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偶然を創る男【創作短編】

「聞いた?美咲が達也さんと出会った時の話」
「聞いた聞いた!駅で変なヤツに絡まれたのを助けられたってやつでしょ?」

披露宴でのお酒のせいか、後ろを歩く女性達の声は大きく、聞き耳を立てなくても内容が自然と頭に入ってきた。

「そう!しかも美咲は、その日たまたまいつもの電車に間に合わなくて1本遅れたらしいの。それがあったから、達也さんと出会えたんだよね」
「もう、運命じゃん!」
「ね〜!」

…運命、ねぇ。
前を歩くこちらからは彼女達の顔は見えないが、きっと素敵な夢でも見ているかのような遠い目をしているのだろう。
結婚式の二次会というものに参加するのは、20年ぶりくらいか。会場のバーのガラス戸に映る初老男性の白髪が、今日は妙に目立っている気がして慌てて顔をそらした。
お店は、ライブハウスのようなフロアになっていた。少し暗めな照明のおかげで、知り合いがいなくても何とか過ごせる。とりあえず、カウンターでボウモアのロックを頼んだ。

しばらくすると、新郎新婦が登場した。ステージに上がって着席すると、参加者から大きな拍手で迎えられた。空手家のくせに控えめな新郎と、綺麗でおしとやかな新婦。お似合いの夫婦だと思う。新郎がこちらに気付き、思わず席を立つ。こちらは「気にしなくていい」という意味を込めて笑顔で頭を横に振った。

高梨たかなしさん!」

トイレで手を洗い終えたところで、後ろから声がした。

「これはこれは、本日の主役の登場ですね」

「二次会まで来ていただけるなんて。本当にありがとうございます!」

東達也ひがしたつやは、深々とお辞儀をする。

「いえいえ、私の仕事がこんな素敵な結果につながるなんて、とても嬉しいですよ」

温かな言葉をかけたつもりだったが、彼の表情は少し曇った。

「俺、今とても幸せです。でも、ズルをしたようで…」

彼が私の元を訪れたのは、約1年前。どうしても付き合いたい女性がいるから、きっかけを創ってほしいという依頼内容だった。異性と積極的に話せない男性だが、空手という特技があるという。私はそこに目をつけた。

偶然は創れる。

私の仕事におけるモットーだ。その創った偶然を積み重ねた結果が、時に運命的だとか言われたりする。私からすれば手品と同じ。タネがある。
対象者のルーティンをズラし、そこでトラブルを演出し、依頼主が颯爽と現れて解決。何ともベタなストーリーだが、いざその場に直面すると仕込まれているとは誰も思わない。

「東さん。私はね、これまでたくさんの偶然を創ってきました」

彼は目線をこちらに向ける。

「きっかけを創ること自体は、さほど難しくはないんですよ。でも、この効果は本来長く保たないんです。一瞬の魔法に近い。その時だけ見ることのできる夢みたいなもので」

「でも、おかげで僕たちは結婚することができました」

「そこなんですよ、ポイントは」

ニコリとしながら、私は答えた。

「私は、きっかけを創ることができる。でも、できるのはそこまで。その後の展開は、依頼主次第なんです。つまり、出会って今日までの約1年は、あなたと美咲さんが一緒に作り上げてきたモノです。そこに私の存在は関係ない。ここまで辿り着けたのは、出会う以前から6年間も片思いを続けた、あなたの美咲さんへの想いがあってこそではないでしょうか」

彼は涙を堪えようとしているように見えたが、まぶたの縁はすでに赤く染まりつつあった。

「だから、東さん」

私は静かに息を整え、胸の前にそっと右手を添える。背筋をまっすぐに伸ばし、肩の力をふっと抜き身体を自然と前へと傾かせた。

「この度のご結婚、誠におめでとうございます」

顔を上げると、彼の頬を涙がゆっくり滑り落ちるのが見えた。

「どうか、これからも夢のような毎日が続きますように…って、トイレで言うセリフではありませんね」

東達也の泣きながら笑った顔が、今日見た中で一番自然な表情だった気がした。

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今年もやってきました「モノカキングダム」。
僕は去年から参加してます。締切りギリギリで、個人的な状況も色々とギリギリですが(笑)、今年も参加します。お祭りごとなので、ね。もはやM1みたいなものとして認識してます。

<モノカキングダム2025>
今年のテーマは「あい」。
文字数は1500字程度。
参加締切りは12月7日(日)23:59まで。

締切りまでもう少し!まだ参加できます。
興味ある方は、ぜひどうぞ!

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