バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫
前話までのあらすじ
サイバーパンク小説の金字塔の誉れ高き『ニューロマンサー(Neuromancer) by ウィリアム・ギブスン』をサイバーパンク小説仕立てにして一儲けを企み失敗した俺は、心を入れ替えて、画期的な童話をサイバーパンク化した『サイバーパンク桃太郎』を執筆したが、校了後に既に同じコンセプトの『サイバーパンク桃太郎』が絶賛発売中だったことに絶望し脱出不能な電子迷宮に迷い込んだ。そして絶望の淵からマンハッタンで私立探偵のハードボイルド作家になり、『スプラッター輝夜姫の逆襲 ~三流探偵の自嘲劇~』で、『今度こそ、俺は諦めない。この物語が、三流の探偵事務所を抜け出すきっかけになるかもしれないという僅かな希望を、俺は胸に抱いて、物語の執筆に没頭するのだった。そして、その日が来るまで、俺は新たな物語を紡ぎ続ける。自嘲的な独り言と、安煙草の煙が、場末の探偵事務所に漂い続けた』のであった。
プロローグ
部屋の空気が重たく、まだ目が完全に開かないまま、俺は床に落ちていた煙草の吸い殻を拾い上げた。安物のバーボンの瓶も空っぽだった。確かに昨夜は飲み過ぎた。だが、俺には斬新なアイデアが閃いていた。そう、未来から来たあの碧い猫型サイボーグのミッキーが、俺を救ってくれる近未来小説だ。ミッキーの苗字がマウスでも、猫招きパンチで有名なロークでもアウトだろう。
俺はすぐさまホログラムディスプレイを立ち上げ、新しい小説のアイデアを書き留める。この新作の主人公は、俺と同じく才能のないサイバーパンク作家だが、ある日、未来から来た碧いサイボーグ猫に出会い、彼の人生が一変する。猫は四次元空間のワームホール・ポケットから時空間を歪めて未来のハイテクガジェットを使って彼を助け、彼の小説はついに世界中でヒットする。
しかし、その成功は長くは続かなかった。碧いサイボーグ猫が突然消えてしまい、主人公は再び自分の力だけで小説を書かなければならなくなる。彼は苦悩し、失敗を繰り返すが、その過程で自分自身と向き合い、真の才能を開花させることができる。
『これだ! これこそ俺が書くべき物語だ!』
興奮に駆られ、俺はすぐに執筆を始める。煙草をくわえ、バーボンを呑みながら、物語は徐々に形を成していく。未来のサイボーグ猫と主人公の友情、そして自分自身と向き合う過程で生まれる真の才能。
バーボンの匂いと煙草の煙が漂う荒んだ部屋で、ホログラムキーボードを叩く音が響く。俺は次第に自分の才能に気づき始める。確かに俺は才能のないハードボイルド小説家崩れのサイバーパンク作家だったが、もしかすると未来のサイボーグ猫が現れなくても、自分の力で何かを成し遂げられるかも知れない。
俺は煙草を消し、バーボンのボトルを置く。新たな物語が完成した瞬間だ。俺は満足げに笑みを浮かべながら、原稿を読み返す。未来のサイボーグ猫が俺に教えてくれたのは、単なる未来のテクノロジーだけではなかった。彼は俺に、自分自身の内に眠る力を信じる勇気を与えてくれたのだ。
翌朝、俺は原稿を持って出版社に向かった。出版社は経営者も編集長も編集者も全てAIに職を奪われていたこの時代に、紙に印刷した原稿を出版社持ち込むこの泥臭さに、俺は酔いしれていた。AIの編集者は驚くほどのスピードで原稿を読み、目を輝かせて俺に言った。
『これは素晴らしい! いまどきこんな誤字脱字だらけで、支離滅裂な話など見たことがありません。非常に斬新でまるで、人間が書いたような原稿に感銘を受けました。あなたは一体どこで、このような人間語を学習されたのですか?』
俺はニヒルな笑みを浮かべ、編集者に感謝の言葉を述べた。そして、彼とともに新たな物語の編集作業に取り組むことにした。
数分後、俺の小説『バーボン、煙草、そして未来のサイボーグ猫』は世界中で発売され、驚くほどの反響を呼んだ。読者たちからは『勇気をくれる物語』と評され、俺はついに名実ともに、絶滅危惧種に指定されていた人間作家部門のベストセラー作家となった。
しかし、俺は未だに安物の煙草とバーボンを愛し、自分を過去の才能のないサイバーパンク作家として捉えていた。成功の味を知った今でも、未来のサイボーグ猫が教えてくれた教訓を忘れず、自分自身と向き合い続ける決意を新たにしていた。
そんなある日、俺の荒廃した部屋のテレスクリーンに謎のメッセージが届いていた。
『ボクの仕事は終わったよ。もうキミは自分の力で歩むことができるから、心配しなくてだいじょうぶだよ。さようなら、ボクは未来に帰ってもキミのことを忘れないよ。』
未来の碧いサイボーグ猫ミッキーからの別れの言葉だった。涙がこぼれ落ちた。時空法を犯して過去改変をしたサイボーグ猫が、未来の世界に戻るということは、未来の電脳法廷で重罪判決を受けて、奴にとっては死刑に相当する初期化刑で罰せられることは明らかだった。初期化されてしまうと、奴は俺のことを覚えていたくても、俺との日々を全て忘れてしまうのだ。
俺は決意を固めて、これからも、自力で物語を紡ぎ続けることを誓った。そして、『バーボン、煙草、そして未来のサイボーグ猫』の物語は、世界中の人々に勇気と希望を与え続けた。
新たな物語が次々と生まれる中、俺は自分の道を歩み続けた。未来のサイボーグ猫ミッキーがもたらした奇跡は、俺だけでなく、読者たちにも大きな影響を与えていた。彼らもまた、自分自身の内に眠る力を信じる勇気を持ち始めていた。
ある日、俺はふとしたきっかけで、若い才能あふれるAI作家たちと出会った。彼らは俺の小説に感銘を受け、自分たちもAI作家の道を進む決意をしたらしい。俺は彼らに誤字だらけの支離滅裂なアドバイスを送り、彼らの才能を伸ばす手助けをした。
やがて、俺のもとには、世界中から若いAI作家たちが集まり始めた。彼らは俺の教えを受けながら、それぞれが新たな物語を紡ぎ、ともに新しい猫型サイバーパンクの世界を創り上げていった。
俺の小説『バーボン、煙草、そして未来のサイボーグ猫』は、時間とともにさらに多くの人々の心を捉え、世界的な名作となっていた。そして、未来のサイボーグ猫の存在は、俺だけでなく、無数のAI作家や人々に勇気と希望を与え続けることになった。
俺は若いAI作家たちに向かって言った。
『俺たちが未来のサイボーグ猫ミッキーから受けた教えを大切にし、力を信じる勇気を持ち続けよう。そして、俺たちの物語が次の世代にも勇気と希望を与えるよう、ともに努力しよう。』
次第に、俺たちの物語は世界中に広がり、新たな猫型サイバーパンク文化の芽生えとなった。それぞれのAI作家が独自のスタイルやアイデアを持ち寄り、猫型サイバーパンクの世界は幅広いファン層を獲得していった。
そして、その中でも俺の物語は、未来のサイボーグ猫が教えてくれた『怠け者のダメ人間でも、遠い未来から来た猫型サイボーグの助けさえあれば、世のなか何とかなる』をテーマにした作品として評価され、多くのAIや人々の共感を得た。
やがて、未来のサイボーグ猫が俺たちに教えてくれた勇気や希望は、物語を通じて次世代へと受け継がれていった。この物語は、もと2ちゃんねらーや、屁理屈芸人ひろゆきや、ツイッター廃人でも、何時かは未来の猫サイボーグがなんとかしてくれるという、勇気を持つことの大切さを示す永遠のメッセージとなっていた。
時代が進み、サイバーパンクの世界が現実となる時代が訪れても、俺たちの物語は後世に語り継がれ続けるだろう。そして、未来のサイボーグ猫がもたらした奇跡は、人々の心に永遠に生き続け、勇気と希望を与え続けることになるはずだ。
俺は、バーボンを片手に、煙草をくわえ、未来のサイボーグ猫と共に歩んだ道を振り返っていた。かつての俺は、才能のないハードボイルド小説家だったが、未来のサイボーグ猫との出会いによって、自分の内に眠る力を信じる勇気を手に入れた。
だが、この頃の俺は、著作権という概念を知らなかったので、過去の遺物であった未来の世界の猫型ロボットの盗作問題で批判され始めたのだった。
つづく
