静かな発明 No.008 | 忘れものブローチ~思い出すことは、思いなおすこと ~
朝、出かける前のほんの数秒。
玄関で靴を履くとき、
鍵を探したり、
身だしなみを気にしたり、
気持ちがまだ、部屋の中に浮いている
そんなとき、
このブローチがそっと光を灯す。
音は鳴らない。振動もしない。
だけどなぜか、胸元の“何か”が、静かに問いかけてくる。
「大丈夫? ほんとうに、持っていくものはそれだけ?」
傘かもしれない。
大事な資料かもしれない。
それとも――昨日、ちゃんと伝えられなかった「ありがとう」かもしれない。
わすれものブローチは、正解を教えない。
ただ一瞬だけ光って、
“何かが置き去りになっている”と、
自分の中の小さな揺れを映すだけ。
光はすぐに消える。
気づいても、気づかなくても。
問いかけたあとに答えがなくても、
それで、いいのだと思っている。
気づいた人だけが、少しだけ立ち止まる。
「あ…」と振り返る瞬間。
それは、カバンの中を見直すことかもしれないし、
スマホを開いて、昨日のメッセージを読み返すことかもしれない。
あるいは、深く息を吸って、
ほんの少し、余裕をポケットに入れなおすことも。
思い出すことは、思いなおすこと。
このブローチは、
「ちゃんと思い出してくれて、ありがとう」って、
胸元で一度だけ、うなずいてくれる。
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