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原罪の遺物【短編小説】

ポロン…ポロロン……

静かなピアノの
旋律と共に
心の階層を
降りてゆく

「ここは、平気みたい。」

君と手を繋ぎながら
ひとつひとつ
思い出の安全性を
確かめるように

階層を下る度に
ピアノの音に
ノイズが混ざる

「っ……ここから先は、」
こわい───

そう口にする前に
君はそっと
夜空のマントを
私の肩に羽織らせてくれた

『これで大丈夫、
絶対に見失ったりしないから』

繋いだ手に
ギュッと、力がこもる

分かってる
わかってるんだ

自分の過去からは
どれだけ目を背けても
逃れることはできない

“今こそ”
向き合うべき時なんだ

「大丈夫、分かってるから。
ちゃんと進むよ、君の為にも。」

崩れ落ちてゆく
ピアノの鍵盤

不旋律は響き続ける

光で透けていた
螺旋の階段は
闇に溶けて歪み

足場なんて
もう見えなかった

それでも
向き合わなければならない

私の原罪と

背負い続けてきた
過去の遺物を
在るべき処へ
還すためにも

腕の中で蠢く
君の残穢に
涙が零れ落ちる

「……ちゃんと還ろうね」

見えない階段を前に
恐怖心で喉が鳴る

拒絶されている?

いや──
拒絶しているのは
わたし自身だ

誰にも触れられたくない
私自身すら触れられなかった
最後の扉

君は衰弱するように
その存在ごと透け始めていた

『ここ…入りたいの……?』

不安そうな瞳で
私を見上げる君

「大丈夫、怖くないよ」

今度は私が
君からもらった
夜空のマントを
そっと肩に羽織らせる

「絶対に見失わない。
約束する。
だから……ね? 行こ?」

私の言葉に応えるように
君は小さな子どもの姿へと
巻き戻ってゆく

重たい扉を
ぐっと押し開け

視界に飛び込んできたのは

あるはずだった
心の安全基地

けれどその安全基地は
いつの間にか
他者と築くものじゃなく

自分ひとりだけの
秘密基地になっていたね

でも、もう大丈夫だから。

腕の中で産声をあげる君を
そっと、心のゆりかごに乗せる

本当は
無条件に、ひたすら
抱き締められたかったよね

ただ、愛されたかったよね

不協和音がふっと止み
部屋は純白に包まれてゆく

ずっと忘れてしまっていた
無邪気で
屈託のない笑顔

嫌だ、怖いと
人目も憚らずに
泣きじゃくる強さ

もっと、もっと
たくさんの我儘を
君と共に知っていきたかった

「ごめんね。
無視をし続けて、ごめん…」

涙を溜めた
幼い君は
最後に

小さく首を傾げる

『もう……こわいない?』

「うん、怖くないよ。
道が分からなくても、
帰るべき場所は
もう分かっているから。」

埃をかぶったおもちゃ
色褪せた絵本

ここにいるはずだった“君”が
不在にしていた
その時の長さが

埃の厚みとなって
私の胸に突き刺さる

「ありがとう、支えてくれて。
いっぱいごめんね。でもね……」

本当はね
何にも染まっていない
無垢なあなたが

ずっと羨ましくて
ずっと、ずっと──
大好きだったよ

#詩 #ポエム
#掌編小説 #小説

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