『監視社会』とは何か? AI無知倫理学の視点から
AI無知倫理学は、国家、社会、企業、専門家、個人における『AI無知』問題を調査・分析し、解決策を提示することで、AIの健全な発展を目指す実践的な学問です。
そこで本稿では『監視社会』の『無知問題』について、考察してみましょう。AI無知倫理学会のnote愛読者の皆様は博識な方が多いので『監視社会』を論じるのに改めて以下のような哲学者や思想家や小説家や『パノプティコン』や『1984』について説明する必要はないでしょう。
トーマス・ホッブズ:ホッブズは『リヴァイアサン』で、人間の自然状態を『全ての人が全ての人に対する戦争状態』と表現し、強大な中央権力(リヴァイアサン)が必要であると論じました。
ジョン・ロック:ロックは『生命、自由、財産』の自然権を説き、権力の制限と法による統治を提唱しました。
ジョン・スチュアート・ミル:ミルは『自由論』で、個々人の自由と社会全体の利益との間のバランスを求め、自由の原則を提唱しました。
ジェレミー・ベンサム:ベンサムは『パノプティコン(全方位監視刑務所)』の概念を提唱し、規範と権力のあり方について考察しました。
ミシェル・フーコー:フーコーはベンサムの『パノプティコン』を引用し、『規律社会』の概念を提唱しました。権力は『見えない』もので、社会全体に浸透しているという観念は、現代の監視社会理論に大きな影響を与えています。
ジョージ・オーウェル:『1984年』で描かれたディストピア社会は、全体主義と監視社会の警鐘となっています。
ところが、『特定分野の専門家の無知問題』の研究をしてみると『監視社会』のことを防犯・防災カメラや、工場の安全監視システムが普及した社会のことだと、勘違いしている人も少なくないことが分かります。
『AIに詳しい松尾豊さん』も、その一人で2020年になるまで『監視社会』が何だか分からずに、AI倫理問題を論じていたほどです。いまでも理解しているかどうか微妙なところですが、日本にはこのような『監視社会』に対する『無知』が蔓延っています。
東大松尾教授が「データ活用が遅れる日本」を良しとする理由
2020年05月21日 読了時間: 9分
(中略)
松尾 ITに対する理解が社会全体で低いこともあります。一方で、国が情報を握ったときにどういうことが起こるか。その心配がすごく大きい国なのだと思います。
『サピエンス全史』の著者として有名なユヴァル・ノア・ハラリ氏が「監視社会と地域の分断とのどちらを取るか」というニュアンスのことを言っています。監視社会、つまり国が力を持ちすぎることが本当にいいのか。一考すべきテーマです。
僕も、少し前だったら「データ活用を推進すべきだ」と言っていたと思います。でも最近は逆に、データ活用を推進する方向が強くなりすぎると、いろいろな問題が生じかねないと考えるようになりました。データが統合できていない日本の現状は、ある意味では「あり」なのかなと。
一般読者向けに『監視社会』問題を説明するのであれば、ジョージ・オーウェルの1984か、トーマス・ホッブズ、ジョン・ロック、ジョン・スチュアート・ミル、ジェレミー・ベンサム、ミシェル・フーコーあたりで説明すれば分かり易いのに、なぜ、AIに詳しい松尾豊さんは、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが2011年にヘブライ語で出版した『サピエンス全史・文明の構造と人類の幸福』を中途半端に引用して説明する必要があったのでしょうか?
イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが2011年にヘブライ語で出版した『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』
2020年の少し前の2016年のAIに詳しい松尾豊さんの主筆寄稿文
「人工知能学会・情報処理学会共同企画─第 3 部「技術紹介」─」
人工知能と倫理
Artificial Intelligence and Ethics
松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科
AIによる監視社会の何が問題なのか?
AIに詳しい松尾豊さんのバイアスの掛かった説明を鵜呑みにすると、AI倫理問題を正しく把握することが困難になると思われますので、簡単に説明します。以下の概念は既に背景知識や用語説明などで、説明してありますので、興味のある方はご覧いただけると幸いです。
プライバシー侵害:『監視社会』では、個人の行動が監視カメラ、GPS、データトラッキングなどによって常に記録されています。これは個人のプライバシーを大きく侵害し、秘密や個人的な空間がほとんどなくなる可能性があります。
自由の制約:監視が過度になると、人々は行動を自由にすることを恐れるようになります。これは言論の自由や集会の自由を含む基本的な人権を制約する可能性があります。
不平等:監視はしばしば不平等に行われます。社会的に弱い立場にある人々やマイノリティは、特に監視対象となる可能性があります。
データの乱用と悪用:監視によって収集されたデータは、政府や企業によって悪用される可能性があります。これにはプロファイリング、ディスクリミネーション、または個人の選択を操作するためのマーケティングなどが含まれます。
無意識の自己検閲:監視社会では、人々が行動や発言を自己検閲し、社会的な規範から逸脱しないように無意識に努力する傾向があります。これは創造性や新しい思考を抑制し、社会的な変革を妨げる可能性があります。
『監視社会』と『基本的人権』の関係について
『監視社会』は『基本的人権』とも深い関わりがあります。しかし、中学校の社会科で習うレベルの『基本的人権』の意味すら理解していない人が、世の中には大勢います。
基本的人権の概念は、時代や国や地域によって大きく異なりますが、以下のnoteに書いてある『自由権』の意味が分からないというご意見をいただいたので、自由権がなぜ大切なのかについて、噛み砕いて説明します。
ヤクザの社会では服役することを『お務め』や『お勤め』と言います。日本語的に正しいのは、刑務所で生活することなので、『お務め』が正解のはずです。しかし、ヤクザの世界では服役は業務の一環なので『お勤め』でも間違いではありません。
ヤクザの場合は、組織の利益のために自ら進んでお勤めすると、キャリアとして認められるので、好んで服役するヤクザも実在するようですが、一般人が服役したくない最大の理由を考えると『自由権』が如何に大切なものかが理解できるでしょう。
「ヤクザになって社会に迷惑をかけるかもしれない存在だから、警察に逮捕されて裁判所で結論が出たらそれに従う。控訴していつまでもぐずぐずしているより、潔く服役するのがお勤めだ。それが渡世人というもの。ヤクザはムショ暮らしと背中合わせ。服役もヤクザとしての業務の一環のようなものだ」(住吉会系幹部)
刑務所に服役すると一番困ることは『自由の喪失』であり、刑務所の目的は囚人の自由を奪うことです。囚人の行動は厳しく制限され、外の世界との接触は大幅に制約されます。家族や友人と自由に接触することや、職業選択の自由も制限されます。
完全に自由や人権が剥奪されないのは、囚人に対する虐待や、非人道的な扱いや、拷問などが『国際人権法』によって禁止されているからです。
このような『国際人権法』を無視した刑務所としては、アメリカが使っているガンタナモ刑務所が有名ですが、他にもイスラエル、北朝鮮、中国などにも、国際人権法を無視した刑務所は世界中にあります。
『国際人権法』による人権が保護されている日本国内の刑務所でさえ、プライバシー権も著しく制約され、個人の物理的空間、通信の秘密、個人的な情報は常に監視と管理の対象となります。
プライバシー権の重要性を説明しても理解できない人が多数いますが、この問題を極めて簡単に説明すると、なぜ自分が風呂やトイレに入っているところや、裸を覗かれたくないかを考えればプライバシー権の重要性が分かるでしょう。
