつてロシアに対して融和的だったこともあり、再任後の米露関係の行方が注目されています。こうした状況から、ロシアの対外政策や影響力は、ウクライナ戦争の進展やシリア政権崩壊などの国際情勢、さらにアメリカ新政権の外交方針によって大きく左右される可能性があります。
モザンビークの現状を理解するために
モザンビークの政情や治安を理解するには、米国、ロシア、欧州、中国など主要国がどのような影響を及ぼしているかを踏まえる必要があります。ここでは、治安悪化や暴動の背景について解説します。
モザンビークにおける主要国の影響
ロシアの影響
ロシアはモザンビークで天然ガスをはじめとするエネルギー資源の開発に積極的に関与してきました。さらに、ロシアの民間軍事会社『ワグネル』が北部カーボ・デルガード州の反政府勢力やイスラム過激派に対する治安支援を行っています。しかし、その活動方法は住民の人権侵害や強硬な戦術を含むとの指摘があり、一部地域では暴力を助長している可能性があります。
中国の影響
中国はモザンビークにおいて、大規模なインフラ開発や資源開発プロジェクトを進めています。しかし、中国主導のプロジェクトでは現地雇用が十分に確保されないうえ、利益が中国企業に偏る傾向があるため、現地住民の反感を買い、暴動や抗議行動を引き起こす一因になっています。
欧州の影響
欧州連合(EU)は主に開発援助や治安維持のための資金援助を提供していますが、その多くが政府の汚職や非効率的な運営に吸収され、地域の安定化に寄与していない面があります。フランスのトタルによる天然ガス事業に対する住民の不満も高まっています。
アメリカの影響
アメリカはモザンビークでのテロ対策を掲げ、軍事訓練や治安支援を行っていますが、その範囲は限定的です。また、エネルギー分野では中国やロシアの影響力を牽制する動きも見られますが、現地住民の不満や反発に対して十分な対処がなされているとは言いがたいのが現状です。
治安悪化の背景と要因
北部カーボ・デルガード州のイスラム過激派の活動
2017年以降、この地域で『アル・シャバブ』(ソマリアの組織とは別グループ)が勢力を拡大しており、天然ガスをはじめとする地域資源から利益を得る一方、地元住民への暴力行為を繰り返しています。
政府の汚職と不満
モザンビーク政府は国際援助や資源開発による収益をエリート層が独占していると批判されており、地方のインフラ整備や治安維持は後回しになっています。こうした不満が暴動や抗議行動を誘発する大きな要因です。
外部勢力の競争
ロシア、中国、欧州、アメリカが資源や地政学的影響力を巡って競争することで、モザンビークの治安や経済に悪影響をもたらしています。特に、ロシアのワグネルや中国のインフラ開発に対する反感が現地での暴力を増幅している可能性があります。
現状と見通し
暴動の影響
現在進行中の暴動は、北部地域でのイスラム過激派の襲撃と地方住民の経済的不満が複合的に作用したものと考えられています。天然ガス開発に国際的な資本が集中する一方、その恩恵が地元住民に還元されていないことが主な原因とされています。
現在モザンビーク北部はサイクロン被害も発生中です。
どの国の影響が治安悪化に寄与しているのか
ロシアのワグネルの過剰介入や、中国のモザンビーク現地プロジェクトの不公平性が大きく取り沙汰される一方、アメリカや欧州の対応が十分ではないことも不安定要因として挙げられます。
まとめ
モザンビークの治安悪化は、国内の構造的な問題だけでなく、ロシア、中国、欧州、アメリカなど外部勢力の利害が複雑に絡み合った結果です。資源開発における不平等や地元住民の不満が暴動や紛争を誘発し、一方的な介入が事態をさらに悪化させる可能性もあります。治安改善のためには、国際社会が現地住民の声をしっかりと聞き、持続可能な開発と公正な利益分配を実現することが不可欠でしょう。
このように、日本から海外を眺めているだけでは見えてこない問題も、モザンビークのように『どこにあるのか分からない』国から世界情勢を考えると、多様な国際問題や課題が立ち現れます。アフリカの位置や歴史、社会背景を理解した上で世界情勢を捉えることは、日本が抱える国際金融都市としての課題を再認識するうえでも、大変有意義なのです。
武智倫太郎
