第160話 【爆笑】「尊敬する人は?」で漫画のキャラを言ってしまった話
【もとしの爆笑日記 第160話】
1. 導入|最初の5行で、嫌な予感だけ置いていく
「尊敬する人は誰ですか?」
この質問を、27歳になってから真顔で聞かれる日が来るとは思っていなかった。
しかもその場は、初対面だらけの静かな空間。
笑って誤魔化せる雰囲気は、1ミリもない。
このときの俺はまだ知らなかった。
ここから数十秒後、取り返しのつかない赤っ恥が確定することを。
2. その日は、なぜか「ちゃんとした自分」で行こうとしていた
場所は、都内の小さな会議室。
時間は土曜の午後2時。
丸机が3つ並び、人数は8人。
全員、初対面。
俺・もとし(27)は、
その日なぜかやたらと気合が入っていた。
前日にシャツをアイロンがけ
靴も珍しく磨いた
髪もワックスつけすぎないよう調整
(今日は“普通にちゃんとしてる男”で行こう)
そう決めていた。
3. 自己紹介タイムが始まり、空気は意外と平和だった
司会の女性が言う。
「では、順番に自己紹介をお願いします。
お名前と、簡単な趣味と、尊敬する人を教えてください」
……尊敬する人?
一瞬、脳内で警報が鳴った。
(あ、これちゃんとした答え必要なやつだ)
前の人たちは、完璧だった。
「尊敬する人は両親です」
「職場の先輩です」
「努力を続けている友人です」
全員、正解例の見本市。
俺はうなずきながら、必死に考えた。
4. 頭の中で、答えを必死に探し始める俺
(尊敬する人……尊敬する人……)
会社の上司?
→ 思い浮かばない。
有名人?
→ 知識浅すぎて危険。
親?
→ 無難すぎて嘘っぽい。
そのとき、
なぜか脳裏に一番はっきり浮かんだ存在がいた。
(……いや、違う。
これは心の中にしまっとくやつだ)
俺は一度、その名前を脳内で却下した。
(大丈夫。27歳だぞ。
ここは現実的に行け)
一瞬、安心した。
5. そして、順番が回ってきた
「次、もとしさんお願いします」
視線が集まる。
8人分の視線が、一点に集まる独特の圧。
「えー、もとしです。27歳です。
趣味は読書と、朝の散歩と、プラモデル作りです」
ここまでは完璧。
うなずく人もいる。
空気は悪くない。
(よし、この流れで…)
「尊敬する人は──」
ここで、一瞬だけ頭が真っ白になった。
6. なぜか“考える前”に、口が動いた
(落ち着け、俺。
考えてから喋れ。
考えてから……)
そのはずだった。
でも、
沈黙が1秒、2秒と伸びる。
誰かが小さく咳をした。
その瞬間、
俺の口は、
脳の許可を取らずに動いた。
7. 口から出そうになった“それ”を、必死で止めたはずだった
(やめろやめろやめろ)
(それは言うな)
(それは心の尊敬だ)
(声に出すな)
必死にブレーキを踏んだ。
……はずだった。
なのに。
8. 空気が、ゆっくりとおかしくなり始める
俺が何かを言いかけた瞬間、
なぜか司会の女性がペンを止めた。
向かいの男性が、
少しだけ眉を上げた。
隣の人が、
俺の顔を一瞬だけ見て、すぐ逸らした。
(あれ……?)
この時点で、
俺の背中にはじんわりと嫌な汗がにじんでいた。
9. そして、決定的な“間”が訪れる
「尊敬する人は……」
そこから先の言葉が、
喉の奥で引っかかって出てこない。
でも、
全員が待っている。
逃げ場がない。
空気が、重い。
(頼む、無難なの来てくれ)
(せめて“親”って言え)
(今からでも修正しろ)
そう思った瞬間──
なぜか全員の視線が、俺に集まった。
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