見出し画像

防衛費9兆円時代の幻想

中華オーディオが教えてくれた、日本が戦争に向かない理由

文・武智倫太郎(構造批評家/格安中華オーディオ愛好家)

防衛費が9兆円を超えたと聞いて、『これで少しは安心だ』と感じた人も多いだろう。

日本では最近『中国の軍事費は36兆円だ』『日本も8兆円、いや9兆円を超えた』と、防衛費の数字だけが盛んに飛び交っている。

背景は分かりやすい。
高市早苗政権の誕生である。

中国との対立が強調され、防衛予算は12年連続で過去最大。
9兆円、10兆円という額面は、確かに迫力がある。

だが、この議論を眺めていると、どうにも拭えない違和感が残る。

それは、数字そのものが『安心材料』として消費されているという点だ。

いくら増えたか。
相手より多いか少ないか。

いつの間にか、『何に使われ、何が残るのか』という最も重要な問いが、議論の外に追いやられている。

この構図には、はっきりとした既視感がある。

かつて、『2兆、3兆は誤差だ』『未来への投資だ』と語られ、巨額投資が正当化されていった、あのどんぶり勘定の論理である。

防衛費をめぐる現在の議論は、この思考停止した安心装置と、驚くほどよく似ている。

日本は『軍事費が少ない国』ではない

ここで、最初に整理しておくべきことがある。

日本は、単純に『軍事費が少ないから不利』なのではない。

中身が高すぎる国なのだ。

多くの人は、防衛費が増えると『どうせアメリカから高い武器を買わされるだけだ』と感じているだろう。

その認識は半分正しい。
武器取得費が高いのは事実だ。

だが、問題はそれだけではない。

円安という見えない削減

2021年初頭、1ドルはおよそ100円前後だった。
それが2025年末現在、150円から160円のレンジで推移している。

これは何を意味するか。

日本円の対ドル購買力は、この数年でおよそ3割から4割低下した。

同じ1兆円でも、数年前と比べれば3割から4割分、中身が抜け落ちている。

防衛費を数兆円積み増したところで、ドル換算すれば何が起きているか。
答えは単純だ。

増えたように見えて、実質的には削られている。

日本は『回すだけで金が消える国』

さらに、日本の防衛コストを押し上げている根本要因がある。
それは、日本の防衛が運用しているだけで支出が発生し続ける構造になっていることだ。

まず、人件費が高い。

自衛隊の人員は、自衛官約24.7万人に文官約2.1万人を加え、合計で約27万人規模に達する。
これは日立グループ全体の社員数に匹敵する人数である。

だが、決定的な違いがある。

自衛隊は営利組織ではない。
当然のことながら、利益は一切生まない。
製品を売ることもなければ、サービスを請求することもない。

要するに、27万人分の給与は、すべて防衛費からの純支出である。

ここに再投資も回収も存在しない。
あるのは、維持する限り続く固定費だけだ。

燃料も高い。
艦艇、装甲車両、航空機。
いずれも大量の燃料を消費する装備を常時運用している。
基地で使う自家発電用燃料も、すべて購入だ。

電力も高い。
レーダー、通信設備、情報処理システム。
自衛隊基地は、典型的な大口電力消費施設である。

訓練を回せば金が飛ぶ。
だが、訓練をせず、スタンバイしているだけでも金が飛ぶ。

27万人が生活し、勤務し、待機するために必要なエネルギー量は、すでに一つの地方都市に匹敵する。

これは技術力の問題ではない。
装備性能の話でもない。

調達と運用の構造そのものの問題である。

では、中国軍の人件費はなぜ同じ議論にならないのか

理由は単純だ。
人件費が『同じ性質のコスト』ではないからである。

1.絶対額の前に『単価』が違う
中国人民解放軍の兵士の給与水準は、日本の自衛官とは前提がまったく違う。

都市部のホワイトカラーと比べても低く、地方ではなおさらだ。

同じ一人を一年維持するコストでも、日本は、先進国型の公務員人件費。
中国は、新興国型の大量人員コスト。

この時点で、人数が同じでも予算に与える圧力はまったく異なる。

2.中国軍の人件費は『固定費』で終わらない
日本の自衛官は、給与を受け取り、退職すればそこで終わる。

一方、中国では、兵役経験が準軍事的人材プールになる。
国有企業やインフラ、治安組織に再吸収される。
非常時には即座に動員可能。

つまり中国では、軍人の人件費が国家の人材投資として循環する。

日本のように『支払って終わり』ではない。

3.人件費が防衛費にすべて乗っていない
ここが最も語られにくい点だ。

中国では、『住宅』『医療』『教育』『年金』『家族支援』といったコストの一部が、軍事費とは別の国家勘定や地方財政に分散している。

一方、日本では、自衛隊員に関わるコストの大半が、防衛費に正面から計上される。

結果として、日本では、人件費が防衛費を直撃する。
中国では、人件費が国家全体に薄く分散する。

この差が生まれる。

4.だから中国では『人件費が重い』という議論にならない
中国軍の人件費は、単価が低く、国家経済に吸収され、防衛費に全面的には現れず、さらに、『量産型装備』『低コスト運用』『大規模訓練』と組み合わさる。

結果として、人件費が戦力拡大のボトルネックにならない。

まとめ

日本では、人が多い=人件費が重い=防衛費を圧迫する

中国では、人が多い=動員力が増える=国家資産が増える

同じ『人件費』という言葉を使っているが、中身はまったく別物だ。

日本の人件費は固定費だが、中国の人件費は流動資産である。

だから、日本では27万人が重荷になり、中国では数百万が前提条件になる。

同じ議論にならない理由は、ここに尽きる。

ここで突然だが、オーディオの話をしよう

ここまで読んできた方の中には、『これは防衛予算反対か、反戦運動のコラムか』そう感じた人もいるかもしれない。

だが、正直に言えば、私にとってその手の立場表明はどうでもいい。

実はこの記事、『#買ってよかったもの』ハッシュタグコンテストの応募作品である。

拍子抜けしただろう。
だが、ここからが本題だ。

中華オーディオは、値段の付け方が壊れている

私は最近、いくつかの中華オーディオを購入した。
DAC、ヘッドフォンアンプ、電源周り。
どれも、驚くほど出来が良かった。

だが、本当に驚いたのは性能ではない。
価格である。

日本製オーディオと比べると、消費税10%どころか、その半分の5%程度。

つまり、中華オーディオの価格は、日本のオーディオの二十分の一という世界だ。

正直、最初は疑った。
『どうせ安かろう悪かろうだろう』と。

だが、現実は違った。

具体例を挙げよう

送料・税金込みで約5,000円のAIYIMA DAC-A5 PRO(24bit / 192kHz対応USB DAC)。

これに、9,000円以下のxDuoo MT-602 Class A 真空管ヘッドフォンアンプ。

真空管は付属の中華管でも悪くない。
だが私は、2,350円で入手したロシア製高信頼EVタイプ軍用管 6Ж1П-EB に差し替えた。

ヘッドフォンは、4,000円以下のSuperlux製セミオープン型 HD681。

この構成である。

正直に言う。
Sennheiserの有線ヘッドフォンより音が良い。

『#買ってよかったもの』の正体

では、何を買ってよかったのか。

答えは明確だ。
ロシア製の軍用真空管である。

この数千円の真空管が、4,000円クラスの中華ヘッドフォンを、4万円台のSennheiserやBOSEよりも良い音で鳴らしてしまう。

しかも挙動が面白い。

通電直後は音が出ない。
温まるにつれて音が立ち上がり、時間と使用を重ねるほど音が変わる。

これはオカルトではない。
物理だ。
材料と設計と使い込みの話である。

武器製造も、同じ構造ではないのか

ここで、嫌な連想が頭をよぎる。

オーディオは、半導体、電源、筐体、熱設計、量産ノウハウ。
要素技術の集合体だ。

兵器も同じである。

中国は、
・人件費が安い。
・電力が安い。
・部材調達が国内で完結しやすい。
・最初から量産を前提に設計する。

つまり、性能を落とさず、徹底的に安く作る文化を持っている。

一方、日本はどうか。

・職人品質。
・完璧な仕様書。
・少量生産。
・政治配慮だらけの調達。

その結果、生まれるのは、一品モノの超高級兵器である。

中華オーディオが『実用品として最適化された工業製品』だとすれば、日本の防衛装備は『予算消化のための工芸品』に近い。

だから、9兆円でも足りない

ここが本稿の核心だ。

日本は、兵隊が高い。
燃料も電力も高い。
しかも武器まで高い。

三重苦である。

一方、中国は、同じ軍事費でも人件費が安く、運用コストが低く、装備は量産で安い。

だから、36兆円という数字は、現実を説明する数字ではない。
誤解を量産する数字だ。

結論 日本は『高級戦争』しかできない

日本は、効率化しても、デジタル化しても、構造的に戦争コストが高い国だ。

中華オーディオを使っていて、私は確信した。

日本は『安くて数を揃える』という発想が、もう体質的にできない。

防衛費を9兆円、10兆円と積み上げても、それは安心材料にはならない。

寧ろ、高級な装備を、少量ずつ、慎重に使う国であることを再確認しているだけだ。

どんぶり勘定は、経営でも危うい。
まして戦争なら、最後に残るのは勝利ではない。

請求書と、在庫切れである。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集