藤井 風「罪の香り」より
ポマードと化粧の匂いが混ざりあい、絡みつくほど充満するステージ裏。
重く、古びたカーテンをかき分け、コツコツと踵をならしながら、あんたはステージへ出ていく。
ステージ下の男と女たちは、酒で爛れた声をあげ、あんたには目もくれない。
ポマードを塗りつけたオールバックの髪を長い指で丁寧に撫で付けて、あんたはピアノの前に座る。
祈るようにどこか遠いところを見上げるあんたの横顔。
少しひそめた濃い眉。
睫毛がつくる深い影。
溢れるほどの光を湛えた瞳。
少し開いた唇。
どうしようもない男の横顔が、こんなに儚く見える。
あんたの周りだけを取り囲む、ピンと冷たく張りつめた空気から、
ふっと息を吐くように響く甘いピアノの音。
心と身体が、奥の方から、ぎゅっと抱きすくめられる。
暗い客席の男と女たちは、
ざわめきを止め、あんたの方を振り向く。
ああ、そうだった。
あんたの奏でるこのピアノの音が好きだった。
その綺麗な指で優しく、時には突き放すように、あんたの思いのままに歌うピアノになりたいと、本気で思った。
でも、あんた好みのあたしでいることは、
もうやめた。
あたしは、ほんとのあたしで生きていく。
あたしはあたしの歌をうたう。
背中のファスナーくらい、ほんとは自分であげられる。
「罪の香り」より
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この曲を聴くたびに、いろいろな感情や情景が渦巻いてしまいます。
以前、同じ曲で年上彼女の作品も書きましたが、
やっと、次のひとつがかたちになりました。
